2017年4月6日、7日に、世界の新しい経済・産業を牽引する企業家やアントレプレナーが最先端のテーマを語る「新経済サミット(NEST)2017」が5回目の開催を迎えた。
多数のセッションが開催された中でも、多くのビジネスパーソンを集めていたのが、「AbemaTV」を運営する株式会社サイバーエージェント代表取締役社長・藤田晋氏と、女性向け動画メディアを運営するC CHANNEL株式会社代表取締役・森川亮氏によるセッション『動画配信メディアの未来』だ。
スマホの普及などにより、一躍インタ-ネットコンテンツの主役に踊り出た動画を扱うメディアが、今後ますます広がりを見せていくことは想像に難くない。今回は、この分野での2大巨頭とも言える両氏が語り合った注目のセッションをレポートする。
「AbemaTV」と「C CHANNEL」が目指す動画は何が違うのか
AbemaTVは24時間、常時30チャンネルほどの番組を提供しているインターネットTV局で、PC、スマホでの視聴が可能だ。国内で2016年に最もダウンロードされたアプリであり、すでに累計1500万ダウンロードを記録している。
C CHANNELは、メイクやヘアアレンジなどのハウツーに特化した女性向け動画メディア。動画全体の8割ほどが「クリッパー」と呼ばれるインフルエンサーや一般ユーザーが制作したコンテンツになっている。
動画メディアとは従来のTV視聴をリプレイスするものなのか、あるいは別の新たな価値を生み出すものなのだろうか。セッションでは、動画メディアが何をリプレイスしようとしているかについて言及された。
動画メディアは何を「リプレイス」しているのか
スマホで動画を視聴することが当たり前になった現代において、AbemaTVとC CHANNELはどんなコンセプトで今の形へと成長してきたのか。藤田氏は、AbemaTVについてこう語る。
藤田「私は、AbemaTVの提携先であるTV朝日の番組審議委員を5年やっていて、バラエティや報道番組をよく見ていますが、改めて見るとやはりTV番組というのは非常に面白いんですよ。『TV離れ』というけれど、デバイスとしてのTVの前に座らなくなっただけで、番組自体は見れば面白い。
では、みんな何をやっているかというと、大体スマホをのぞきこんでいるんです。それならば、スマホにマッチしたユーザビリティの高いコンテンツを送り込んであげたらいいんじゃないかと思ったわけです。
つまり、このAbemaTVというのは、ユーザビリティを非常に意識したサービスなんです。圧倒的に高いクオリティのコンテンツを手元ですぐ見られるような形で送り届けていく」
生活スタイルや日々利用するデバイスの変化によって、TVへの接触時間は減少しているものの、TVが提供するコンテンツの価値そのものは非常に高い。その変化と変わらない価値の双方に着目し、ユーザーニーズを満たす形でコンテンツを届けるのがAbemaTVの考え方だ。ではC CHANNELはどうだろうか。
森川「C CHANNELのコンセプトは、全般的に発行部数が減少傾向にある女性向けファッション誌を動画へリプレイスすることです。メイクやヘアアレンジなどは雑誌のような写真と文字だとわかりにくいため、動画で紹介することで非常にわかりやすく解決できると思っています。
ちなみに『雑誌のリプレイス』というコンセプトはオープン当初から変わっていないんですが、最初の頃はグルメや旅行、ショッピングといった動画を提供していました。ただそういった分野はすごく個人の好き嫌いが激しい。
例えば、自分が行きたくても行けないようなお店を誰かがSNSで紹介したりすると、その投稿に対して嫉妬などの負の感情を持つように、場合によってはすごくネガティブに取られかねない。そういった分野は難易度が高いので、なるべく多くの人が好んでくれるハウツーに寄せた方がよいだろうという判断でコンテンツの中身が変わったりはしています」
どちらのメディアもユーザーの特性や土俵となるデバイスやプラットフォームの特徴を加味した上で、コンテンツが構成されているのだ。
動画メディアの「稼ぐ力」
