IoT(=インターネット・オブ・シングス)とは、つまり”モノ”をネット経由で通信させ、従来にはなかった使い方やデータの収集を可能にする技術だ。たとえば外出先から家電を操作したり、センサーとつながることで遠く離れた環境(温度、湿度、気圧、明るさ、衝撃、振動など)の状態を知ったりすることもできる。現状におけるIoT技術の利点としては、こうした「コントロール」と「データ収集」が主軸だろう。

コントロールに関しては言うまでもなく家電などの利便性の向上が期待でき、データ収集に関してはさまざまな情報の「視える化」が実現可能になる。主にスマートウォッチ・フィットネスバンドの分野で隆盛なのが、ヘルスケア情報のデータ化だ。体重・心拍数・睡眠時間・消費カロリーなどの数値化したデータをスマホ等のデバイスで確認。常に自身の健康状態をモニタリングすることができる。

こうした技術は、ネットを経由するとはいえ各デバイスが必要になる。そこで考えられたのが、住環境を丸ごとIoT化する「IoTスマートホーム」だ。

オープンイノベーションによる新ビジネスに期待

and factory社、横浜市、NTTドコモが共同で行う「未来の家プロジェクト」は、IoTおよび人工知能を活用し、居住者のリラックス度や活動量などの生活状態を可視化することで“気づき”を与えることや、快適な室内環境づくりを行う。本プロジェクトは横浜市が立ち上げた「I・TOP(アイトップ)横浜」内の一環となり、約2年間にわたりIoTスマートホームを用いた実証実験を通じて、実際の生活ログを蓄積、解析することで、新規ビジネス創出の機会とする。

実際に実験で使われるトレーラーハウス「IoTスマートホーム」の中をのぞくと、そこかしこにデバイスがあり、まさに”未来の家”といった様相だ。ベッドに設置されているセンサーで睡眠時間、覚醒回数など睡眠のチェックが可能。スマートミラーで前日分の体重、摂取カロリー、消費カロリー、睡眠データと、ミラー前の体重計に乗ればリアルタイムの体重も表示される。屋内の照明もスマホで明暗・色を調整でき、エアコン・カーテンのオン/オフ・開閉なども同様にコントロール。

センサーなどのデバイスは固定のメーカーを採用するのではなく、それらを統合して使うことこそ、本プロジェクトのメリットのひとつでもあるとのこと。住む人の生活を丸ごとスキャンするとともに、収集された各種時系列データに基づき、AI技術によりIoT機器を自動制御することで快適な生活をサポートする。健康への気付きが得られる「IoTスマートホーム」は、居住者としてもビジネスチャンスとしても目が離せない分野となりそうだ。

そもそも、なぜ横浜市はこのプロジェクトに着手したのか。横浜市・経済局長の林琢己氏はこう話す。

『I・TOP横浜』は、オープンイノベーションによる新たなビジネス創出が目的。まず横浜市にはIoTを活用する可能性の高い約6000社の製造業と、技術力を有したIT企業の集積(約3000事業所)があること。そして都心部と郊外部という、多様性のある地域で社会実験が可能です。また中小企業の成長発展に向けた人材育成、IoT普及に向けたセキュリティ課題解決など、市場創出に資するプロジェクトと考えています

やがて訪れる「高齢者のひとり暮らし対策」「災害時の対応」も含め、人工知能とIoTを通じた快適な暮らしというテーマは、確かに国内の重要課題。単なる利便性を求める以上の役割がテクノロジーを通じて実現されようとしている。

また、実証実験で使用するトレーラーハウスと、IoTに使う各デバイスから集められた情報の制御技術を提供するNTTドコモ。そして、IoTスマートホームの居住者のユーザー体験設計と、居住者に便利に快適に生活してもらうためのUI設計、アプリ開発を行うand factory社。それぞれの企業が培ったノウハウをもとに進められる「未来の家プロジェクト」は、今後協業する企業様との事業検討、企画を行い、実証実験から事業化を推進し、IoTスマートホームを普及させていく役割を担うとのこと。

インターネット、IoT、人工知能と加速度的に最新テクノロジーは進化を続けている。これらは単一のサービスとしてではなく、「IoTスマートホーム」のように統合され、住環境の改善だけでなく、ビジネス創出も含めた新たなライフスタイル提案の可能性を強く秘めている。