新たなサービスが数年のうちに世界各地に展開することも珍しいことではなくなってきた。人口減少が予想され、マーケットが縮小していく国内でサービスを立ち上げる起業家にとって、世界を志すことは必要条件になりつつある。だが、グローバル展開だけが道ではない。地域に根ざした強いビジネスモデルを探ることも一つの道だ。

2017年4月、世界の新経済・新産業を牽引する起業家・イノベーターが一堂に会し、時代の潮流を先取りする議論を交わす『新経済サミット2017』が開催された。

2日にわたって開催された本イベント内でのセッション「ライドシェア、カーシェア、そして自動運転」では、Cabify(キャビファイ)創業者兼CEOのフアン・デ・アントニオ氏やCareem(カリーム) CEO兼共同創業者のムダシール・シェイハ氏らが登壇した。

Cabify、Careemはともにライドシェアサービスを提供する事業者だ。Cabifyは南アフリカを、CareemはMENA(Middle East and North Africa・中東と北アフリカ)を中心に展開している。Uber、Lyftといったビッグプレイヤーに彼らはどのように立ち向かっているのか。

ビッグプレイヤーではなく、ローカルプレイヤー

前述の通りCabifyは南アフリカを中心に、CareemはMENA(ポストBRICsとして注目が集まっている中東と北アフリカを合わせた市場)を中心にビジネスを展開。現状は地域に特化してビジネスを展開している。

他方で、UberやLyftといったビッグプレイヤーは世界各地で事業を展開し、その規模を拡大しつづけている。拡大する一方でそれぞれの地域が持つ商習慣や法規制への対応が求められ、地域間に存在する差に苦労する様子も見受けられる。

NEST2017のセッション内で、Careemのムダシール氏は地域に特化する強みについて以下のように言及した。

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ムダシール氏「われわれがカバーしている中近東は、アメリカ、ヨーロッパ、日本と比較すると、交通インフラが整っていません。われわれは同地域に交通インフラを提供するため、12カ国60都市でサービスを展開しています。グローバルなプレーヤーとの争いは避けられませんが、われわれは地元の事情に精通し、ローカライゼーションを強めることで強みを出しています。

たとえば、ある地域では文化上の理由で女性が運転できない場合があります。富裕層であれば運転手を雇えば良いのでしょうが、皆が雇えるわけではない。そこでわれわれのサービスが価値を発揮する。誰かに頼らずとも自由に移動できる権利を女性に提供できるのです。こういった地域ならではの課題を集められること。そして、その課題に適切にアプローチできるのは地域をよく知るものの強みだと思います」

ローカルプレイヤーならではの戦い方を探る

無論Careem以外にも、さまざまなプレイヤーがライドシェアサービスを地域に強みを持ち展開している。どのようなプレイヤーがどのような地域に特化し展開しているのか。続けてその事例をいくつか紹介していこう。

スペイン語圏をカバーするライドシェア『Cabify』

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NEST2017にも登壇したCabifyは、拠点とするスペインをはじめ、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルー、パナマ、エクアドル、アルゼンチン、ドミニカ共和国、ウルグアイなどスペイン語圏で最大規模のサービスを提供している。同社が展開しているラテンアメリカ市場について、Cabify CEOのフアン・デ・アントニオ氏はセッション内で以下のように語っている。

フアン氏「ラテンアメリカではバスや公共交通機関などのインフラもあまり発展しておらず、タクシーも治安が悪いために使いにくい。ゆえに、これまでは車を持つという選択肢しかなかった中産階級の人々がCabifyのユーザーとなっています。新たな交通手段を提供することはもちろん、中産階級の人に職を提供し、彼らが銀行の信用を積むことにも繋がるなど、大きな役割を担っています」

長距離移動が高価なヨーロッパならではのライドシェア『BlaBlaCar』

BlaBlaCar

ヨーロッパを中心に展開するフランス発のライドシェアサービスBlaBlaCar(ブラブラカー)。同社は、空き席を有料で提供したいドライバーと、乗車を希望するユーザーとをマッチングしている。2014年には、当時フランス国内では最大規模となる1億ドルの資金調達を行うなど、その規模を拡大してきている。

BlaBlaCarがヨーロッパで存在感を出す背景には、ヨーロッパにおける高価な長距離移動コストがある。陸続きかつユーロという共通通貨が使われていることもあり、ヨーロッパでは国をまたいだ長距離移動の物理的ハードルは非常に低い。しかし公共交通機関、車移動ともに移動コストが高価なため、長距離移動をしたいけれど、一人で移動すると高いと感じていた人々同士が上手くマッチングし、活発に利用されているという。

地域の移動事情に精通していたからこそ気付けるポイントをBlaBlaCarは上手くおさえているというわけだ。

東南アジアに強みを持つライドシェア『GrabTaxi』

GrabTaxi

最後に紹介するのは、シンガポールを拠点に東南アジアでサービスを展開するGrabTaxi(グラブタクシー)だ。同社はソフトバンクやホンダといった日本企業も含めかなりの額の資金調達を行っている。2016年にソフトバンクがリードしたラウンドでは7.5億ドル。ホンダは金額こそ公表していないが、今後事業面でも何かしらの影響を与える可能性も考えられるかもしれない。

同社は東南アジアを中心にサービスを展開しているが、ユーザーにとっては安全で明瞭会計、かつ言葉の壁を気にする必要がないといったメリットを提供している。特に自動車所有のハードルが高いためタクシーの需要が強く、ドライバーも玉石混淆なシンガポールではその強みを発揮しているといえるだろう。

ライドシェアだけに限らない、地域に特化する強みを探る

世界規模でビジネスを展開していくためには、地域ごとにさまざまな困難に立ち向かわなければいけない。UberやAirbnbをはじめとしたシェアリングサービスが携わるものは規制業種であることも多く、特に地域ごとの法規制や商習慣の違いに苦労している。そのなかで地域に特化してビジネスをカスタマイズ、提供していくことでマーケットシェアを確保することは理にかなっているのかもしれない。

グローバル化が進むからこそ、グローバルに展開可能なビジネスモデルに目を向けがちだが、強いビジネスモデルは地域性にあるかもしれない。この視点は持っておきたいところだ。

img: BlaBlaCar , GrabTaxi