かつては、良いモノを作れば売れていた。だが、時代は移り変わり、最近ではまず体験から考えていく必要がある。
象徴的な例が、カメラアプリ「Snapchat」を提供するSnapだ。投稿が消える特徴で注目を集めたアプリの開発からスタートした同社は、よりユーザーのニーズに合わせたハードウェアの開発にも取り組み始めている。
自らをカメラメーカーと称するSnap
日本ではTwitterやFacebookと比べると、知名度の劣るSnapchatが、アメリカでは若者、特に女性から人気を集めている。comscoreという調査会社が発表しているデータによれば、ユーザーの約7割が34歳以下、さらに女性の割合が約7割というデータも出ているそうだ。
基本機能は、写真や動画を送り合うというシンプルなものだが、TwitterやFacebookなどと異なる点は、投稿したコンテンツが10秒以内に消えるというもの。相手に送ったコンテンツが蓄積されないため、消える安心感や手軽さから、他の写真・動画共有アプリと比べると、投稿する際の心理的なハードルは下がる。
Snapchatは、「Discover」という動画配信機能も提供している。画面上のアイコンをタップするだけで、NBCユニバーサルやBuzzFeedといったメディアが製作する番組を視聴可能な機能だ。

Discoverでは、ドキュメンタリーやニュースなど、テレビ番組のようなコンテンツを配信している。SNSのような写真、動画共有機能も持ち合わせながら、テレビとしての役割も果たしており、網羅的にビジュアルコミュニケーションの役割を果たしているといえる。
Snapchatを提供するSnapは、自らの会社をソフトウェア会社ではなく、カメラメーカーだと宣言している。Snapがカメラメーカーであるなら、既存のメーカーとの違いは何だろうか。
製品としての価値ではなく、体験としての価値を追求する
Snapが既存のカメラメーカーと異なるのは、体験としての価値を追求している点にある。
Snapは、Snapchatと連携して最大10秒の動画を撮影、投稿できるメガネ「Spectacles」の開発や、iOSやAndroidアプリと連携して空中からの撮影を可能にする独自ドローンを開発中であるなど、ハードウェアの開発にも力を入れている。
メガネ型カメラのSpectaclesがあれば、ユーザーは両手をふさぐことなく撮影できる。屋外で散歩中、サイクリング中などに活用できれば、スマホを出して撮影することのできなかった一瞬の風景が、撮影可能になるだろう。
ドローンは上空からの撮影も可能にするほか、ドローンの中にはユーザーを自動で追尾してセルフィーの撮影を可能にするものも登場してきている。ドローンをカメラ領域で掘り下げていくことで、新たな映像や写真の体験が開拓できると考えられる。
既存のカメラメーカーは、画質の高さや軽量性など、製品のスペックを追求してきた。スマホの登場と性能の向上によって、日常的な撮影はスマホで事足りるようになった。カメラでスペックを必要としているのはプロに限られてきている。
プロではない多くの人々が求めているのは、カメラのスペックではない。スマートフォンでは可能にならない撮影体験を創出することが、メーカーには求められている。SnapはSnapchatやSpectacles、開発中のドローンなど、撮影を通じた体験を向上させるべく、単なる撮影では飽き足らないユーザーの欲求を満たすものを、製品化しようとしている。
どういったユーザー体験を提供していきたいのか。その体験の提供を可能にするために、ソフトウェアもハードウェアも組み合わせて開発していくことが必要になるだろう。