プロが書き、読者全員がファクトチェックをするニュースサイト「Wikitribune」はインターネットの希望となるか

誰しも、子どもの時から一度は言われたことがあるだろう。「ウソはいけない」と。

ウソとは多くの場合(例外はあるが)つく人間の都合によって、事実が捻じ曲げられて伝えられる行為だ。残念なことに、広大なインターネットの世界上には、明らかな恣意――時として悪意による“ウソ”の情報が、さも真実のような体裁で流れてくることがある。昨今、話題に上ることの多い「フェイクニュース」は、その最たる例だろう。

2017年4月、Googleがフェイクニュースの上位表示および拡散を防ぐため、アルゴリズムのアップデートを実施したことは記憶に新しい。ほかにも、イギリスではBBC(英国放送協会)がフェイクニュースの偽りを暴く特命ユニットを結成したり、ドイツではメディアにフェイクニュースや違法コンテンツの速やかな削除を義務付ける法案が発表されたりと、世界全体が対策に向けて大きく動いている。

人々の消費行動はおろか、時には国政を占う選挙にまで影響を及ぼすフェイクニュース。世界を惑わせる“ウソ”に立ち向かうため、インターネットの公益性を愛する巨人――Wikipediaが声を上げ、動き出した。

Wikipediaの共同創始者として知られるジミー・ウェールズ氏は、フェイクニュースを撲滅し、インターネット上に質の高いニュースを提供するために、新たなニュースサイトを立ち上げた。その名も「Wikitribune(ウィキトリビューン)」だ。

“プロが書く文章にだって、間違いはあり得る”――「Wikitribune」の思想と設計

Wikipediaと同じく、Wikitribuneは広告収入に頼らず、寄付によって運営される(「ジミー・ウェールズからのお願い」を見たことはないだろうか?)。金銭的な授受が発生することによって生まれ得る“情報の恣意性”を排除し、より公益的な思想のもとにクリーンなニュース・インフォメーションが集まるプラットフォームを目指している。

Wikitribuneでニュースを執筆するのは、その道のプロフェッショナルである本職のジャーナリストたちだ。彼らは自身の知識と経験、ネットワークを駆使して、質の高いニュースをサイトに提供する。その執筆活動を、読者が寄付という形で支援することで、サステナブルなニュースの供給が実現される。

そして、最も注目すべきポイントは、掲載されたニュースについての真実性の検証・改善を、読者が担うことだろう。ウェールズ氏は「プロが書く文章にだって、間違いはあり得る。完璧な記事など、この世には存在しない」との考えのもと、誰でもコンテンツのブラッシュアップに参加できる“wikiシステム”を、この新たなニュースサイトにも取り込んだのだ。

“大衆”はニュースの事実性を守れるか?

ジャーナリストの書いた記事を、読む人全員でファクトチェックをし、改良ができる――プロと大衆が協力し合い、“正しい”ニュースを作り上げていこうとするWikitribune。読者は単なる寄付だけではなく、希望すればサービスの実質的な運営面――最も核となるコンテンツのクオリティ、ニュースのファクトチェックに携われる。通常のビジネスモデルにおいて、カスタマーが制作を担う構造は考えにくい。しかし、ことソーシャルセクターにとっては、この“プロセスへ参加する余地”のあることがむしろ快く受け入れられ、社会上により大きなインパクトを与えるための推進力につながるかもしれない。

一方で、この「大衆がプロの記事をチェックする」という体制が正常に機能するかは、静観していかなければならないだろう。大衆にも一人ひとりに“都合”が存在する。事実は一つしか存在しないが、事実の背景に隠されている“真実”の捉え方は、それを切り取る視点、立場の数だけ存在しうる――月が、地球と太陽との位置関係によって、満月にも新月にも変わるように。

「The news is broken and we can fix it.」――ウェールズ氏が言うように、インターネットのダークサイドとも言えるフェイクニュースに、我々は“集団的知性(Collective Intelligence)”という理性的なフォースでもって、対抗することができるのだろうか。これはWikipedia創業者が世界に向けて放つ、希望的な問いかけだ。Wikitribuneは私たちの良心を、そしてインターネットの可能性を、いま再び試している。

 

img: Wikitribune

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