厚生労働省は、飲食店をはじめとした屋内施設において原則禁煙とする健康増進法改正案をまとめた。5月中旬時点では国会における調整が難航しているが、全面禁煙もやむを得ないという方針を厚生労働省が考えたことは、日本の喫煙事情における大きな変化を表している。
喫煙事情を大きく変えようとするテクノロジーが、去年あたりから一気に台頭してきている。紙巻きタバコの代替品として注目を集める加熱式タバコだ。加熱式タバコは電子タバコの一種で、葉タバコを使ったカートリッジを加熱し喫煙する。
フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が販売する「IQOS(アイコス)」を中心に、昨年から加熱式タバコが大流行。都内を中心に多くの店舗で品切れとなり、ネットでは定価以上の価格で売買されている状態が続いている。
社会的要請と喫煙者のニーズのバランスを取ったこと、そして電子タバコが未知のものでなかったことによる人々の心的ハードルの低下によって、IQOSは社会に受け入れられた。
加熱式タバコはプラットフォーム争いへ
ただ、加熱式タバコはここからさらなる競争にさらされることになる。それは電子機器ならではのプラットフォームの争いだ。
2017年5月現在、IQOS以外にも、日本たばこ産業(JT)が展開する「Ploom TECH(プルーム テック)」や、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン(BAT)が展開する「glo(グロー)」などが登場している。
3者間には、デバイスにもタバコのカートリッジにも互換性はない。各社扱っているタバコの銘柄も異なるため、吸い慣れているタバコを吸うためにメーカーを選ぶ人もいるだろう。Ploom TECHは今年6月から東京で販売開始、gloは仙台限定とまだまだ知名度が低く、販売地域も限られているため、現状はIQOSに先行者優位があるはずだ。
JTとBATは、IQOSというプラットフォームにのり、IQOSで使えるカートリッジを作るという選択肢もあっただろう。しかし、両者とも自社でのデバイス開発へ舵を切っている。現状、加熱式タバコの価格は紙巻きタバコの価格とほぼ同じである。ここで他社プラットフォームに乗ると、利用料なり何かしらの価格を上乗せする必要が出ることで、紙巻きタバコやプラットフォーマーであるIQOSのタバコよりも割高になってしまうからだ。
現状の価格に合ったタバコの提供を行うために、自社プラットフォームの構築は避けて通れない道と言える。とはいえ、6月から東京での販売を開始するJTですら、全国販売は2018年を目指している。IQOSと比べると完全に周回遅れの動きだ。先行しているプラットフォーマーに挑むからには、なにかしらの挽回策、ないしはタバコ産業ならではの勝ち筋が見えているのだろう。
フィリップモリスジャパンが将来的には紙巻きタバコから撤退する旨を公表したように、加熱式タバコはこれから数年後の主戦場となる。いずれかのプラットフォーマーが市場を席巻するか、それとも3者共存する道があるのか。国内外合わせ巨大なマーケットを持つゆえ、今後も引き続き見守っていきたい。
テクノロジーを取り入れる段階はプラットフォームの構築段階とほぼ同義だ。プラットフォームを手中に収められるか否かは、その後のビジネスの成否に大きく影響を与える。単純に良いプロダクトを作るという点だけでなく、汎用性の高さや横展開のしやすさ、他社と共働しやすい環境を構築できるかなど。プラットフォームとしての成功も考えたビジネス設計が、いまの時代は必要といえる。