「情報はタダになりたがる(Information wants to be free)」

「Whole Earth Catalog」創刊者のスチュアート・ブラントはこう語った。

インターネットの登場以降、情報は無料になることに抗えていない。ネットの記事も、動画も、楽曲も、様々なコンテンツが無料になる中で、それに対抗しようとするサービスも登場している。音楽ストリーミングサービス「Spotify(スポティファイ)」だ。

違法ダウンロードを減らすストリーミングサービス

Spotify創業の地であるスウェーデンは、違法ダウンロード大国として知られている。もはや楽曲の購入を消費者に促すことは難しい中で、Spotifyの創業者であるダニエル・エクとマーティン・ロレンズゾンはこう考えた。

「膨大な楽曲が月額制で聴き放題になるストリーミングサービスならば、違法ダウンロードの問題を解決できるかもしれない」

実際に、Spotifyが登場してから、スウェーデンでの音楽違法ダウンロードは25パーセント減ったという報告も出ている

Spotifyはどのようにして収益をアーティストに還元しているのか

Spotifyの登場は、音楽産業に対して「違法ダウンロードの減少」という影響を与えた。Spotifyは音楽業界に蔓延するネガティブ要因の排除に間接的に貢献しているだけではなく、よりポジティブな方向に進めるためのアクションもとっている。

Spotifyは有料会員からの収益をもとに、アーティストへの収益の分配を行っている。Spotifyのアーティストへの収益の分配方法は、「1再生あたり◯◯円」という数え方にはなっていないものの、楽曲の再生数が増えればその分アーティストへの分配額も大きくなる。

ミュージシャン、レコード会社、権利関係者向けにSpotifyのビジネスモデルを説明したサイト「Spotify Artists」を、音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏が翻訳しているので、詳しくはそちらのサイトを参考にしてほしい。

しかし、収益の分配についてSpotifyはミュージシャンや音楽出版社などから訴訟を受けてきた。

訴訟の際に、「メカニカルライセンス」と呼ばれる、アメリカの著作権法によって定められた、Spotifyが出版社に支払わなければいけない楽曲の使用権が未払いであると指摘されている。この問題が起こる背景にあるのは、楽曲の中には、楽曲の著作権者のデータが埋め込まれていない場合もあり、支払いが難しいという課題だ。

そして、この課題を解決する可能性を秘めているのが、ブロックチェーン技術だ。ブロックチェーンとは、仮想通貨「ビットコイン」の中核となる技術として知られ、様々な取引記録を改ざんされにくい形で記録することができ、その記録の処理や保管が低コストで可能になる。

これまでお金の取引に関わるデータは、金融機関などが一括して管理する「中央集権システム」の形式をとっていた。その一方で「ブロックチェーン」では、取引データの管理人が存在せずに、ネット上に保管され、利用者全員が確認できる「分散型台帳」の仕組みをとっている。

取引の記録を管理するためのサーバが不要なので、記録の処理や保管が低コストで可能になる。取引の記録を利用者全員が確認できるため、改ざんされにくいという特徴を持つ。

Spotifyによるブロックチェーン企業の買収は何を意味するのか

http://www.mediachain.io/

Mediachain Labs

2017年4月、Spotifyはブロックチェーン技術を持つスタートアップMediachain Labs(メディアチェーンラボ)を買収した。Mediachain Labsは、クリエイターがコンテンツに関する情報を添付し、そのデータをブロックチェーンに記録可能とするような、分散型システムの開発を行っている。

Spotifyはこのブロックチェーン技術を活用することで、Spotify上で提供される楽曲と、その楽曲の権利者を紐付け、クリエイターに適切なライセンス料を支払うことを考えている。楽曲の権利情報が分散型データベースに記録されていれば、楽曲の使用権の未払いもなくなっていくはずだ。

Spotifyは買収を発表したプレスリリースにて、次のようにコメントしている

MediachainのチームがSpotifyのニューヨークオフィスに加わることで、クリエイターと著作権者にとって、より公平で、透明性が高く、音楽産業に貢献する手助けをしてくれるでしょう

Mediachain Labsが持つ技術は、楽曲管理に限られたものではない。同社の技術を活用すれば、インターネット上で無断に転載される動画や画像などの全てのコンテンツに対して、そのコンテンツが再生された数に応じて、著作権者に収益が入る仕組みを導入できるはずだ。

クリエイターやアーティストが自身のクリエイティブワークから適切な収益を上げられる未来が訪れることに期待したい。

img: Mediachain Labs