先駆的なブランドはなぜ「野外フェス」でファンと交流するのか?新たな価値創出の場としてのフェス

“野外フェス”に行ったことはあるだろうか?

FUJI ROCK FESTIVALや、ROCK IN JAPAN FESTIVAL、SUMMER SONICなど、有名なフェスの存在は興味のない人でも駅やコンビニの広告で見かけたことがあるかもしれない。

フェスでは、複数のステージで同時進行する野外コンサートを中心に、飮食エリア、マーケットエリア、キャンプサイト、アート展示などが展開され、来場者はその中で自由に楽しむ。どのライブを見てもいいし、ライブを見ずにキャンプを楽しんでもいい。既存のエンタメと違い、自分たちらしく自由に楽しむことができるのが魅力だ。宿泊は、来場者がテントを張り、キャンプをすることが多いが、大型のフェスになると、日帰り客や近隣のホテルなどに宿泊する場合もある。

多くの場合、大きな公園やキャンプ場、スキー場、砂漠など、敷地としては何万人もの人を受け入れるキャパシティがある場所で開催されるが、水や電気、トイレなどのインフラは仮設のものを設置する。

言ってしまえば、野外フェスとは2〜3日限定の街を作り上げるようなものだ。

1980年代から日本で浸透し始めた野外フェスカルチャー

1960年代後半のアメリカではじまった野外フェスカルチャーは、1980年代から日本でも本格化し、1997年に開催されたFUJI ROCK FESTIVALを皮切りに、今では季節問わず毎週末どこかしらで野外フェスが開催されていると言っていいだろう。

ここ数年、サブカルチャーだった野外フェスが、メインストリームに躍り出てきた。例えば、氣志團やPerfumeがフェスを主催し、和田アキ子や八代亜紀、郷ひろみなど往年の歌謡スターもライブ出演する。

こういった事象の背景には、CDが売れない音楽業界が、ライブに活路を見出したことにある。出演するアーティストがビッグネームになれば、マスメディアにも露出するし、集客も増えてくる。

筆者はライター以外にもフェスの企画制作を仕事にしており(後ほど紹介する「earth garden」や「Natural High!」は制作メンバーの一人だ)、ここ数年で野外フェスの傾向に変化が生まれてきたことを感じる。

ブランディングとしての野外フェス

野外フェスというと音楽がメインであると思われがちだが、その価値は1泊2日ほどの長い時間の体験を提供できるということにあるだろう。音楽だけではなく、衣食住のほぼ全てに関し、主催者から提案できる余白がある。この余白に着目する企業も出てきている。

セレクトショップのURBAN RESEARCH DOORSが開催する「KNOCKING ON THE DOORS TINY GARDEN FESTIVAL」 という野外フェスは、ブランド設立10周年を記念して開催されたあと、毎年の恒例イベントになった。群馬県の嬬恋にある「無印良品カンパーニャ嬬恋キャンプ場」で開催されている。

URBAN RESEARCH DOORSは、アパレルだけでなく、食べ物や家具、本などをショップに並べるライフスタイルショップの先駆けでもある。1泊2日の体験を通じて音楽、食、雑貨、そして会場の飾り付けなどでブランドらしさを表現する。URBAN RESEARCHグループの他のブランドもフェスに出店させることで、グループ全体のプロモーションを行っている。

CHUMS CAMP」は、アウトドアブランドのCHUMSも独自に行っているフェスだ。山梨県のキャンプ場PICA富士西湖で行われる1泊2日のキャンプイベント。CHUMSは、アパレルだけでなく、テント、料理道具、バッグなどキャンプにまつわる様々なものを販売している。そのため、楽しいフェスの各場面でCHUMSグッズが登場する写真がソーシャルメディアのタイムラインに流れてくると、イベントに足を運んでいなくても、CHUMSを持ってフェスに行きたいと思わせる仕掛けになっている。ブランドのコンセプトにあった、密度の濃いファンイベントだ。

クラフトビールのよなよなエールで知られているヤッホーブルーイングも野外フェスを開催している。同社のマーケティングはとてもユニークで、顧客とのリアルなコミュニケーションをとても大切にしていることを、ご存知の人も多いだろう。

ファンとの飲み会イベント「宴」では、同社のスタッフが多数参加し、クイズや飲み比べを一緒に楽しみ、顧客の満足度が94%を超える。その拡大イベントとして、野外フェス形式の「超宴」を北軽井沢のキャンプ場スウィートグラスにて開催している。入場券にビール引換券がついているのは、このフェスならではの特徴だ。

ライブやキャンプと、ビールは相性がよい。このフェスに関しても、運営を同社のスタッフが担当し、まさに顧客とのリアルなコミュニケーションを取ることができている。ライブや、マーケットエリアを通じ、”よなよなエールらしさ”を具現化する手法は見事だ。今年の夏には神宮で「超宴」を開催するそうだ。

