ポストに入っていた不在票に、「またか」とため息をついたことがある経験を持っている人は私だけではないはずだ。

ECの普及による荷物量や再配達の増加によって、必要となる労働量が爆発的に増加している。配送料の値上げや人員の増加などの対策は進められているが、荷物量は増すばかりだ。

配送が抱えるこの大きな課題に、大荷主でもあるAmazonが挑んでいる。同社は物流インフラの構築から、エンドユーザが抱える“受け取れない”という課題の解決まで一手に引き受けようとしているのだ。

タダで宅配ボックスを設置してくれる気前のいいサービスがAmazonから

2017年7月、Amazonは宅配ボックス設置サービス「Hub」をリリースした。

Amazonにリクエストを出すと、集合住宅ではおなじみの宅配ボックスを「無料」で「希望した場所」に設置してくれる。写真の通り、見た目はおなじみの宅配ボックスそのもの。

近しいものではAmazonが海外で展開する「Amazon Locker」や楽天の「楽天BOX」があるが、いずれも設置場所は事業者と設置場所の所有者間で決定される。さらに受け取れる商品も、Amazonや楽天で注文した商品のみと限られてしまう。

Hubで設置される宅配ボックスは、Amazonの荷物以外を受け取る際にも利用できる上、設置場所は不動産や施設のオーナーが希望できる。2017年8月現在、申し込みは米国内で不動産や施設オーナーから受け付けている。

Amazonが取り除く“宅配の不確実性”

正直なところ、ユーザや住宅のオーナーにとって、Hubは“メリットしか”存在しないのではないだろうか。

同様のサイズの宅配ボックスをユーザ自らが設置する場合、かかるコストは数十万円は下らない。この費用を負担してでもAmazonが狙うのは、“宅配の確実性”の向上だと考えられる。

倉庫からユーザまで届ける宅配プロセスにおいて、不確実性を取り除くことは配送コストの低下とユーザの満足度に直結する。取り除くべき不確実性のなかでも、「ユーザが荷物を受け取れない」ことは、コスト面において大きな負債だ。

何度も訪問しては、不在票をポストに投函する配達業者。彼らのため息の数だけ、コストはかかっている。Hubの設置はこのコストを大幅に下げ、宅配の確実性を向上させる。

陸も空も、上流も下流も、全方位に広がるAmazon物流網

ユーザの商品受け取りの確実性を上げる「Hub」に加え、Amazonは物流プロセス全体の強化にも注力している。言うまでもなく、同社の主力事業であるECにとって物流は欠かせないパートナーだ。しかし、Amazonの取扱量が増えれば増えるほど、物流にかかる労働力やコストといった負荷は大きくなっていく。

物流大手のヤマトホールディングス株式会社では荷物数の増加に伴う従業員の長時間労が深刻化。未払いだった残業代の支払いや働き方改革にかかるコスト等の増大によって2017年1-3、4-6月期の連結営業損益は赤字が続く。

Amazonもビジネスにおけるボトルネックになりかねない物流に対して、さまざまな打ち手をこれまでも重ねてきた。

空路では大量輸送に対応する輸送用飛行機「Prime One」を配備しているほか、各宅へのドローンによる宅配「Amazon Prime Air」も世界各地で実証実験を重ねている。

陸路では、自社トラックの配備から宅配の一部を自社社員で担うように米国内ではなってきている。2015年には「Amazon Flex」という、一般人が宅配を代行するシェアリングサービスもリリース。自前での宅配網構築を空路陸路双方で進めている。

今回のHubは宅配網構築において、ボトルネックになるであろう受け取りの不確実性を取り除くことに寄与していく。Hubがあればユーザがどの時間帯にどれだけの荷物を受け取っているかといったユーザデータも取得できる。これらのデータは後々ロジスティクスの最適化に寄与することが期待できるはずだ。

出品、販売から出荷、配送、受け取りまで。ECにおける上流から下流まですべての工程をAmazonは自社で担おうとしている。陸路、空路さらには海路での輸送にも手を伸ばそうとしている。物流におけるさまざまな不確実性を排除し、周辺業界まで手を伸ばしつつ、盤石の体制を築くAmazon。ECの巨人は伊達じゃない。

img : Amazon