仮想通貨で個人の価値をトレード。「VALU」は評価経済時代のパイオニアになるか−−開発者の小川晃平氏に聞く

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「インフルエンサーの○○さん、本出すらしいよ!」

こんな話をここ数年で一体何十回聞いただろう。多くのフォロワーを抱える人の価値が年々高まっている。「フォロワー」という言葉は文字通り、その人の思考や思想、表現を好む人たちだ。数年前に話題に上がった評価経済の話のように、お金に換金はできないが、そこには確実に価値がある。だからこそ本を出せば売れるし、出版社も依頼する。

だが、ここに来て多くの人に「フォロー」されているという価値を換金できるサービスが現れた。フォローしてもらうことを、金銭的支援に変えることが可能になろうとしている。

個人が模擬株式を発行する「VALU」

2017年5月31日に「VALU」というサービスのβ版がリリースされた。VALUはユーザーの審査を行い、個人の市場価値をオンライン上の影響力から換算する。ユーザーは、仮想通貨を通して模擬株式「VA」を発行し、他のユーザーに購入してもらうことで、資金の調達ができる。

「VA」を売る側にとっては、いままで価値はあると思われつつ、換金できなかったオンライン上の影響力をお金に換えられる。「VA」を買う側にとってはお気に入りのクリエイターやアイドルといった、応援したいと思う人を金銭で直接応援できる。

双方にメリットを提供するサービスである一方で、支援するわけではなく、短期で売買を繰り返し利益を狙う人も登場するなど、投機的な動きも見受けられた。株式市場に見立てているサービスなので、多少こうした動きが起こることも仕方がない。運営側も実際の使われ方に合わせて取引時間や回数を制限するなどのチューニングを行っていった。

VALUは、大きな可能性を示しながら、同時に難しさもはらんでいる。VALUの運営チームは、サービスの現状と今後についてどのように考えているのだろうか。話を伺った。

発想と技術のハイブリッドで「VALU」が生まれるまで

同サービスを運営するのは、株式会社VALUとクリエイティブカンパニーの株式会社パーティーからなるチームだ。

運営に携わるPARTYは、自社開発プロジェクトのひとつとしてサービスの立ち上げから参加。ビットコインやブロックチェーンの技術に明るいVALU代表の小川氏とともにサービスの設計に携わってきた。小川氏とPARTYは、小川氏がフリーランス時代に携わった予防医療普及委員会の活動で知り合った。

当時、小川氏はビットコインの開発会社を立ち上げたばかり。より多くの人へ届くサービスをつくるためには、体験のデザインを得意とするPARTYとコラボするとよいのではと考えた。そこから議論を重ね、“個人が上場できるようなサービス”というVALUの草案が誕生。サービスとして作り込んでいき、5月のβ版のリリースまでこぎつけた。

リリースと同日の5月末からはクラウドファンディングを実施し、運営資金を募っている。7月1日時点で目標金額の1.5倍以上の130万以上の支援を集めており、注目度の高さがうかがえる。

新しい評価軸、支援制度の必要性

株式会社VALU代表取締役 小川晃平氏

小川氏はVALUの役割は大きく3つあると考え、サービスを提供しているという。

小川「1つめは新しい評価軸の必要性。近年フリーランスの人が増え、一昔前のように属する会社などの情報が評価基準として使えなくなってきています。にもかかわらず、未だWeb上には信用情報を確認する術がない。どのようなスキルを持ち何ができるかという個人の力を軸に、信頼度を判断する評価軸が必要になってきているのです」

労働環境の変化に基づく、新たな評価軸はまだまだ整備が不十分だ。特に金銭面ではフリーランスは家を借りることに苦労したり、銀行からの資金調達もままならないなど、苦労を要する面が少なくない。スキルを正しく評価し信頼に変換する仕組みは今の時代に必要な役割といえる。

小川「2つめは世界中のどこにいる人に対しても直接的な応援ができること。インターネットによって手段が増えたとはいえ、地球の裏側や国交のない国など、海外に住む人を金銭的に支援することは、まだまだ容易ではありません。継続的に支援を行うにはより簡単な手段が必要です」

時差、通貨の違い、手数料など。さまざまな壁はあるが、直接的支援を集めるためにはもっと簡単な手段が欠かせない。ビットコインという世界共通の通貨を用いて、インターネットというフラットな場での支援は多くの壁を取り払うことに寄与する。

小川「3つめは特異性をもった人が活躍できる場を提供できること。これだけ簡単に情報に触れられる世の中では、個人のスキルセットの差別化は重要です。差別化のために、先人のサポートを受けたり、特異性の価値を認知してもらう場を提供したり、応援する。この3要素はVALUがサービスを通して提供する価値にもつながっています」

企業に属していた人がフリーランスになるといっても、武器がなければ戦えない。武器を磨くチャンスと資金を集められる環境をVALUは用意しようとしている。

個人がいかに独自の価値を提供していくかを考えなければならない時代へと社会は変化してきている。3つの要素を通じてVALUが提供するのは、個の力を最大化するためのプラットフォームだ。

現状ではアイドルやYouTuberへの投げ銭的役割や、経営者が支援を受ける代わりに、経営の相談に乗るなどの事例が生まれている。スキルや経験をもとに戦う人と、その価値を評価する人を金銭的につないでいる。

クラウドファンディングのように、プロジェクトやプロダクトのような明確な目的に対する支援ではなく、noteのようにコンテンツに対する課金というわけでもない。支援したいあらゆる「人」を、支援したいタイミングで支援する。VALUは支援される側とする側、どちらにも自由度のある支援を提供している。

正しく支援が回る仕組みをどう構築していくか

VALUはいまだリリースから1ヶ月程度ながら、インターネットサービスやスタートアップに携わる人の間で話題となり、著名人など一部の人のVAは連日ストップ高になる場面も見受けられる。

多くの人々が夢や目標を実現する後押しをするプラットフォームになろう−−サービスを着想した当初から胸に抱く想いは変わらない。

小川「VALUは、夢や目標をどう実現していいかわからない方、金銭的な理由で実現できない方などが、継続的に支援者を募ることが可能な場所となるよう開発しています。今後、仕様が変更することはあっても、このコンセプトは変わりません」

だが、個人を応援するためのプラットフォームである一方で、通常の株式と同様に投機目的で購入している人も少なからず存在している。この点については議論の対象ともなっているが、運営側としてはリリース後のVAの取引の動きについてどのように考えているのだろうか。

小川「正直、運営側としてもβ版でここまで注目いただけるとは思っておらず、一部対応が後手になってしまったことは否めません。ただ今後もユーザーさまの意見や動きを加味し、投機的な動きが起こりにくいサービス設計になるようアップデートを続けていきたいと思っています」

企業のように総体で評価を受けていた時代から、個が評価される時代へ変化している。評価制度、支援する仕組みも変化が求められる。仮想通貨を通して資金調達を行うICO(Initial Coin Offering)も、近しい文脈として近年注目を集めている。

この先、何かを始めたい人が支援を募るための仕組みはさらに充実していきそうだ。

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