進化するSUBARUアイサイト——最大の魅力は“人間中心”の自然なフィーリング

自動運転技術に注目が集まる昨今、世界の自動車メーカーは、その第一歩というべき“運転支援システム”の開発にしのぎを削っている。

その先駆けともいうべきSUBARUの“アイサイト(EyeSight)”は、現在、世界で最も普及が進んだシステムといえる。2016年11月には、アイサイト搭載車の世界累計販売台数が100万台を突破。日本でも、2017年2月に累計販売台数が50万台を超えた。

今回、そんなアイサイトがバージョンアップし、最新の“アイサイト・ツーリングアシスト”へ進化を遂げた。搭載されるのは、2017年7月3日にマイナーチェンジしたスポーツワゴン「レヴォーグ」と、スポーツセダン「WRX S4」。2台の発表に先駆け、いち早くアイサイト・ツーリングアシストをテストする機会を得たので、今回はその印象をご紹介しつつ、SUBARUが目指す自動運転のあり方や、今後の動きについて迫ってみたい。

最新の運転支援システムを支えるSUBARUの“経験とノウハウ”

アイサイト・ツーリングアシストの印象をお伝えする前に、少しだけ、アイサイト自体の歴史に触れておきたい。

万一の際の衝突を避けるため、必要であればクルマ自らがブレーキを操作するといった機構をステレオカメラだけで可能にしたアイサイトが初搭載されたのは、2008年の「レガシィ」から。だがSUBARU(当時は富士重工業)では、車載用ステレオカメラを使った運転支援システムの開発に、1989年から取り組んでいた。そして、アイサイトが登場する前の1999年には、“車線逸脱警報”や“車間距離警報”、“車間距離制御クルーズコントロール”からなるアイサイトの前身“ADA(Active Driving Assist)”を実用化した。

SUBARUの運転支援システムの特長は、ADAから最新のアイサイト・ツーリングアシストに至るまで、主にステレオカメラによる画像認識技術を、障害物や前走車の監視に使用していること。

現在、各社の運転支援システムにおけるキーデバイスとして、アイサイトのステレオカメラのほか、単眼カメラ、赤外線レーザー、ミリ波レーダーなどが使われているが、機能とコストを天秤にかけた場合にいずれも一長一短があり、同じメーカーでも車種に応じて使い分けられている。いうまでもなくSUBARUは、ステレオカメラにおいては長年の経験に基づく膨大なノウハウを有しており、蓄積されたデータは他メーカーも一目を置くほど。もちろん今回のアイサイト・ツーリングアシストの開発においても、10万kmに及ぶテストに加え、これまで獲得してきた膨大な量のデータが、各種機能の制御に役立っているという。

ちなみに、カメラをはじめとする基本的なハードウェアは、従来版のアイサイト Ver.3から流用するアイサイト・ツーリングアシストだが、ソフトウェアや制御は大きく進化。結論からいえば、同様の運転支援システムの中では、依然としてトップクラスの実用性を実現している。

アイサイト・ツーリングアシストは何が変わったのか?

開発に当たっては“リアルワールドで安心して「本当に使える!」性能”を目指したというアイサイト・ツーリングアシスト。具体的な機能としては、高速道路走行時において、0~120km/hの車速域でのブレーキ、アクセル、ステアリング操作をアシストする。

従来型のアイサイト Ver.3においても、自動減速・停止を行うプリクラッシュブレーキや、先行車に追従走行する全車速追従機能付クルーズコントールといった機能はカバーしていた。では、今回のバージョンアップでは、何が進化したのか?

1つめは、自動アクセルと自動ブレーキにより、車間距離と速度を保つクルーズコントロールの対応速度域が、0~100km/hから0~120km/h(機能的には135km/hまで対応)へと拡大したこと。

2つめは、車線内の中央を維持するようハンドル操作をアシストする“アクティブレーンキープ”の作動速度が、約60~100km/hから0~120km/hへと拡大したこと。

そして3つめは、新たに0~60km/hの速度域で先行車を追従し、自動でハンドル操作を行う機能が追加されたこと。

以上の3点が、アイサイト・ツーリングアシストの大きな進化ポイントだ。

従来型では、機能ごとに作動する速度が異なっていたため、使用に当たっては各機能の違いや特性を熟知している必要があったが、今回の改良で各機能の連携が強まり、高速道路上において遭遇する可能性が高いさまざまな状況に、幅広く対応できるようになった。

そしてアイサイト・ツーリングアシストは、事実上、高速道路における“半自動運転”を実現している。しかし、それを声高に主張しないのは、SUBARUらしいこだわりがあるから。

SUBARUは、アイサイト・ツーリングアシストを“安全・安心に使えて、疲れないクルマ”、“疲れないことでもっとぶつからないクルマ”を実現するための、ひとつの要素に過ぎないと捉えているようだ。今後、インフラや法律の整備などが進めば位置づけは変わるかもしれないが、現時点においてはあくまで、アイサイトは黒子としてのアシスト役であり、主従関係でいえば、あくまで主役はドライバー、クルマはそれに従う存在、という位置づけなのである。

