引っ越しを機に、家具を買い直した。

引っ越す前の家具類はほぼ無印良品のもの。買い直すにあたり、そのほとんどをフリマアプリに出品したのだが、無印良品のものは驚くほど迅速、かつ高値で売れていった。

ほとんどの家具は4年近く使っていたのだが、家電から家具含め大体購入時の半値近くで売却できたのではないだろうか。

無印はなぜそこまで人気なのか。どこでも買える商品であっても、上手く展開することがブランド力の後ろ支えになっていく。

無印良品が銀座にホテルを作る

無印良品を展開する株式会社良品計画は7月5日、日本初の「MUJI ホテル(仮称)」を銀座3丁目に2019年オープンすることを発表した。同施設の設計・運営は、注目を集めたホテル「CLASKA」の立ち上げや「ホテル アンテルーム 京都」の設計・運営などを手がけたUDS株式会社が担当する。

良品計画はMUJIホテルを2017年後半に中国の北京と深圳に開業する予定を発表しており、銀座にオープンすればグローバルでは3店舗目、国内では初の開業となる。

銀座のMUJIホテルは、銀座3丁目に2019年にオープンする商業施設「マロニエ×並木読売銀座プロジェクト」内、地上6階〜10階に展開する。同ビルの地下1階〜地上6階には無印良品の世界最大規模となる旗艦店が入居予定。旗艦店にふさわしく1棟丸々無印良品のビルとなる予定だ。

世界各地に店舗を展開する無印良品にとって、インバウンド需要が見込める2020年を前に銀座に店舗を展開することは大事な役割を持つ。すでにブランドを認知している海外ユーザーを、ブランドを冠した宿泊施設へ呼び込むことが期待できるだろう。

MUJIホテルは何のため、誰のために存在するか

MUJI HOTEL

無印良品は、流通大手・西友のプライベートブランドとして生まれた。低価格でありながら不要な装飾などの要素を削ることで、高品質を担保することを目指したブランドだ。

MUJIホテルはコンセプトに「アンチゴージャス、アンチチープ」を掲げている。このコンセプトは無印良品のブランドが体現しようとしているコンセプトと限りなく近い。

MUJIホテルはまさに、無印良品の“ブランドコンセプトを体現する空間”になろうとしている。MUJIホテルで利用される家具やアメニティ類は無印良品ブランドのものを積極的に採用していくという。上階のホテルで気に入ったものを、下階の店舗で購入できるようになり、ショールームとしての機能も果たす。

前述したように、銀座のMUJIホテルは訪日観光客を1つのターゲットとしているのは明らかだ。ただ、ターゲットはそれだけでは無い。コンセプトやショールーム機能を有することからも明らかなように、MUJIホテルは無印良品の製品を日常的に愛用している一般消費者もターゲットの1つに据えているだろう。

元々、無印良品のブランドへロイヤリティの高い消費者に対して、無印の空間を体験することを提案している。以前紹介した、スノーピークが横須賀の観音崎京急ホテル内にオープンしたグランピング施設と同様に、購買意欲やロイヤリティの向上を狙える施設となるだろう。

垂直統合されていくブランドたちの行く末

MUJI

無印良品以外にも、スペイン発のファッションブランド「ZARA」はZARA HOMEという日用品ブランドを展開しているし、セレクトショップ「フリークスストア」ではインテリアや家具に加え、FREAK’S HOUSEという名の住宅の販売もはじめている。

これまでブランドによる統合は、同一商品や業種内で行われることのほうが一般的だった。例えば、株式会社ユナイテッドアローズでは年代やターゲット別に、「coen」「green label relaxing」「BEAUTY&YOUTH」「UNITED ARROWS」などと言った具合に、アパレルブランドを多数展開している。この展開方法は、1つの出版社から年代別に多様な雑誌を展開する一昔前のファッション誌などと同様だ。

無印良品は、業種や商品をまたいで展開する。無印良品は、誕生した当初日用品を展開するブランドだった。時代と共にラインナップは衣食住全体へと広がり、現在では自転車からキャンプ場、家、そして今回のホテルに至るまで幅広い商品展開を行っている。

衣食住に携わるライフスタイルブランドは、消費者の衣食住の全てに携わろうと、商品展開、事業展開を広げる。ブランド力が高ければ、ライフスタイルを一貫して取りに行くことは決して難しい話ではない。

無印の行う多様な商品展開は、顧客との接触機会を増加させブランドへのロイヤリティを担保し続ける上で大きな役割を果たす。ある分野で認知を得ているブランドであれば、他分野に展開しても「無印が運営するホテルなら、きっと大丈夫だろう」と信頼される。

選択肢や情報が増えすぎて、逆に選べない時代。選べない時代だからこそ、道しるべとなる役割が重要性を増している。インフルエンサーがフォロワーから信頼され、「あの人が買うなら」と人々の行動に影響を与えているのは、こうした背景があるのだろう。

これからのブランドは、「選べない消費者」に選択する理由を与える存在になっていくのかもしれない。この先、「ゆりかごから墓場まで」サービスを提供する、垂直統合されたブランドが出てきてもおかしくないだろう。個人的には「無印良品の墓」には是非お目にかかってみたい。

img: Charley Lhasa (CC BY-SA), 良品計画, martinvarsavsky (CC BY-SA)