電力に“透明性”と“選択”を。人工知能が供給先と消費者を結ぶ電力会社

シアトル発のAI電力会社「Drift」が、ニューヨーク州で7月よりサービスの提供を開始する。「Drift」はAIによる詳細な解析をもとに、利用者に最適な価格で電気を供給するプラットフォームだ。

利用者に特別な手続きは不要で、登録時にゼロエミッション(発電時にCO2を生まない発電方法)を希望するか否かを選択できる。「Drift」は過去の電力使用データと利用者の希望、電力供給の状況を踏まえ、各利用者の電力供給事業者を決定する。

ゼロエミッションを選んだユーザーは原子や水力、風力、ソーラーによる発電業者から供給を受け、足りない場合は該当する分の再生可能エネルギークレジットが発行されるという。ゼロエミッションを選ばなかった場合は、発電方法に関わらず最も安い価格で地元の電力会社から供給される。請求は7日単位で行われ、利用者は自分がどういった電力供給事業者から電力を購入したのかを細かくチェックすることが可能だ。

同社のブログでは「Drift」が重要視する3つの考え方が挙げられている。「Transparency(透明性)」と「Choice(選択)」、「Empowerment(エンパワーメント)」だ。供給された電力がどういった方法で生まれ、どこから供給されているのかを明らかにすること。希望の価格や思想に合わせて利用者側と発電する側を結ぶ仕組みの提供により、人々に電力を選ぶ自由を与えたいという。

「我々のミッションは、電力会社にとって何が大切かではなく、あなたにとって何が大切かにもとづいて、電力を売り買いする自由を与えることです。そのために我々は仲介や管理者を取り除き、スマートでレスポンシブなソフトウェアで代替をすることにしました」

Driftのソフトウェア上で行われるすべての取引は、ブロックチェーンに似た技術を用いて記録されているという。仲介を取り除き、個々人が直接やりとりするPeer-to-Peer(P2P)の電力取引は、米国内ではすでに実践された例がある。

昨年、ニューヨーク州ブルックリンで、現地の地域の中でソーラーパネルなどの発電設備をもつ住民と、電気を利用する住民が、電力を取引するプロジェクト「Brooklyn Microgrid」か実施された。住民同士の取引内容や発電量はすべてブロックチェーンシステム「TransActive Grid element (TAG-e)」通して記録されている。

電力自由化はP2Pの電力取引を促進するか

日本では昨年4月に電力自由化が実施されて1年以上が経過した。自由化によって消費者はより幅広い選択肢から電力会社を選べるようになったものの、統計によると「変更時期は決まっていない」あるいは「特に検討しない」という層がほとんどだ。

理由としては変更するメリットがわからない、今まで通りで不自由がないという意見がほとんどで、電気の供給先をライフスタイルや価値観に合わせ、個人が選ぶという意識はまだ希薄なことが伺える。

日本国内でも地域のなかで発電した電力を公共施設に供給する取り組みは群馬県などで行われてきたが、システムを介して発電する側と利用者側がP2Pの電力取引を行った事例はまだ生まれていない。

しかし、電力自由化によってアナログな電力メーターから、インターネットに接続可能なスマートメーターへの移行は促進されている。ここに昨今の金融分野におけるブロックチェーン技術の普及が加われば、電力におけるP2P取引が日本で行われる日も、そう遠くはないのかもしれない。

テクノロジーが従来のトップダウン型システムを変える

P2P取引は、トップダウン型のシステムに透明性を担保し、人々に新たな選択の自由を与える手段として期待が高まっている。取引の仲介を行うのは人間ではなく、スマートなソフトウェアだ。

経営コンサルタントのドン・タプスコット氏は、ビジネス上の取引を政府や銀行など「大きな仲介者」が集中管理している現状を指摘し、P2P取引を可能にするブロックチェーン技術について次のように語っている

「人類の歴史において初めてあらゆる場所の人々が互いを信用し直接取引できるようになったのです。この信用は何かの大組織によって作り出されたものではなく協力と暗号と巧妙なプログラムによって生み出されたものです」

アクセスできる情報や技術が限られていた頃、人々はシステムの不透明さを許容するしかなかった。しかし、すでに信用をベースに直接取引を行い、データをつぶさに記録する仕組みは揃っている。金融や電力を含むさまざまな分野においてP2P取引が実践されていくなか、従来の「大きな仲介者」たちはどのような変化を遂げていくのだろうか。

img: Drift

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