もちろんSUBARUは、現在、現行のアイサイトからさらに進んだ、高度な自動運転技術の開発も進めている。2020年には、アイサイトにレーダーやデジタルマップなどをプラスし、高速道路おける自動車線変更機能などを実現する予定。そして、2020年代のとあるタイミングでさらに技術レベルを進化させ、一般道の交差点内におけるクルマ対クルマ、クルマ対歩行者といった衝突を防ぐシステムを導入し“究極安全”を目指すロードマップを描いている。

その背景にあるのは「自動車事故ゼロ=究極の安全」というSUBARUのターゲットだ。しかしSUBARUが目指すのは、クルマが勝手に走る・曲がる・止まるという無人運転ではなく、あくまでドライバーが中心の安全で楽しい自動運転技術。アイサイト・ツーリングアシストは、そこへ向けての次なる一歩なのである。

システムの優れた完成度と、それに勝る自然な操作感に驚く

アイサイト・ツーリングアシストの体験試乗会は、1周約5.7kmのテストコースで行われた。走行メニューは、70km/hで走行する「ステアリングアシスト確認区間(高速)」、30km/h以下の渋滞走行を再現した「渋滞モード区間」、高速道路の分岐を想定した「ステアリングアシスト確認区間(低速)」などで構成され、高速道路で日常的に体験する状況をひととおり再現していた。

まずは、ステアリングアシスト確認区間において、クルーズコントロール機能を使って先行車に追従しながら70km/hで走る。ハンドルに軽く手を添える程度で走行中、高速コーナーへと進入すると、テストカーは自動でスムーズにハンドルを操作し、車線の中央を維持したまま走行していく。もちろんこれは、他メーカーの運転支援システムにおいても実用化されているが、ハンドルの切り始めや切り終わりの時の自然な動き、フィーリングは、トップレベルにあるといえる。

また渋滞モード区間では、先行する車両の動きに合わせ、自動的に停止と発進を繰り返すが、その加減速のフィーリングは極めて自然。そして先行車両が蛇行しても、テストカーは車線の中央を保ったまま、先行車両の加減速に合わせてしっかりと加減速する。

また、車線のラインが消えているとか、見えにくい状態でも、新機能によって60km/h以下なら先行車に追従。自動でハンドル操作を行うので、工事中区間での渋滞といった状況などにも対応できそう。ちなみに、先行車両が大型車などで車線が見えづらい場合は、先行車情報によって追従するが、状況の認識に関しては車線ラインが優先される仕組みとなっている。

そして、インターチェンジなどの分岐で先行車が車線から離脱した場合、テストカーはその動きにつられることなく、走行車線を維持して走行する。アイサイト・ツーリングアシストは、車線ラインの情報と先行車の動きを常に読み取り判断しているが、今回のテストにおいては、判断に迷うような挙動や不自然さを感じられなかった。

今回のテストでは、システムや制御の進化に驚かされ、洗練された車両の挙動に一日の長があることを感じさせた。しかし、新しいアイサイト・ツーリングアシストで最も感心されられたのは、アシスト機能がオンの状態で、ドライバーが操作に介入した時のフィーリングだ。

自動車メーカー各社の運転支援システムは、まだまだ過渡期といってもいい。メーカーによって考え方が異なる部分もあり、実際の制御や完成度については千差万別の状態にある。例えば、ハンドル操作だけとってみても、操作フィールに明確な変化をつけることで、アシストがオンの状態にあることをドライバーに伝えてくるメーカーもあれば、逆にアシストを意識させないよう、自然な設定としているメーカーもある。

SUBARUのアイサイト・ツーリングアシストは後者で、アシスト機能がオンの状態からハンドルを切り込んでいく際も、操作に要する力は通常時、つまり、機能オフの場合と変わらない。例えば、高速道路を走行中、落下物などを避けなければならない場合、操作フィールに変化があるシステムだと、とっさのアクションを行う際に少なからず力加減に違和感を覚えることがある。しかしアイサイト・ツーリングアシストでは、機能オンの状態からドライバーがハンドル操作を行っても、操舵フィールが極めて自然なのだ。こうしたシチュエーションに遭遇することは稀かもしれないが、例えば、併走するクルマとの距離を保つために少しだけ左右にハンドルを操作したい、といった場合に、自然なフィーリングのクルマの方が扱いやすいのは自明の理だろう。

運転支援システム全体における直近の情勢としては、SUBARU車を始めとする日本車は、一部のドイツ車に若干のリードを許していたのも事実。しかし、アイサイト・ツーリングアシストはその差を巻き返しただけでなく、状況によっては優勢と感じることも多かった。ユーザーの好みや相性の問題もあるため断定は避けたいが、ドライバーの意思や操作が優先される新しいアイサイト・ツーリングアシストは、個人的にはドライビングストレスを感じないシステムだと感じた。昨今、運転支援システム搭載車のリリースが続いているが、新しいレヴォーグとWRX S4は、確実にそのベンチマークとなるはずだ。

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