メディアとしての野外フェス体験

来場者との長時間のコミュニケーションは、ある意味メディアでもある。山奥に行けば携帯電話の電波も届きづらく、目の前のリアルな体験を楽しむ状況に、半ば強制的に没入していく。この体験にメディアも着目している。

媒体が開催する野外フェスとして人気なのは、メンズのアウトドアファッション誌「GO OUT」 が主催する「GO OUT CAMP」だ。静岡県富士宮市のキャンプ場ふもとっぱらのほか、全国各地で開催され、アウトドアブランドが多数出店し、新作のお披露目やアウトレット価格の販売などが好評だ。

アウトドアがテーマの雑誌ということで、国内外のアウトドアメーカーや車メーカー、キャンプグッズを制作するガレージブランドなど、様々な商品が展開される雑誌の中には広告記事も多く含まれる。紙面で紹介した商品を、イベントで実際に触って確かめることもできるし、イベントでの来場者の反応やキャンペーンの様子を雑誌のコンテンツとして再編集することもできる。

来場者のターゲティングも明確なので、広告出稿・出店がしやすい。余談だが、「GO OUT CAMP」の人気コンテンツとして、「キャンプ合コン」がある。高いカップル成立率で、すぐに参加予約が埋まってしまう。これも来場者のターゲティングがはっきりしているからこその人気だろう。

代々木公園で季節ごとに開催されているコミュニティフェスティバル「earth garden」 も、イベントと連動するフリーペーパーとウェブマガジンを運営している。ステージのライブのほかに、150から200を超える様々なクラフト作家や、小さなアパレルなどの出店が魅力だ。

フリーペーパーやウェブマガジンでは、出店者やアーティストの思いを深掘りしたインタビューなどを掲載し、よりイベントに深みを与えている。イベント開催の告知の役割も果たしていたり、出店者による小枠の広告への出稿によるマネタイズなど、イベントと媒体が有機的につながっている。

拡大志向からの変化

メインストリームカルチャーになった野外フェスは、その数自体が増加傾向にあり、集客を取り合っているような状況もある。そういった中で、お先に失礼と言わんばかりに、拡大方向からの変化する野外フェスも出てきた。

FUJI ROCK FESTIVALよりも長い歴史を持ち、今年で30年を迎える新潟の佐渡で開催している老舗の野外フェス「アース・セレブレーション」だ。佐渡を拠点に世界で活動する和太鼓集団鼓童が旗振り役となり開催してきた。

神社の裏にある山の上の広い芝生を使い、特設の野外ステージのライブを中心にしたイベントであったが、昨年からイベントのコンセプトを変更。メインのステージでのライブを廃止し、複数の小さなステージとワークショップを佐渡の中に点在させ、佐渡で開催していることを最大限に活かした地域密着型の複合アートイベントに変化した。

より深い地域貢献を目指したローカル野外フェスのお手本と言えるだろう。

集客の人数を絞るという方向性もある。山梨県道志村で開催している「Natural High!」は、全盛期2000人ほどの集客であったが、今年から500人に限定し開催することになった。ステージの数も減らし、運営も簡略化することで運営費を押さえることができる。

元々、キャンプ場の美しい自然を楽しんでもらうことに重きをおき、ファミリーの入場者も多いフェスだったので、混んでいない会場と自由度が増したキャンプ環境で、質の高い体験を提供することができる。地域おこし協力隊とも連動することで、地域密着型の野外フェスへの歩みを進めている。

お膳立てされすぎた体験はいらない

モノを買わないミレニアル世代にとって、楽しみは所有から体験へと変化した。企業がその事象に注目し、安易に野外フェスを利用できると考えているのではあれば、気をつけなければならないことがある。

野外フェスはカルチャーであり、パックツアーではない。ただ浴びるようにできあがった体験を通過するだけでは、ミレニアル世代は満足しないだろう。なぜなら、自分らしさやDIY、トップダウンではなくボトムアップで自分たちでつくっていく楽しみを知っているから。

野外フェスの広い敷地と長い開催時間、たくさんのコンテンツにより、主催者からコントロールされることなく自由に楽しみながら、主催者が用意した体験も同時に重ねていく。あくまでもベースは、来場者の意思だ。

雨がふるときもあれば、凍えるほど寒くなるときもある。予定調和とは程遠い体験の中で、自分たちでつくっていく楽しみの中に内包されるモノやその場所に特別な愛着が生まれる。野外フェスの根底にある、既存のルールや常識を乗り越えていくタフさと自由さを無視すれば、ミレニアル世代から冷ややかな目で見られてしまうだろう。

読者の中で行ったことがない人がいれば、ぜひ行ってみてほしい。期間限定の夢の街に圧倒されるはずだ。

img : Yvette de Wit, Aranxa Esteve, KNOCKING ON THE DOORS TINY GARDEN FESTIVAL, CHUMS, 超宴, GO OUT CAMP, earth garden, アース・セレブレーション, Natural High!

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