テレビや雑誌は大きな影響力を持ち、ビジネスとしても市場が大きい。では、新たな動画メディアのビジネスとしての可能性の大きさはどう見られているのだろうか。AbemaTVのビジネスについて、藤田氏はこう説明した。
藤田「1年間AbemaTVをやってきて、赤字が200億円です。『無料のインターネットTV局』というビジネスモデルにドン引きしたのか、1年経っても競合は出てきていません。ちょっとさみしいですが(笑)。
実はAbemaTVのMAUは800万程度あって、NetflixやHuluのような動画配信サービスと比較しても、ダントツの1位です。しかし、インターネットを黎明期から見ているのでわかるのですが、1位であってもMAUが800万くらいということは、まだまだインターネットでの動画市場が未開拓だということ。ここ数年でスマホやWiFiが普及したことで、急速に市場ができつつあるというのが現状だと思います」
ではその現状に対して、藤田氏はどのようなマネタイズ手法を打っていくのか。
藤田「インターネット上で、TV同様のクオリティのコンテンツを大量に無料で配信し、広告で収益をあげるというビジネスモデルは世界的にも見たことがないし、成立していないと思うんですね。
でも広告事業は規模が大きくなればビジネスはやりやすくなるので、そこを達成するまで投資は続けますし、手応えはかなりあります。というのも、AbemaTVの視聴者のうち、7割くらいが10~20代という若い世代で、あと、30代前半が多いのですが、これはTV離れをしていると言われる世代です。
そして、そういった世代のユーザーに対してCMや広告を流すスペースとしてクオリティが保証されているメディアというのは、実は非常に限られているんです。問題のあるメディアに自社の広告が出てしまったら、広告主としてはとんでもないことですから。
さらに、今まではTVCMでなければできなかったブランディングや告知も、AbemaTVのクオリティであれば可能になる。そういう意味では順調に推移していくと考えています」
セグメントされたターゲットに対してクオリティの高いコンテンツを配信することでメディアの価値を引き上げ、効果的なマネタイズにつなげていく。それがAbemaTVのコンセプトのようだ。また、藤田氏が課題と感じているのが、番組録画に関することだ。
藤田「タイムシフト視聴やビデオ視聴が増えると、番組を見る際にCMが早送りされてしまい、これでは事業者としてはビジネスモデルが成立しなくなってしまうのです。なので、AbemaTVではリアルタイムで見るのは無料ですが、オンデマンドで視聴する場合には課金をお願いしています」
森川氏は、C CHANNELの収益化について、次のように説明した。
森川「私たちの場合は女性に特化したメディアということで、ファッション誌に広告を出しているような企業からの出稿が増えています。たとえば、商品である化粧品を使ったメイク動画を提供したり、あるいはクライアントの食材を使って料理をつくるといったネイティブアド動画があります。
あと、いわゆるインストリーム型の広告も伸びてきていますね。それに加えて、動画のeコマースも開始しました。動画を使ったショッピングの場合、最初から買うものが決まっているのではなく、動画を見てほしくなって買うというスタイルです。
そうであれば、ほしくなった時に簡単に商品を買えるのであれば売れるだろうという視点で始めたところ、結構売り上げが伸びています。また安価なオリジナルブランドを立ち上げ、日本だけではなくアジア全域で売っていくという部分を今強化しています」
動画メディアが変えていくもの
19世紀末に映画が発明された当時、動画は特殊な存在であり、それを見るために人はわざわざ劇場へ行く必要があった。その後TVの出現によって、自宅や自室でも一人で動画を見ることが可能になり、今ではスマホがあれば、時間、場所を問わず見たい動画を楽しめるようになった。さらに、多くのソーシャルメディアが動画対応を進め、動画コンテンツは一層コモディティ化が進むだろう。
本格的な市場規模の拡大を迎える動画配信メディアには、大きな可能性が広がっていることは間違いない。