映画を軸にしたコミュニティを形作るマイクロシアター「popcorn」

映画、音楽、演劇、マンガ……どんなコンテンツも、人と人がコミュニケーションを取るきっかけを与えてくれる。新しく出会った人と、好きな音楽や映画が被って、話が盛り上がった経験がある人も多いはずだ。

音楽ライブなどに足を運ぶと、好きなコンテンツを共有するだけではなく、その会場に集った見ず知らずの人の間に”一体感”が生まれている光景を観ることがある。「音楽」はその場に集った人々に一体感を生みやすいのに対し、映画はどうか。

映画館に行くと、ほかの観客と同じ映画を鑑賞しているはずなのに、その時間を共有している相手について知るすべがない。上映が終われば、同じ映画を観た人と会話をすることもなく、そのまま帰路につく。同じ映画を観ている人同士である以上、ほぼ確実に共感する何かがあるにもかかわらずだ。

映画を人と楽しむためのプラットフォーム「popcorn」

映画館での視聴体験は変えにくい。だが、自主上映会を開催すれば、映画上映の後に感想を述べ合ったり、一緒にご飯を食べたりと、人と映画を楽しむ体験を生み出せるのではないだろうか。

映画館以外で映画を上映しようとすると、映画を上映するための権利許諾やその使用料の高さがハードルになる。自宅などのプライベート空間ではなく、カフェ、バー、宿泊施設といったパブリックな空間で上映会を行う場合は、作品を利用するための許可取りが必要だ。その映画の権利を持っている会社の窓口を探し、許可を取る必要がある上に、利用費用も数万円から数十万円かかる。

「これでは映画を自由に楽しむことはできない」−−そう考えた男たちが解決に向けた挑戦を始めた。クラウドファンディングサイト「MotionGallery(モーションギャラリー)」を立ち上げ、クリエイティブな作品づくりをサポートしてきた大高健志氏と、「日本仕事百貨」のナカムラケンタ氏が共同で手がける「popcorn(ポップコーン)」だ。このサービスは、映画の新しい可能性を切り開くかもしれない。

4月22日に正式にリリースされたpopcornは、さまざまな場所を映画を上映するマイクロシアターに変えることができるプラットフォームだ。

popcornは、映画を上映するための2つの障壁――権利許諾の煩雑さと、上映費用の高さをクリアすることで、自主上映会の開催をサポートしている。自主上映会への入場者数に応じて、上映料が発生する仕組みを導入しており、入場者が集まらなかった際に、イベントの主催者が費用を負担しなければならないといったリスクは低くなっている。

popcornの運営側で上映できる映画の権利許諾を行っているので、イベントの主催者が個別に権利許諾を得る必要もない。

映画の上映権を所有している会社も、自主上映会を開きたい個人にその都度対応するよりも、プラットフォームに映画の利用許可を出したほうが、やり取りの手間が少なくなる。自主上映会のプラットフォームをつくることは、映画の上映権を所有している側にもメリットは大きいはずだ。権利者が一度の上映ごとに費用を取るのではなく、プラットフォームに提供して費用を受け取ろうという動きは「Netflix」や「Hulu」といったオンデマンド動画配信サービスにおける動きにも近い。

ただ、popcornの運営側が映画一つひとつの許諾を取らなければいけないため、上映可能な映画自体は約50本(6月9日時点)と、まだ多くはない。この先、上映可能な映画の本数が指数関数的に増えていくためには、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのように著作権管理にも変化が起こることが必要かもしれない。

自主上映会を行いたいイベント主催者は、popcornのウェブサイト上で権利許諾が取れている映画を探すことができる。作品の上映はストリーミング配信で行うため、用意する必要があるのは、安定したインターネット環境、パソコン、プロジェクター、スクリーン、音響設備だけ。イベント主催者はpopcornのウェブサイトで上映できるスペースを探すことも可能だ。自主上映会に参加したい方向けに、上映会の検索機能も提供している。

「映画を軸にしたコミュニティ」をマーケティング・チャネルとして活用する可能性

映画におけるオルタナティブな動きは活発化している。ここ数年で、popcorn以外にも映画館以外の公共の場で上映を行うようなイベントが増えてきた。ビルの屋上や公園で行われる屋外上映会や、1950年代から60年代にブームとなったドライブインシアターを模した上映会がリバイバル開催されている。星空の下で寝袋に包まれながら映画を観る「ねぶくろシネマ」や、野外映画フェス「森の映画祭」も毎回大勢の人で賑わっている。

これらの映画祭や、popcornによる自主上映会には、「同じ映画に関心がある」という共通点を持つ人が集まる。彼らはライフスタイルや趣味趣向が似通っている可能性が高い。同じ興味を持つ集団であれば、マーケティング的な価値も出てくる。

例えば、コミュニティマーケティングを手がける京橋ファクトリーは、コミュニティに対してスポンサーが付き、そのスポンサーがサンプリングを行えるサービス「sponcircle」をリリースしている。この仕組みを活用すれば、「同じ映画に関心がある人の集まり」はマーケティング・チャネルとして新しい価値を持つ。チケットプラットフォームとして知られる「Peatix」は、専門性や趣味性が高いイベントと協賛したい企業をマッチングさせるサービス「Peatixイベントアド」の提供を行っており、専門性や趣味性が高い集団が集まる場を生み出すことは広告的な価値がある。

自主上映会や、映画を上映するフェスを開催することで、映画を軸としたコミュニティが各地で生まれている。こうした新しいコミュニティがマーケティング・チャネルとして有効になっていくことも考えられる。マス・コミュニケーションが効かなくなったと言われるようになって久しいが、様々なトライブをターゲットとしたマーケティングがこの先は注目を集めるかもしれない。

img: popcorn

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