数年後、車は「良き話し相手」に変わっているかもしれない

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ハンドルやドア、窓、シートに至るまで。数年後の車は今と全く異なるものになっているかもしれない。

AIや自動運転技術の進歩、GoogleなどのIT企業がモビリティ分野へ参入したことで、自動車メーカーが考えてきた車や移動のあり方は再定義が進んでいる。自動車メーカー各社は車自体がリプレイスされるのではなく、新たなフェーズの車を模索している。車は一体どのような形になり、どのような役割を果たすのか。

LINEとトヨタの協業

2017年6月15日、LINE株式会社とトヨタ自動車株式会社はコネクテッドカー分野において協業基本合意書を締結した。

両社は、LINEが開発するクラウドAIプラットフォーム「Clova」と、トヨタをはじめとする自動車メーカーや自動車周辺機器メーカー各社が推進する車載機器とモバイルアプリの連携規格「Smart Device Link(SDL)」を活用し、協業の可能性を探っていくという。

Clovaは2017年3月に開催されたMobile World Congress 2017の場で発表されたLINEのAIプラットフォームだ。

LINEと親会社の韓国NEVERが共同で研究開発を進めている。アジア圏でトップシェアを持つコミュニケーションアプリ「LINE」を通して集めたコミュニケーションデータと、韓国内の主要検索ポータルである「NEVER」の検索データを活用した開発が行われている。

Clovaは同時に発表されたスマートスピーカー「WAVE」やスマートディスプレイ「FACE」、モバイルアプリの「Clova app」に搭載。Amazon EchoにおけるAlexaのように日常生活に溶け込むAIの姿を実現しようとしている。

SDLは米フォード・モーター・カンパニー発で、同社とトヨタが中心となり仕様開発・運営方針策定を進めるコネクテッドカーの規格。今年1月には、前述のフォード、トヨタに加え、国内自動車メーカー各社や自動車周辺機器メーカーと共同で標準化に向けたコンソーシアムを設立するなど、日本の自動車業界が力を入れている規格といえる。このSDLにClovaが搭載される。

今回のLINEとの協業によって見えるのはClovaを搭載したトヨタ車の姿――か否かは正直まだ明らかではない。単にSDLをコネクテッドカーにおける標準規格とすべく活動する中の手段の1つが、LINEとの協業にあると捉えることもできるだろう。

トヨタの考える、自動車におけるAIの役割

トヨタはこれまでに、同社が考える自動車におけるAIのあり方について何度か方向性を示してきた。

直近では、今年1月に米ラスベガスで開催された民生用最新技術の見本市「CES 2017」にて、同社の考える次世代の運転体験を体現したAI搭載のコンセプトカー「Concept-愛i(コンセプト・アイ)」を発表している。

このコンセプトカーに搭載されるAI「Yui」が持つ最大の特徴は運転しているドライバーを”理解”し最適な運転体験を提供することにある。Yuiは表情や動作、覚醒度といった運転中のデータからSNSの発信や行動・会話履歴といった周辺情報までを収集し学習する。

ドライバーを理解した上で、車側から会話を誘導したり、ドライバーの趣向に応じた話題や関心の高いニュースを提供したりといった運転中の情報提供や、趣味趣向に合わせた運転ルートの変更。疲労などドライバーの運転時の状況に合わせて、自動運転への切り替えを促すなど、あらゆる角度からドライバーをアシストし、より快適な運転体験を提供するためのアシスタントを担うことを目指している。

Concept-i愛において示したAIと自動車の関係性は、同社の捉えるAIの役割を紐解く上でヒントとなる要素を含んでいる。

5年で10億ドルをつぎ込むトヨタのAI研究機関の役割は

トヨタは自社でもここ数年AI領域に力を入れている。2016年1月には大規模なAIの研究機関「Toyota Research Institute, Inc.(TRI)」を設立。トップにはMIT教授を経て米国防高等研究計画局(DARPA)でプログラムマネージャーを務めたギル・プラット博士が就任するなど、TRIは「AI研究のドリームチーム」と呼ばれるほど優秀な人材を擁する。

TRIはシリコンバレーに拠点を置き、マサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学内の研究センターと共同で研究を実施。5年間で10億ドル(約1,000億円)をつぎ込み、革新的な商品の企画・開発を目指していると公表している。

実際のアウトプットが見えないため、あまり知られていないかもしれないが、予算規模を考えるとトヨタはAI分野においてはかなりの大規模プレイヤーなのだ。

トヨタがブロックチェーン導入のためMITメディア・ラボと提携、自動運転車の開発に向けて莫大な予算を投じ作り上げている自社AI、そして提示されたAIと自動車との関係性を体現したコンセプトカー。この2つとLINEとの協業はどのような関係性を示しているのか。

自動運転、AIなど自動車メーカー各社やテック企業が次世代のモビリティの姿を模索する中、業界を牽引するものとして、トヨタのAIビジネスからは目が離せなさそうだ。

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