業界や業種といった発想に縛られていては、現代で価値を発揮することは難しい。だから、固定観念を捨てなければならない。
これまでやってきたこと、現在やっていることに縛られず、どんな価値を蓄積しているのかを把握し、その価値を軸にビジネスを展開していくのが現代の企業の戦い方だ。
世界では、それを示すような動きが始まっている。
料理動画レシピにおける動き
ニュース&エンターテイメントメディア「BuzzFeed」が展開する料理動画を届けるメディアブランド「Tasty」が、スマート調理器具「Tasty One Top」を発表した。
「BuzzFeed」は、2006年にジョナ・ペレッティにより設立されたメディア。2011年には、 Politicoに勤務していたベン・スミスを編集長として採用し、エンターテイメントコンテンツに加えて、ジャーナリズムやルポルタージュへと幅を広げて成長していった。2015年8月12日にはBuzzFeedとヤフー株式会社により合弁事業会社BuzzFeed Japan株式会社が設立され、日本でも展開を開始している。
「Tasty」は、Buzzfeedが展開する料理レシピ動画メディアだ。リリースから2年間で「Tasty」は成長を続け、Tubular Labsによれば世界のFacebookユーザーの4人に1人がTastyを視聴し、再生回数は月間23億にものぼるという。「Tasty」もTasty Japanというブランドで展開しており、2017年上半期に最も再生された動画は、約3,000万回再生、32万回シェアされている。
Facebook上の分散型メディアとしてスタートし、ユーザーを惹きつけ、料理レシピ動画のプラットフォームへと転換していったプレイヤーは他にも存在する。国内にも「DELISH KITCHEN」や「KURASHIRU」といった急成長中のプレイヤーが存在しているが、Tastyの動きは早い。
ユーザーの嗜好に合わせてTastyシリーズは拡大を続けており、「Proper Tasty」「Tasty Demais」「Tasty Miam」「Einfach Tasty」「Bien Tasty」「Tasty Vegetarian」「Tasty One-Pot」「Tasty Jr」といったブランドが生まれている。蓄積したノウハウを活かし、水平に展開を続けている。
メディアによるプロダクト開発
「Tasty」は垂直方向にも動きを見せた。リリースから2年を迎えた「Tasty」は、アプリと同時に「Tasty One Top」を発表。「Tasty」を見て調理するユーザーのために、調理器具を開発したのだ。
「Tasty One Top」は、Bluetoothを介して、iPhoneアプリ「Tasty」と直接連動する。「Tasty」に蓄積された1700以上のレシピと連動することで、ユーザーの調理をサポートする。
「Tasty One Top」は、鍋の表面温度と食品の内部温度を認識する技術を搭載。温度や時間等を計測し、パンケーキをひっくり返すタイミング、野菜を入れるタイミング、食すのに適したタイミングなどをユーザーに教えてくれる。
「Tasty One Top」のデザインは、BuzzFeed Product Labsが担当。開発にはGE Applianceの小会社でメイカームーブメントのアイデアや能力を活用するFirst Buildチームも協力している。BuzzFeed Product Labsは2016年10月に創設され、パーソナライズできるTasty CookbookからHomesick Candle、Tasty One Topなどの新商品まで、商品やソーシャルコマース体験の開発を行っているチームだ。
BuzzFeed Product LabsのトップであるBen Kaufman氏は、「Tasty One Top」について次のようにコメントしている。
「Tastyの強いブランド力と膨大な数のファンのおかげで、料理本からライセンスビジネス、消費者向けテクノロジーまで、拡大の可能性はほぼ無限大となりました。的確な調理を可能にする調理器具Tasty One Topで、新しい大きな一歩を踏み出せることを大変嬉しく思います」
同氏のコメントにもあるように、Tastyの幅は格段に広がった。この動きを支えているのは、ユーザー体験の追求だ。ブランド力やファン数も重要だが、それをどう展開していくかでも道は分かれてくる。ユーザーに求められる価値を提供し続けることで、ビジネスの幅を広げている。
その姿勢は、Tastyのアプリにも現れている。最新動画が視聴できるのはもちろん、自分の台所にある食材を使ってできる料理のレシピ検索も可能になっている。時間帯やイベント、難易度や所要時間、食事制限などの条件を指定したレシピ検索までできるようになっている。
この徹底してユーザーに合わせて一つ一つのサービスを開発し、そのサービス同士を接続させることが、さらなる差別化につながっていく。ユーザーを惹きつけ、ブランドを構築しながらサービスを水平にも垂直にも展開していくBuzzfeedの戦略には、学ぶことが多い。