「就活」や「婚活」、特定の目的のために行われる活動を指す言葉に「妊活」が加わって久しい。妊活を理由に休業を発表する有名人のニュースを耳にすることも珍しくなくなった。

妊活や不妊治療と聞くと、未だに女性主導で行われるイメージがある。実際ネットで「妊活」や「不妊」で検索してみると、女性を対象した膨大な情報において、男性はあくまで「協力」する立場に位置付けられている場合がほとんどだ。

妊娠するための活動を妊活と定義するなら、男性も同等に関与していいはずだ。しかし、男性が積極的に妊活に取り組むという意識が広く共有されているとは言えない。

精子セルフチェックサービス「Seem」

そもそも男性が不妊治療を意識するきっかけが少ない現状を変えようと試みるのが、リクルートライフスタイル社の精子セルフチェックサービス「Seem」だ。

Seemでは検査用のSeemキットを使って専用のレンズに精子を採取すれば、専用のアプリが精子の濃度や運動をその場で解析してくれる。スマートフォンとキットさえあれば自宅で手軽に精子のセルフチェックをできる仕組み。

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先日、「カンヌライオンズ2017」のグランプリを受賞した同サービス。日本企業初のグランプリという点に加え、精子検査に関するサービスである点にも注目が集まった。

Seemがグランプリを受賞した「カンヌライオンズ2017」は、100を超える国が参加するクリエイティブコミュニケーションの祭典。Seemはモバイル部門のグランプリに加えて同部門やグラスライオン部門で複数の受賞を果たしている。

プレスリリースによると、モバイル部門ではSeemが真の課題まで実際に解決できていることが評価されたという。また、性別の違いによる偏見や不平等を打ち破るアイデアに贈られるグラスライオン部門の受賞は日本初。

女性が主体的になりがちだった妊活において、男女ともに同じ目線でスタートすることの大切さを気づかせるサービスである点が受賞の理由だそうだ。

不妊治療における埋まらない男女のギャップ

2010年の調査によると、不妊検査や治療を経験したカップルの割合は16.5%で、2002年から増え続けている。

不妊治療を経験するカップルは年々増えているにもかかわらず、未だに不妊治療は女性が主体的に行うものだという意識は根強い。厚生労働省の調査では、「産科・婦人科」で精液検査を受けたタイミングについて、5割近くの男性が「女性の検査が終わってから」と回答している。しかし、不妊の約半数は男性側が原因となっているという調査結果もあり、不妊治療は男女2人で協力しなければならない。

昨年、政府は不妊治療への助成事業において男性の不妊治療も対象に加え、男性の不妊治療を支援しようと試みている。しかし、5月に毎日新聞が実施した調査によると、男性の不妊治療における助成制度の利用は、自治体が想定していた年間件数のおよそ7分の1にとどまっている。調査期間である昨年4〜9月に、女性の不妊治療(体外受精や顕微授精)には130倍もの申請があったことからも、男性の不妊治療に対する意識の低さがうかがえる。

当事者意識を持つために、参加のハードルを下げる

Seemが公開した不妊に関するインタビュー動画は「知るところから、はじめよう」という言葉で締めくくられている。日本では不妊治療について学校や家庭で知る機会は決して多くない。まずは男性も女性も当事者だと認識する事が、不妊治療における男女の意識の差を埋めるために欠かせない一歩だろう。

お茶の水大学の竹家一美氏が不妊治療経験者の男性に実施したインタビュー調査で、とある男性は不妊が発覚した際の想いを以下のように振り返っている。

もう目の前、真っ白になりましたね、そんなことまったく考えてなかったので(中略)もっと知られた方がいいですよ。たぶん女性だけで抱え込んでるケースが多いし、情報がないと動けないと思うんで。僕みたいな話ができればいいと思いますけどね。男同士は(不妊の)話なんかしない、まさかそんなこと誰も想像もしない

統計上はおよそ半分の確率で当事者になる可能性があっても、知識と関心がないために縁の無いものと決めつけてしまう男性は少なくないはずだ。男性不妊が発覚した際に目の前が真っ白になるほどショックを受けてしまうのも無理はない。

男性にとって当事者意識を持ちづらい問題だからこそ、Seemのように気軽なセルフチェックツールが男性と医療機関を橋渡しする意義は大きい。実際にユーザー調査では男性の33%がSeemの利用後に医療機関を受診したという。

今後もSeemは男性も当事者として不妊治療に協力するきっかけを与え、不妊に対する意識の変容を促していくはずだ。

img: Seem