自転車版“元寇”が現代日本の都市移動を変える、中国発バイクシェアリングの衝撃

高齢化や人口の減少に伴い、自動車と電車移動を前提とした都市の在り方に変化が求められている。有力な方向性として挙げられるのが、生活に必要な機能が近接したコンパクトシティだ。地方においては更に狭い範囲に集落機能を備えた「小さな拠点」の実現も政府は視野に入れている。

新たな都市の在り方が模索されている中、短距離を効率よく移動する手段として期待されているのがバイクシェアリングだ。国内でも行政が率先して導入を進めてきたが、海外からも追い風が吹いている。

急成長するシェアリングサイクル「Mobike」とは?

その立役者が中国のバイクシェアリングサービス大手「Mobike」だ。2016年に上海でサービス提供を開始した同社は、サービス開始から1年足らずでシンガポールや英マンチェスターなど130もの都市でサービスを展開。すでに500万台以上が運用されており、1日の最高利用回数は2,500万回以上になるという。

Mobikeには、他のバイクシェアリングサービスと大きく異なる点がある。一つは、専用の駐輪所で借り受けと返却を行う必要がなく、乗り捨てが可能な点だ。ユーザーは専用アプリで自転車の位置情報を確認して、近くで使える車体があるかを探す。QRコードを読み取るだけで解錠でき、決済も事前に電子マネーで手軽に行える。

車体は4年間に渡りメンテナンスが不要な設計を採用。頑丈さだけでなく、オレンジのホイールが目立つ車体の洗練されたデザインも特徴的だ。

Mobikeではすべての車体にGPSが搭載されているため、ユーザーがどの経路を利用したかを細かく分析可能だ。実際に北京では、効率的な交通網のために詳細な解析が行われているという。

こうした特徴がユーザーの反響を呼び、急成長を遂げている同社は、先日福岡市に日本法人を設立。福岡市だけではなく札幌市で実証実験を行うと発表した。

2020年までに100市町村、新しい交通手段として期待の集まるバイクシェアリング

政府が2020年までの交通方針をまとめた「交通政策基本計画」でも、コミュニティサイクルは重要な施策の一つに位置付けられている。政府の定義するコミュニティサイクルとは、複数のサイクルポートから利用者が自転車の貸し借りができるシステムを指し、バイクシェアリングとほぼ同義だ。

冒頭に挙げた高齢化や人口減少に直面する地域において、「多様な交通サービスの展開を後押しする」手段として挙げられるコミュニティサイクルの活用。同計画では、コミュニティーサイクルを導入する市町村を2013年度の54市町村から、2020年度には100市町村まで増やす予定だ。日本シェアサイクル協会が2016年10月に発表した数値によると、現在国内では77の都市においてバイクシェアリングサービスが導入されているという。

日本シェアサイクル教会の資料は、国内におけるバイクシェアリングの普及に向けた課題として「道路空間の再編成と沿道関係者の協力」を指摘している。バイクシェアリングの導入においては、駐輪所だけではなく自転車レーンの設置も必要となる。駐輪所に自転車レーンの設置が加われば、自動車の駐車スペースが制限され、沿道の商売に悪影響が及ぶ場合も考えられるという。

Mobikeは、日本においては完全な乗り捨てではなく、自治体と協議しながら駐輪スペースを設置していく予定だと述べている。その過程で自転車レーンの導入を自治体が検討する場合もあるかもしれない。Mobikeが国内でサービスを広げていくには、自治体と協議を重ね、商業活動も考慮した交通網をデザインしていくことが求められるだろう。

国外で急成長を遂げたMobikeは果たして日本でも同様にサービスを拡大していけるのだろうか。今後も彼らの取り組みは、国内における交通の在り方を考える上で有益な視点をもたらしてくれるはずだ。

img: Mobike

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