金融は世界の貧困を救えるか?ソーシャルレンディングの現在地を探る

金融や投資は、富を持つものが、さらなる富を得る手段と捉えられてきた。近年、注目を集めるソーシャルレンディングもまた、リターンの高い金融商品として投資家たちからは注目を集めている。しかし、過去の金融や投資と異なり、ソーシャルレンディングは富裕層のためだけのものではない。ソーシャルレンディングは、貧困層へ「信用」を提供する。

2017年4月、世界の新経済・新産業を牽引する起業家・イノベーターが一堂に会し、時代の潮流を先取りする議論を交わす『新経済サミット2017』が開催された。2日にわたって開催された本イベント内でのセッション「不透明な世界情勢におけるFinTechの今後」では、ソーシャルレンディング事業を手がけるInskit(インスキット) CEO 兼 共同創業者のジェームス・グティエレス氏が登壇した。

ソーシャルレンディング(P2Pレンディング)は、FinTechブームの立役者でもあり、リーマンショック以降に一気に拡大した。海外ではイグジットした企業も登場しているソーシャルレンディングについて、国内外の現在地を紹介していく。

Inskitが提供するのは“信用”という価値

リーマンショック以降、米国では多くの人々が信用貸付といった融資を受けられないという課題を抱えている。数百ドル(数万円)を借り受けることすら難しいという人も決して少なくないという。国民の50%弱は銀行口座に預金がなく、クレジット(信用貸付)のニーズは非常に高い。特に中産階級の低所得者層におけるニーズは高く、Insiktは彼らをターゲットにソーシャルレンディングサービスを展開している。

NEST2017のセッションに登壇したInskit CEO 兼 共同創業者のジェームス・グティエレス氏はヒスパニック系の人々に少額融資を行うOportun(オポーチュン)(前・Progreso Financiero)を2005年に創業した人物だ。同社はこれまでに50万人以上に15億ドルを上回る融資を行うなど急成長してきた。この成長を牽引してきたジェームズ氏が新たに立ち上げたのが、ソーシャルレンディングサービスを提供するInskitだ。

2005年頃からレンディング事業に携わる同氏はアメリカにおけるクレジット事情を以下のように語った。

ジェームス氏「現在アメリカの労働者階級の人々は、クレジットスコアを取得できずローンなどを組むことができません。お金に困ってもクレジットスコアが無いため、高利ながら2週間限定で無担保の貸付を受けられるペイデイローンというものしか利用できない。スコアを貯めて、ちゃんとした金融機関からお金を借りることができないのです。そこで私たちInskitが役割を果たします。Inskitと3回ほど取引をすれば、メインストリームの銀行にアクセスできるクレジットスコアを貯めることができるのです」

Inskitはあくまでも金融業ではないノンバンクだ。同社はLendifyというクレジットのスコアリングから、バックオフィス、ファンディングまでを行うオンラインプラットフォームを開発し、顧客のクレジットを管理しているという。

Lending Club, Funding Circleなど…ソーシャルレンディングの現在地

2017年現在、ソーシャルレンディング事業で最も世界の注目を集めているのはイギリスのFunding Circle(ファンディングサークル)だろう。同社は2010年に創業した後急成長を遂げ、2013年には米Endurance Lending Networkを買収するとともに米国市場にも参入。2016年時点での貸出額合計は13億ドルに及ぶという。今年2017年頭にはシリーズFで1億ドルを資金調達。ソーシャルレンディング界のユニコーンと呼ばれ期待を集める存在だ。

ここまで聞くとソーシャルレンディングには強いトレンドがあるように思える。が、少し落ち着いて、一足早くソーシャルレンディングビジネスを手がけ成功を収めたLending Club(レンディングクラブ)の事例も知っておこう。同社は2006年に創業し2014年12月にIPOしている。当時は非銀行系(=ノンバンク)の事業者が金融業で大成功を遂げたとして注目を集めたが、株価は上場以来高値を更新することはなく、右肩下がりに近い。さらに2016年5月には不祥事で創業社長が退任。現在はなりを潜めている。

一方国内ではSBIグループやmaneo、AQUSHなどいくつかの事業者はソーシャルレンディングビジネスを手がけ始めているが、まだまだ成長段階と言えるレベルだ。成功事例が多くないため参考にしづらい部分もあるが、Funding Circleは先駆者(=Lending Club)の苦労を参考に、上場ゴールとならないような施策と成長戦略が求められるだろう。

ソーシャルレンディングが提供する社会的価値

前述のとおり、リーマンショック以降、低所得者層の借り入れはますます困難になってきている。ソーシャルレンディングは、与信審査を通らない人が信用情報を積み上げていく場として、社会的にも重要な役割を担っていくだろう。

他方で、金融業は数多くの法規制が存在する規制業種のため、ビジネスを広げるためには数多くの壁が存在するのも確かだ。ご存知のとおり規制が厳しい国内では、海外のような成功例を次々と生み出していくのはベンチャー・大企業とも容易ではないだろう。

とはいえ、FinTechトレンドの本流であり社会課題の解決にもつながるソーシャルレンディングには多くの期待が寄せられる。国内外ともさまざまなプレイヤーが成功を収めることを期待していきたい。

img: Funding Circle , Lending Club

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