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僕たちは、息を吸うのと同じくらい自然にインターネットを使っている。音楽を聴きたいと思えば、スマホのアプリを起動し、Spotifyを開く。映像が観たいと思えば、Netflixにアクセスする。インターネットにつながっていることで、コンテンツの恩恵に預かれる。
そんな環境が当たり前になっているからこそ、インターネットの恩恵に預かれない人のことを忘れてしまいがちだ。世界のインターネット普及率は2016年末の段階で、35億人を超えた。この人数は、世界人口の約47%にあたる。つまり、世界でインターネットに接続できない人はまだ40億人近くいるということになる。
インターネットに接続できない世界……想像できるだろうか?
人類のすべてにインターネットの恩恵を
「世界中にインターネットを届ける」
そんな壮大なビジョンを掲げながら、空にインターネット・ドローンを飛ばす企業がいる。Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)が率いるFacebookだ。
同社は2017年6月にFacebookの月間利用者数が20億人を超えたと発表した。これは世界の全人口の四分の一にあたる。すでに、世界のどの国家も超える数のユーザーを抱えているにも関わらず、その飽くなき野望は尽きない。より多くのユーザーにFacebookを利用してもらうため、同社はインターネットへの接続環境を届ける方法を模索している。
同社は、インターネット中継用の全翼ドローン「Aquila」を開発している。機体の全幅は約42mで、ボーイング737と同程度の大きさ。その重量はたった400kgほどしかなく、太陽エネルギーを動力として、空中を60日から90日間連続で飛び続けることができる。
インターネット接続環境が整備されていない新興国の空にドローンを飛ばすことで、その国でのFacebookユーザーを増やすことが狙いだ。
2016年7月に行った試験飛行では、96分間の飛行に成功したものの着陸に失敗。2度目の飛行試験となった2017年5月の挑戦では、無事に着陸することも成功したと、Facebookが発表した。
「インターネットの中立性」を損なうのではないかという懸念
世界中にインターネットを届けるという取り組みは、とても理想的で素晴らしいものだ。だが、Facebookの取り組みはインターネットの中立性の観点から批判もされている。
Aquilaは、マーク・ザッカーバーグが立ち上げた非営利団体「Internet.org」の活動の一環として開発が進められている。同団体は、インターネットの接続環境や経済的余裕がない人に対して、インターネットへのアクセスを提供するための活動をしている。
「Internet.org」はAquilaの開発の他に、「Free Basic」というアプリを提供している。同アプリでは、FacebookやWikipediaなどの十数個のサービスにデータ通信料を支払わずにアクセスできる。それ以外のサービスを使用とするとデータ通信量がかかるという仕組みだ。
限定的であっても、インターネットに接続できる環境を手にできたほうがいい。だが、アクセスできるウェブサイトが制限されていることは、インターネットの中立性を損ないかねない。Facebookのユーザー数が特に増えている地域のひとつであるインドでは、規制当局が「Free Basic」を禁止している。
より多くの人がインターネットの恩恵に預かれることは素晴らしい。だが、それが限られたプレイヤーによってのみ実現されることに対しては、抵抗する動きも見られる。こうした状況を変えていくためには、インターネットを世界に届けようとするプレイヤーが単体ではないことが重要だ。
インターネットへの接続環境を世界に広げようとする動き
実は、世界中の人々にインターネットへの接続環境を届けるようとしているのは、Facebookだけではない。インターネットの巨人、Googleは成層圏に中継装置を搭載した気球を飛ばすことで、インターネット環境を構築しようとする「Project Loon」という取り組みを行っている。
FacebookやGoogleのような企業たちでも、世界の40億人にインターネット接続を提供するための決定打にはなっていない。多くの人々がインターネットにアクセスできるようになることが望まれる一方で、数少ない大企業によるインフラ整備がうまくいっていないことは、喜ぶべきことかもしれない。
日本や米国にはインターネット接続環境を提供するプロパイダが複数存在している。そのため、接続環境が制限されたり、広告を見なけれならないのが嫌であれば、別の会社に乗り換えることができる。このように複数のプレイヤーが存在し、選択可能になることで、インターネットの中立性は保たれている。
世界の人々にも選択肢がもたらされるように、この先多くのプレイヤーが40億人にインターネットを届けるための挑戦に乗り出すことに期待したい。
img : Facebook