「NEST2017」初日で語られた日本のアントレプレナーシップのためのメッセージとは

2017年4月6日と7日の両日に渡り、ホテルニューオータニで新経済連盟主催による「新経済サミット2017(NEST2017)」が開催された。

新経済連盟とは、主にITなどの先端的な事業に取り組んでいる企業が集まる経済団体で、その代表理事を楽天株式会社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が務めている。新経済連盟が開催する「新経済サミット」は2013年の初開催以来、今回で5回目を迎えるグローバル・カンファレンスだ。

世界の新しい経済や産業をリードする企業家やアントレプレナーが一堂に会し、最先端の議論を交わしてきた。今回も金融、AI、シェアリングエコノミーなど幅広い分野について多数の国内外のスピーカーが登壇するイノベーティブで示唆に富んだカンファレンスとなった。

今回は、今後のビジネスヒントになりそうな内容を中心に「NEST2017」の概要をレポートする。最先端の経済や産業を担う人々がどのようなことを考え、行動しているのかを感じ取ってほしい。

今、投資家たちの注目を集めるビジネス分野

パネリストは写真の左から、アシュヴィン・バチレディ氏(Geodesic Capital 共同設立パートナー)、ピーター・ベル氏(BCSV会長/Highland Capital Partners シニアアドバイザー、マイケル・ジャコーニ氏(Button共同創業者兼CEO)、ザファー・ユニス氏(500Startups パートナー)

初日の4月6日は「起業がイノベーションを巻き起こす」をテーマに、海外の著名なVCの創業者やパートナー、アントレプレナーが語り合うセッションからスタート。このセッションでは、現在VCが注目している分野や、投資をされやすいアントレプレナーに関して議論がなされた。

印象的だったのは、今エキサイティングな分野は何かということに対して「今までデジタルが入り込んでいなかった、アントレプレナーが取り組んでこなかったような分野」という認識が示されたことだ。

たとえば、オフィス清掃のスタートアップが急成長を遂げているように、そういった人間が物理的に課題と感じていることをデジタルで解決する仕組みを提供する企業が、今VCが注目している分野だという。

続いて「NEST STARTUP CHALLENGE」と題したピッチイベントが行われた。11組のスタートアップと、彼らを支えるエコシステムのビルダーが登壇。福祉や医療といった分野から、生活サービスにいたるまで、自身の展開するビジネスの意義やビジョンについてのピッチを繰り広げた。

12名の審査員による投票の結果、優勝に輝いたのは農家や漁師から直接生産物を購入し、生産者の顔が見えるスマホアプリを展開する「ポケットマルシェ」と、発展途上国の小規模農家をネットワークする「アグリバディ」の2組だ。

アントレプレナーシップをどう維持するか

その後のキーノートセッションでは、『HARD THINGS』の著書で知られるAndreessen Horowitz共同創業者兼ゼネラルパートナーのベン・ホロウィッツ氏と、新経済連盟代表理事の三木谷浩史氏が、現在起こっているイノベーションに関する考察や、そこに向かっていくスタートアップに必要な心構えなどを語りあった。

特に、ホロウィッツ氏がCEOとして苦労を重ねた体験に基づいたアドバイスに、オーディエンスは耳を傾けていた。「どうしたらイノベーティブな考え方、アントレプレナーシップをキープできるでしょうか」という質問に対して、こう回答した。

ベン・ホロウィッツ「問題なのは、イノベーティブなアイディアは一見するとバッドアイディアに見えてしまうこと。悪いアイディアを拒絶してしまうとイノベーションを捨ててしまうことになる。悪いアイディアに出会ったら切り捨てるのではなく、なぜそのような悪いアイディアを思いついたのかというところまで考えることが必要」

暮らしたい場所で暮らすための「イノベーション」

そして、午後2番目のセッションは「サステイナブルな未来のビジョン」。パネリストは株式会社LIFULL 代表取締役社長で、新経済連盟理事も務める井上高志氏と、Mistletoe株式会社代表取締役社長兼CEOの孫泰蔵氏だ。このセッションの副題は「サーキュラーエコノミーとLiving Anywhere」だった。

欧州委員会が2015年に、サーキュラーエコノミーの実現に向けて「サーキュラーエコノミー・パッケージ」を採択したり、またオランダ政府が2050年までにサーキュラーエコノミーの100%実現を目指すなど、世界各国で取り組みが進むサーキュラーエコノミーについて両氏が何を語るのか注目を集める中、「Living Anywhere」構想が発表された。

これは「将来、技術革新が進むと人間の仕事量も必然的に低下する。その結果ワークシェアが進み、収入減も予想される。そうなった場合、支出も劇的に減らす必要がある」という発想に基づき、「物価の高い都市に集中して住むのではなく、インフラや教育の心配をせず、どこでも住みたい場所に住めるようにする」というもの。

続いての登壇は、Dropbox 共同設立者兼CEOのドリュー・ヒューストン氏。ビジネスパーソンにとってインフラとなりつつあるDropboxの新サービス「Dropbox Paper」の紹介やDropboxによる働き方改革に対する言及や、「体系的に学んで背伸びをすることがCEOとして大切」というメッセージがあった。

引き続いてのセッションは少々趣が変わり、テーマは「トランプ大統領誕生 – 今後の世界情勢を語る」というもの。日本再建イニシアティブ理事長の船橋洋一氏、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長のピーター・ランダース氏、そしてゴールドマン・サックス証券株式会社副会長を務めるキャシー松井氏の3氏が、外交、経済、国内政策などの面からトランプ政権について論じあい、アメリカが内向きの政策を進めている現状にあっては、日本はASEANとの関係を強化すべきなどの提言があった。

「テレビ離れは起きていない」

次のセッションは、株式会社サイバーエージェント代表取締役社長/新経済連盟副代表理事の藤田晋氏と、C CHANNEL株式会社代表取締役の森川亮氏による「動画配信メディアの未来」。同セッションの模様は、別途レポートしている。

そしてこの日最後のセッションとなったのが、分子イメージングプログラム・アメリカ国立がん研究所・米国NIH主任研究員を務める小林久隆氏による、がん治療におけるイノベーションだ。

小林氏が進める「近赤外光線免疫療法」は狙ったがん細胞だけを攻撃し、しかも人体への負荷や副作用がほとんどないという非常にイノベーティブながんの治療法で、現在アメリカでの臨床試験が進んでいるという。途中登壇し、個人的にこの研究を支援しているという楽天の三木谷氏は「日本でも、がんに苦しむ患者さんにはやくこの治療法を提供していきたい」と意欲を語った。

盛大な拍手で初日のセッションは幕を閉じ、2日目のセッションにも期待が高まるものとなった。

 

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