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たった5分の診療に、1時間以上の時間をかけて病院まで往復する。病院に着いても、すぐに診察してもらえるとは限らず、さらに1時間以上待つ。こうした事象は珍しいことではなく、常に起こり続けている。
大人の場合はまだいい。大人は、病院に行くかどうかの判断を自分で下すことができる。しかし、子どもは自分で判断できない。子どもの調子が悪ければ、心配する親は一刻も早く、子どもの症状を病院で見てもらいたくなる。
だが、医療機関へのアクセスが困難な医療過疎地域では、移動や待ち時間を含めると、診察までにかなりの時間がかかってしまう。その間、子どもを心配し続けなければならない親の負担は相当なものだろう。
遠隔医療の登場により、こうした問題が解消される可能性が見えてきた。医療系スタートアップ・株式会社Kids Publicが提供する「小児科オンライン」も、遠隔医療相談サービスを提供するプレイヤーだ。
遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」
小児科オンラインは、子育て中の母親に向けた遠隔医療相談サービス。ビデオ通話ソフト「Skype」や、コミュニケーションアプリ「LINE」を使用して、平日午後6時~10時の間に、現役の小児科医が相談を受け付ける。急な発熱についての相談や、便秘の症状に関する相談など、医療行為に該当しない一般的なアドバイスにとどまるところが特徴だ。
小児科オンラインのユーザーは、都市部と地方のどちらにも存在しており、アジア、南米、欧州など世界に散らばる日本人家族からも相談を受けているという。
例えば、小児科オンラインは、2017年1月にシンガポール在住の日本人家族向けのクリニックであるニチイインターナショナルクリニックと、連携を開始している。日中、同クリニックで診察を受けた日本人の子どもは、健康に関する疑問や不安に対して、小児科オンラインを通じて無料相談できる。今後も、海外在住の日本人向けクリニックとの連携を進めていくという。
小児科オンラインは、企業との連携も進めている。富士通株式会社などと連携し、対象の企業に勤めている従業員は、無料で小児科オンラインを利用できるようになっている。小児科オンラインは、様々なチャネルに対してサービスを提供しており、6月からは新たに地方にも展開を始めた。
被災地に遠隔医療相談サービスの導入をすすめる
オンラインで医師とのやり取りを可能にする遠隔医療は、都市部でも需要がある一方、離島など医療機関までのアクセスが困難な土地でも、価値を発揮すると考えられている。
アクセスが困難な土地での遠隔医療導入の動きを加速させようと、Kids Publicは、6月中旬から東日本大震災の被災沿岸市町村にあたる岩手県大船渡市、陸前高田市、住田町で、小児科オンラインをトライアル導入することを発表した。
被災地域は小児科医が不足している現状があり、小児科オンラインを導入することで小児科医不足を改善する狙いがある。
今回の導入にあたり、Kids Publicは電子カルテ情報の共有など、各地域に医療・介護等の地域連携を推進するための基幹インフラとしてICT(情報ネットワーク)構築を支援する一般社団法人「未来かなえ機構」とタッグ組む。未来かなえ機構に参加する親子は小児科オンラインを3ヶ月間無料で使えるという。
一般社団法人未来かなえ機構事務局長の安部博氏は、小児科オンラインの導入に関して、下記のようにコメントしている。
安部「高齢者への医療サービスは、それなりに充実しているが、若い母親や乳幼児対策はどの自治体も手探りのようだ。『未来かなえネット』は、参加地域の全世代に安心と安全を提供する使命を担っており、小児科オンラインとの協働がその一助なれば幸いだ。モニターの結果次第では地元自治体の支援を得て本格実施に取り組みたい」
Kids Public代表の橋本直也氏は、今回の導入についてこのようにコメントしている。
橋本「子育て支援施策としての訴求力をご評価いただいたと思います。子育てをしている親世代にはスマホというコミュニケーションツールがマッチしている点も、導入していただけた決め手の1つだと考えています」
小児科医が果たすべき役割の一部を補完する
小児科オンラインは今後、複数の自治体と連携していくことを検討しているという。地方における患者が抱える課題をどのように解決していくのか。橋本氏は次のようにコメントしている。
橋本「医師が不足する地域や、地理的に医療機関へのアクセスが困難な地域のご家族と小児科医との新たな接点をつくり、子どもの健康に関する不安や心配ごとに寄り添っていきます。それにより、医療過疎の状態にある地域において、小児科医が果たすべき役割の一部を補完できればと考えています」
医療過疎となっている地方は他にも存在する。小児科オンラインのような遠隔医療相談サービスが導入されることで、問題の一部は解決されるはずだ。そうすることで、小児科医は注力しなければならない業務に注力することができるようになる。
医療が不足している地域に医療を届けていくために、遠隔医療をうまく活用していくことはこれから各地で必要になるだろう。
img: 小児科オンライン