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ドローンで変わる夏の風物詩
日本の夏の風物詩といえば何を思い浮かべるだろうか。数多くある風物詩のなかで「花火」を連想するひとは多いのではないだろうか。日本における花火の起源は諸説あるようだが、少なくとも200〜300年前、江戸時代あたりには夏に花火を楽しむ風習があったようだ。
江戸時代から現代まで変わらず日本の夏の風情を醸し出す花火だが、別の見方をすれば登場して以来大きな変化がなかったテクノロジーとも見てとれる。現代の私たちはインターネットを使い、新幹線や飛行機に乗っている。江戸時代のひとびとには想像もつかない世界だろう。通信や移動テクノロジーが飛躍的に進化した結果だ。花火にもこれらと同様の飛躍的な進化があってもよいのではないかと思えてこないだろうか。
花火とは3次元空間を彩るアートテクノロジーと考えることができる。こうした視点で世の中を見てみると、実はすでに「次世代花火」と呼べるアートテクノロジーは登場しており、いま急速な勢いで進化していることが見えてくる。
複数のドローンを自由自在にコントロールする「ドローンスワーム」というテクノロジーだ。複数といっても数台の話ではなく、数百台のドローンを一度にコントロールする技術で、米国や中国を中心に開発が進んでいる。以下では、このドローンスワームのキープレーヤーたちを紹介したい。
「ドローンショー」のパイオニアIntel、一度に500台をコントロール
Intelは2015年末、オーケストラの演奏に合わせて100台のドローンを操る「ドローン100」プロジェクトを成功させ、ドローン同時飛行の当時のギネス記録を達成した。
Intelのドローン100プロジェクト
ドローン100台が宙に舞う姿は壮観だが、さらに驚くのはわずか1年で100台から500台へと進化していることだ。この500台のドローンの同時飛行はもちろんのことながら前回のギネス記録を更新した。
ドローン500台の同時飛行
現在500台のドローンを自由自在に操れるようになったIntelは、ディズニーや音楽フェスティバルなどで数百台のドローンを導入したショーを実演している。
「コーチェラ・フェスティバル」でのドローンショー
2017年4月には、米カリフォルニアで開催された大規模音楽イベント「コーチェラ・フェスティバル」で300台のドローンでショーを実施。見ての通りドローン100の映像と比べると、ドローンの数が増えたことに加え、動きのダイナミックさや精度が上がっており、見応えは確実に上がっている。
わずか1年でドローンの同時飛行数を5倍に上げたIntelのドローンチーム。今後、この数をどこまで伸ばせるのか、そして飛行の精度や速度をどこまで高めることができるのか、非常に楽しみなところだ。
1000台のドローンを同時飛行、中国EHang
2017年2月、Intelの記録を超えるドローン1000台を同時飛行させ話題となったのが、中国・広州のドローン企業EHangだ。
EHangによるドローン1000台を使ったショー
この映像はそのときのもの。「MetroSky」と名付けられたこのイベントは、EHangが広州市天河区などと共同で開催。ドローンテクノロジーのお披露目とともに、ドローンを花火代わりに使うことで都市環境を汚さない形で旧正月を祝う試験的な試みであったともわれている。
EHangが一躍有名なったのは2016年米国で開催されたCESで、人乗りドローン「EHang184」を発表したときだった。また、今年に入りEHang184の運用をドバイで開始するとも報じられたことから、人乗りドローンのイメージが強いが、その裏でドローンスワーム技術の開発にも力を入れているようだ。
環境問題が深刻と言われている中国。ドローン利用でどこまで環境改善にインパクトを出せるか注目したいところだ。
あり得ないドローンの動きを生み出す、ドローンの魔術師
最後に紹介するのが、スイス連邦工科大学(ETH)のロボット研究者で、ドローンの魔術師と呼ばれるラファエロ・ダンドレア氏。Amazonが買収したロボットスタートアップKiva Systemsの共同創業者で、2007年にETH教授に就任した。アーティストとしての一面も持っており、彼の作品はカナダやフランスの美術館に展示されている。
ダンドレア氏が得意するのは、ドローンどうしのコミュニケーション制御システム。この技術によって、複数のドローンがコミュニケーションを取りながら複雑なタスクをこなすことができるようになる。
2016年のTED Talksでは、独自アルゴリズムをプログラムした小型ドローンが室内を縦横無尽に飛び回る姿が披露された。IntelやEHangのドローンに比べて小型でありながら、それらに勝る精度で飛んでいることが見て取れる。
TED Talksで披露された小型ドローンによる編隊飛行、ドローン飛行の様子は08:30〜
このほかにダンドレア氏が開発に関わったドローンには、縄を編み橋をつくるものや、キャッチボールをするのものなど、複雑な動きをするものが多く、ドローンの未来を垣間見ることができる。これが魔術師たる所以だ。
いかがだっただろうか。Intel、EHang、そしてダンドレア氏の取り組みを見て、近い将来ドローンが花火になる可能性を感じてもらえたのではないだろか。ドローンの進化は予想以上に速い。空という3次元空間キャンバスに今後どのような彩りを添えてくれるのか注目していきたい。