世界各地でキャッシュレスの波が起きている。INGが今年4月にアメリカと14のヨーロッパ諸国の18歳以上を対象にした調査では、78%が「過去12ヶ月でキャッシュを使う頻度が減っている」と答え、ヨーロッパではすでに20%の人がほとんどキャッシュを使わないと回答した。
キャッシュレス化の波は、子どものお小遣いにも広がっている。アトランタのスタートアップ「Greenlight」が提供している子ども向けデビットカードも、その波を広げている事例の一つだ。Greenlightは、親と子がお小遣いを管理できるデビットカードアプリ。親は子どもが使える金額や、買い物を許可する店舗を事前に設定する。子どもがいつ、どこで、何にお金を使ったかは、リアルタイムでアプリから確認可能だ。
指定した店舗以外での買い物や、追加で親にお金を振り込んで欲しい場合、子どもは写真を添えて親にリクエストを送ることができる。米国のオンラインプライバシーにまつわる規則により、Greenlightを利用可能な年齢は13歳以上となっている。
親と子ども向けのデビットカードを開発しているのはGreenlightだけではない。
ニューヨーク発のデビットカード「Current」では、お小遣いを「Spending(支出)」、「Saving(貯金)」、「Giving(寄付)」の3つに分けて管理を行う。子ども自身に、持っているお金をどう配分するか考えさせる仕組みになっている。お金の使い道に選択肢を設けておくことで、子どもが何にお金を使うべきか考えるきっかけになりそうだ。
イギリスのサービス「Osper」では、定期的なお小遣いをベースに子どもがアプリ内でお金の使い道を考える。次のお小遣いまで何日あって、いくらお金が残っているかがアプリ内に表示されるため、計画的にお金を使う習慣をつけることができるという。Currentと同様にどれくらいの金額を貯金するかを事前に設定することが可能だ。アプリに触れながら、自然とお金のリテラシーが身につくような仕様になっている。
いずれも親がお金を管理するのみならず、子どもにお金の使い道を自発的に考えさせることを目標に掲げている。大手の銀行も子ども向けにキャッシュカードやデビットカードを提供している。例えば、バークレイズの子ども向け銀行口座では、親子は残高や明細をアプリで確認することができる。
子ども向けデビットカードは日本でも普及するか?
経済産業省がまとめた「FinTechビジョン」によると、日本のキャッシュレス決済比率は18%で、米国の41%や中国の55%に比べて低い水準にとどまっている。さらに別の統計によると、日本の20代〜60代の間でもデビットカードの保有率は14%、入会理由も「キャッシュカードについてきたから」という理由がほとんどだ。国内のデビットカードの普及率・認知度は、ともに低い現状が伺える。
子ども向けのデビットカードとなると、さらに数は少ない。三菱東京UFJ銀行や楽天銀行は未成年でも入会可能なデビットカードを発行しているが、大々的に子ども向けや10代向けを謳っているデビットカードはほとんどない。
日本の10代にとっては、デビットカードよりもアプリやサービスの利用と紐づいたプリペイドカードのほうが身近なのかもしれない。マーケティングリサーチキャンプの調査によると、10代から60代男女のうち「交通系プリペイドカード」を7割、「汎用的なリアル店舗系」カードを6割以上が所有しているという。10代が所有したいカードでは「nanacoカード」に次いで、「LINE Payカード」が2位となっている。
先述のFinTechビジョンを踏まえ、経済産業省は2020年までに「100%のキャッシュレス決済対応」および「100%の決済端末のIC対応」の実現を掲げている。その過程では、大人だけではなく子どもが使うお金もキャッシュレス化が進んでいくはずだ。
Greenlightのような子ども向けデビットカードの普及が進めば、子どもたちは大人と同様に、主体的にお金を管理する経験が得られる。目的に合わせてお金を管理する習慣がつくことは、大人になって金銭的に失敗するリスクを減らせるだけでなく、子どもたちが自分自身について理解する機会を増やすことにも繋がるはずだ。
日本では子どもたちがお金のリテラシーを学ぶ機会は決して多くはない。キャッシュレス化や子ども向けデビットカードの普及が、日本の子どもたちにお金について学ぶ機会を与えることに期待したい。
img: Greenlight