Amazonをはじめとしたオンラインショッピングの普及によって、私たちは必要なものを必要なときに購入できる生活にすっかり慣れている。ただ、「買い物」に求められるのは、最速かつ最安値で物を手に入れられる利便性だけではない。こだわりが詰まった店内で、厳選された商品をじっくり眺め、時には店員との会話も楽しむといった「体験」としての価値は変わらずにある。

若者の間では、消費全般において「物より体験」を重視する人が増えつつある。日本だけでなく米国のミレニアル世代も同様の傾向が見られる昨今、オンラインショッピングサイトはユーザーとオフラインで接点を持つ方法を模索している。その手法の一つが、実店舗を期間限定でオープンするポップアップストアだ。

AmazonにeBay、ECサービスがオフラインに実店舗を構える理由

オンラインショッピングの普及を牽引してきたAmazonも、実店舗の展開に積極的だ。昨年にはポップアップストアをアメリカ全土のショッピングモールに展開すると発表。2017年中には100店舗以上に規模を拡大する予定だ。ストア内には同社のハードウェアデバイスを体験できるコーナーも用意されるという。

米国のECサイト大手eBayも、2011年にロンドンでポップアップストアをオープン。デジタルカメラやテレビなど、ジャンルを問わず同サイトの人気商品を販売した。当時ディレクターを務めたMiriam Lahage氏は「オンラインの興奮をオフラインに持ち込みたかった」と述べている

日本国内でも、Amazonプライム会員向けのセール「プライムデー」に合わせ、日本で初めて「Amazonプライムポップストア」が六本木に登場。Amazon Prime Now専用アプリの体験ブースや、プライム会員向けのビデオストリーミングサービスをソファーに座りながら楽しめるコーナーも設置された。また、国産サービスでもネットショップ支援アプリ「BASE」が、昨年より百貨店のルミネ新宿LUMINE1にアクセサリーや靴のポップアップストアを出店、作り手とユーザーが直接出会える場を提供している。

店舗を介してユーザーと接するメリットは一体どこにあるのだろうか?ポップアップストア専門のデザインファームを設立したMelissa Gonzalez氏は、著書『The Pop Up Paradigm: How Brands Build Human Connections in a Digital Age』で次のように語る。

「ポップアップストアはカスタマーを魅了し、記憶に残るストーリーを語る場です。訪れる人はブランドの提示するライフスタイルを全身で体験する。通常の小売店を定期的に訪れるよりも、期間の限られた体験によってカスタマーはよりメッセージを強烈に植えつけられるのです」(筆者翻訳)

原宿に登場した「メルカリカフェ」で何が体験できるのか

ポップアップストアにコミュニケーションの場としての注目が集まる中、国内最大級のフリマアプリ「メルカリ」は、期間限定の「メルカリカフェ」をオープンした。場所は原宿の東京アパートメントカフェ内、7月20日から8月20日まで開催される。

メルカリ広報担当の小池綾氏は「流行の発信地である原宿・表参道エリアを選んだのは、認知度の最大化を狙ったためです」と話す。

足を運んでみると、学生たちは夏休みということもあってか、メルカリカフェの店内は若者を中心に賑わいをみせていた。

内装はメルカリのアプリを彷彿とさせるポップさが細部にまで溢れている。入り口にあるロゴを模した四角い箱のオブジェ、店員のエプロンや照明のカバーにいたるまで同社のこだわりが伺えた。

カフェ店内に設けられた「mercari play booth」ではメルカリでの出品・購入体験や、利用する際の悩みを相談できる。筆者が洋服を持参すると、サイズを測る方法や写真の撮り方、説明文の書き方を的確にアドバイスしてくれた。

たとえば、説明には服の寸法だけでなく、購入場所や着用した回数、重ね着の必要があるかどうかといった具体的な情報も、購入を検討する人が気にするポイントだそうだ。

mercari play boothでは、メルカリを使って商品の出品や購入を行なうと、メルカリカフェ限定のグッズをゲットできる。Tシャツやバンダナに加えて、メジャーや荷物の厚みを測るための定規など、メルカリならではのグッズが並ぶ。

mercari play boothのスタッフによると、ブースを訪れるのは夫婦やカップル、親子など2人組が多いとのこと。どちらかがすでにユーザーで、もう一人が初めて出品を体験する光景もよく見られたそうだ。

また、限定グッズを目当てに来店する方も少なくないようだ。筆者が出品体験をしている際も「Tシャツが欲しかった」と20代のカップルがブースで話していた。

もっと“身近”なサービスへ、メルカリがポップアップストアで実現したかったこと

メルカリがオフラインでユーザーと交流の場を設けるのは今回が初めてではない。2014年からフリーマーケット「メルカリフリマ」を全国各地で企画・運営してきた。

同社がポップアップストアの出店に至った理由はどこにあったのだろうか。前述の小池氏は「メルカリをより身近に感じてもらい、満足度の向上に繋げたい」と語る。

小池氏「メルカリをご利用いただいたことのない方には“始めるきっかけを与える場”を、既存ユーザーには“サービスに関するお悩みを相談いただける場”を提供したいと考えています。mercari play boothにメルカリスタッフが常駐しているのも、疑問やお悩みを直接解消できるようにするためです」

今回の反響によっては、今後もオフラインでのタッチポイントの展開や、常設型店舗も検討していく予定だという。

人間同士のやりとりや実店舗に足を運ぶ手間が省略されたからこそ、スマホ一つで全てが完結する便利なショッピング体験が実現した。一方で、ユーザーにとって身近な存在と感じてもらう必要性は、オンライン上のサービスであっても変わらない。

人を介したコミュニケーションの場となるポップアップストアは、オンラインショッピングサービスにとって、今後も重要な施策として位置づけられていくだろう。

望めばいつでもスマホから物を買える時代に、人が店舗へ足を運ぶには、どのような体験を提供できるかが肝になる。

ECサイトやショッピングアプリはオンラインを舞台に、快適かつ楽しく買い物できる場を構築してきた。今後もオンラインのプレイヤーが実店舗に参入する流れが進めば、ポップアップストアは新たな店舗体験を生み出していくのかもしれない。