2017年4月6日と7日の両日に渡り、ホテルニューオータニで新経済連盟主催による「新経済サミット2017(NEST2017)」が開催された。今回はその2日目の模様をレポートする。

2日目はFinTechやAI、IoTに関するセッションが催され、さらには元総理大臣である小泉純一郎氏や、海外の音楽界でもその名が通っているYOSHIKI氏の登壇が行われた。

急ピッチで進む金融サービスの変化

右から:ジェームス・グティエレス氏(Insikt CEO兼共同創業者/Oportun 創業者)、クリスト・カーマン氏(TransferWise共同創業者)、マット・ダンザイゼン氏(Thiel Capital ポートフォリオマネージャー)、マイケル・レイブン氏(Currencycloud CEO)

2日目のセッションの口火を切ったのは、今金融業界を揺るがしているFinTechをテーマとした「不透明な世界情勢におけるFinTechの今後」。同セッション内では、FinTechのイノベーションにおいて大きな課題のひとつは、各国の規制や規制当局との関係にあるが、そこは次第に変わりつつあるという認識が示された。

FinTechの世界で変革が起きていることはアントレプレナーにとって非常に大きなチャンスだという、発言もあった。今後インターネットの発展もあり、金融サービスの変化は急ピッチで進むだろうという話で締めくくられた。

次に登壇したのは、Huawei マーケティング&ソリューション部門 バイス・プレジデントであるワンチェン・ジャン氏。「IoTがもたらす社会のイノベーション」と題して、主に
Huaweiが提供するサービスについてのプレゼンテーションが行われた。

左から:アーネスティン・フー氏(Alsop Louie Partners ベンチャーパートナー)、レイチェル・ラウ氏(RHL Ventures 共同創業者)、グレース・サイ氏(Impact Hub Singapore CEO兼共同創業者でありHub Ventures Fund マネージングパートナー)

その後を追って設けられたセッションは、女性VCによるセッション「女性目線で考えるスタートアップエコシステム」だ。主に、スタートアップのトレンドや自身が女性であることもあり、ダイバーシティに関する話題などが取り上げられた。

オーディエンスからの「様々な失敗はどのように克服してきたのか」という質問に対して、「アジアではみんな完璧を求めるけれども、イノベーションというのは、常にチャレンジを続けなくてはいけないのです。だから、失敗をプロセスの一部だと考えて、あまり大きな問題ととらえないことが大切」というポジティブなメッセージが投げかけられた。

イノベーションが進むトランスポーテーションの世界

右から:大崎真孝氏(エヌビディア日本代表兼米国本社副社長)、サム・ゼイド氏(Getaround創業者兼CEO)、ムダシール・シェイハ氏(CareemCEO兼共同創業者)、フアン・デ・アントニオ氏(Cabify 創業者兼CEO)

その次のセッションのテーマは「ライドシェア、カーシェア、そして自動運転」。モデレーターからの「車は95%が使われていない」「L.A.の場合、道路や駐車場のための面積で半分を占めている」「ドライバーは、年間80時間は渋滞にはまっている」「アメリカだけでは3万5000人、世界では100万人以上が交通事故でなくなっている」という問題提起がなされた。

ライドシェアやカーシェアについては、空いている時間にドライバーとして仕事ができたり、自分の使わない時間帯にはクルマを貸し出すことで収入になるなど、ポジティブな意見が多く出され、いずれ先進国では「クルマを所有する」という概念はなくなるのでは、という見方も披露された。一方、自動運転については実現の時期は早まっているという意見が多く出されながらも、その普及によってドライバーの職が奪われる可能性もあるという問題も語られた。

特別講演、そしてスペシャルセッションとして、小泉純一郎元首相、作曲家のYOSHIKI氏が登場。小泉氏は持論の脱原発の必要性を語り、またYOSHIKI氏はピアノ演奏を披露するなどして会場を沸かせた。さらに、2人の共通の知人である新経済連盟代表理事の三木谷氏を交えた3氏でのトークセッションもあり、おおいに会場は盛り上がった。

その興奮さめやらぬ雰囲気の中、キーノートセッションがスタート。登壇したのは、デザイン・シンキングで知られるIDEOのパートナーであり、D4V (Design for Ventures)創業者兼会長のトム・ケリー氏だ。

「ベンチャー成功のためのデザイン思考」という内容で「共感」「実験」「ストーリー」の3つの観点からデザイン思考を解説した。その中でスタートアップに向けた言葉として「失敗とは『学び』ととらえればよい」「アップルのスティーブ・ジョブズは、iPodをプレゼンするときに『A thousand songs in your pocket』と語った。特徴を端的にわかりやすく伝えることが大切だ」と語った。

日本政府はドローンに協力的

右から:田瑜氏(YUNEEC technology創業者兼CEO)、虎石貴氏(楽天株式会社執行役員 CEO戦略・イノベーション室オフィスマネージャー)、モーハナラージャ・ガジャン氏(Rapyuta Robotics 共同創業者 代表取締役社長CEO)、ベン・マーカス氏(AirMap共同創業者兼CEO)

続いてのセッションは先の自動運転と同様、いま注目のトピックであるドローンに関する「広がるドローン活用と空の安全管理」だ。現在、日本でも楽天株式会社がドローンによる配送サービス「そら楽」を実験的に展開しているが、安全性などをめぐってさまざまな規制がある。

日本は他国と比較して政府がドローンに協力的であり、規制当局側もドローンをよく知るためにテストに参加させてほしいと言ってくる、というエピソードも披露された。ドローンを活用したサービスは、日本では案外早く実現する可能性もあるかもしれない。

右から:森正弥氏(楽天株式会社執行役員兼楽天技術研究所代表)、松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授)、ジェイ・ベリシモ氏(IBM ワトソン&クラウドプラットフォーム)

最後のセッションは、これもまた現在注目のトピックである「AIは未来をどう変えるか」。AIの分野はVCからの投資も多く、大きな注目を集めている。機関での研究成果や各社の取り組みが紹介され、ついに人間を超えるまでに向上した画像認識力や人間が気づいていない商品ジャンルの創出など、AIの急速な進化が紹介された。

その中では、近年頻繁に取り上げられる「AIに人間の仕事が奪われる」ということに関して、

「AIは過去の膨大なデータを読み解くことはできるが、過去にはない新しいビジネスの枠組みを考えることはできない。だから、人間のやることはそういった分野にあるのだと思う」

という発言が印象的だった。

本当の安定とは自分への投資

2日間にわたるカンファレンスの最後を飾ったのは、三木谷氏ら新経済連盟理事によるクロージング・セッション。ライドシェア、AIなどいろいろなセッションに対する感想が述べられ、会場からの「学生に期待したいことは?」という質問に答える形で、一人の理事がこう語った。

「本当の安定とは、大きな会社に入ることではなく、自分に投資をして自分に力をつけることだと思う。そういう観点で自分の仕事、人生を選んでほしい」

これは学生だけではなく、日本経済、果ては世界の経済をも担っていこうとする、すべての人材に共通して必要な考えではないだろうか。

自分に力をつけ、自ら変革の波を起こしていくために必要なことを考えられる人が増えていけば、人々の豊かな暮らしの実現に伴い、日本だけではなく世界経済の活性化に寄与していけることだろう。オーディエンスに多くの気づきやポジティブな示唆を提供してくれた2日間のカンファレンスだった。