保険の歴史は長い。生命保険は、中世ヨーロッパの都市で組織された同業者組合である「ギルド」で始まったとも言われている。長い年月かけて人々を支えてきた仕組みにも、テクノロジーによる変化がもたらされようとしている。
保険とテクノロジーを融合した領域は、「InsTech(インステック)」と呼ばれ、さまざまなサービスが登場してきている。保険といってもさまざまだが、中でも人の健康に関わる保険については、ヘルスケアなど成長著しいテクノロジー領域と相性がいい。
最近、始まった取り組みも、ヘルスケアと保険を組み合わせたものだ。
保険加入者に健康管理アプリを提供
SBI生命保険株式会社と株式会社FiNCは、6月27日に健康管理や生活改善のための「FiNCアプリ」の提供を、SBI生命の保険加入者全員に拡大することを発表した。
これまで2社は、終身医療保険『も。』の加入者に限定してFiNCアプリを提供していた。しかし、2017年7月からは順次、『も。』以外の保険加入者に対してもFiNCアプリを提供し、アプリの利用者を増やしていく。
FiNCアプリではAIを駆使して、毎日の運動や生活習慣に関するデータをもとに健康に関するアドバイスが受けられる。そのほか歩数・体重・食事・睡眠時間などを記録するライフログ機能や、万歩計機能も備えている。
InsTech領域の中では、住友生命保険相互会社とソフトバンク株式会社が提携した動きも記憶に新しい。この提携では、ソフトバンクの持つIT技術を活用して、住友生命保険の保険加入者の健康データを収集。収集したデータは、「Vitality」という「健康チェック」「予防」「運動」に着目した健康サポートプログラムを通じて数値化される。
数値化されたデータは、保険加入者の健康状態を評価する際に活用される。評価に応じて、保険料が安くなったり、提携するパートナー企業の提供するサービスの優待が受けられたりする。
InsTech領域では個々人の現在の健康状態をもとにした保険料のカスタマイズや、特典が受けられるなど、健康に対する取り組みをダイレクトに反映する仕組みが導入されつつある。
保険料と加入者の生活習慣がつながる
FiNCアプリを利用することによって収集された毎日の運動や生活習慣に関するデータは、今後、保険加入者の保険料に反映することも検討しているという。これは保険加入後の健康状態によって、保険料が変動することを意味する。
従来、医療保険や生命保険料は契約時の健康状態によって決まり、契約後、定期タイプの医療保険のように、更新時に保険料が上がることはあれど、下がることはなかった。しかし、今後はFiNCアプリのような健康管理アプリ等を活用して、契約後の保険加入者の健康状態をデータとして収集、収集したデータを保険料に反映させる動きは、さらに広がると考えられる。自身の健康状態が保険料を左右するのであれば、保険加入者の健康に対する意識も変化するだろう。
バイタルデータの取得が可能になり、健康状態が可視化されるようになったことで、保険のあり方は変化してきた。ただ健康になるというだけでは、ユーザーの行動にはつながりにくかった。だが、保険料という金額に影響するとなれば、行動を変えるユーザーは増加するだろう。