エストニアIT企業の実態|なぜ多くのユニコーンを輩出できるのか

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電子政府としての取り組みが注目されているエストニア。IT立国であるエストニアには、多くのIT企業が本社を構えている。

エストニアのIT企業の中には、評価額が10億ドル以上で未上場のスタートアップ企業のことを指すユニコーン企業を輩出している。

なぜ多くのユニコーン企業をエストニアは輩出できるのか。また、エストニアには実際にどのような企業が存在しているのだろうか。

エストニアが生んだIT企業「Skype」

エストニアの代表的なIT企業である「Skype」。Skypeは、Webを通じて世界中の国や地域にいながら電話やチャットが無料で利用できるサービスだ。

今でこそLINEやFacebookメッセンジャーなど、無料の電話サービスが増えてきているが、Skypeは先駆け的な存在となっている。

Skypeで働いていた出身者が、新たなベンチャー企業を立ち上げるという好循環が生まれており、エストニアではIT企業が増加している。

エストニアのIT企業をテクノロジーやサービスごとに紹介

IT企業と一言で言っても、テクノロジーやサービスは大きく異なる。そこで、エストニアのIT企業を、以下のように分類して紹介していく。

アドテクノロジー

アドテクノロジーとは、インターネット広告に関するシステム。

アドテクノロジーを活用することで、広告の配信管理や分析が可能になり、広告配信の最適化や工数削減を実現できる。

世界のインターネット広告費は年々増加傾向にあり、広告を出稿したいいわゆる広告主企業の数も年々増えている。

そのような状況の中で、アドテクノロジーを提供している会社の目的は、自社サービスの広報活動をしたい広告主企業と、メディアパブリッシャーの広告収益最大化を図ることだ。

エストニアの「AdCash」は、広告主のブランディングを促進しながら、メディアの広告露出を最大化するサービスを提供しており、これまでに約2365万ドルを調達している。

農業

IT技術は農業の分野においても取り入れられている。

IT技術を活用した農業のサービスは農家向けだけでなく、一般の方に向けたサービスもあり、サービスの幅が非常に広い。

エストニアの「Click&Grow」では、世界中の人が健康的で新鮮な食事ができる世界を目指し、屋内菜園用のスマートポット「スマートハーブガーデン」を提供している。

スマートハーブガーデンは、一度セットアップすることで、肥料や水などの世話が不要。LEDライトもついているので、太陽光などを気にせず、屋内で育てることができる。

農業分野でIT活用が進むことで、途上国の貧困飢餓撲滅や環境の持続可能性の確保につながる。

教育

IT技術の発展で、教育分野でも大きな変化が起きた。

学習するために、学校や塾に通わずとも、インターネットを通じて最新の情報が手に入れることができるようになったのだ。今では、学校同士が情報を共有するためのサービスも登場した。

エストニアの「Tebo」では、先生が教材として使用したスライドなどを他の学校の先生や生徒と共有できるプラットフォームを展開している。

利用者は世界中で増え、約2,000の学校で採用され、1万人の教師と3万人の学生に利用されている。

教育分野でIT技術が活用されることで、現代社会の課題である貧困、人権、平和、開発などを解決し、持続可能な社会づくりの担い手を育てることへつながる。

金融

金融分野でのテクノロジーは、ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせ、「フィンテック」と呼ばれる。

フィンテックと言っても、仮想通貨やクラウドファンディング、急速に広まりつつあるQRコード決済など非常に幅広い。

幅広いフィンテックの分野において、エストニアの「fortumo」はモバイル決済サービスを展開している。

350以上の携帯電話業者で決済サービスが利用でき、中国、インド、ケニアなどの新興国における初めてのモバイル決済業者だ。

IoT

IoTとはInternet of Thingsの略称で、モノのインターネットという意味だ。

IoTではスマホやPC、タブレットなどの通信機器だけでなく、家電や車などのモノがインターネット経由で通信ができる。

IoTが普及することによって、例えば、外出先から冷蔵庫に入っている食材を把握できるようになる。

エストニアの「Esensorics」では、IoTに対応した電子センサーの開発と販売をしている。電子センサーの展開は多岐にわたり、データセンターから博物館展示など様々だ。

ブロックチェーン

ブロックチェーンは、ビットコインなどの仮想通貨の根幹技術として一般的に知られるようにまでなった。

ブロックチェーンのシステムは、ネットワーク上の利用者がお互いの取引データを分散して管理し合うため仕組みだ。

お互いの取引データを管理し合うため、もしデータの一部が改ざんされたとしても、分散された他のデータとの整合性が取れない場合、不正が明らかとなる。

ブロックチェーンの技術は今後、仮想通貨だけでなく、様々な分野での応用が期待されている。IoTの普及に伴い、セキュリティリスクが高まることが予想されるからだ。

世界最大のブロックチェーンセキュリティ企業である「Guardtime」は、エストニアに本社を構えており、これまで、エストニアのシステムの基礎を支えるブロックチェーン技術の開発に携わってきた。

また、エストニアだけでなく、欧米の政府や企業に高度なセキュリティーシステムを提供している。

モビリティ

モビリティは、従来の移動手段の概念を覆す新たなサービスだ。

モビリティは、ICTを活用して移動手段をクラウド化し、最適な交通手段の検索から予約、決済まで一貫して行うことが可能だ。エストニアとスエーデンにモビリティのソリューションを提供している「Ridango」は、公共交通機関においてサービスの改善を図っている。

エストニアでは他にも、タクシーとリムジンの配車アプリを展開している「TaxiStartup」など、日本よりもモビリティサービスが進んでいる。

モビリティサービスの進展は、利用者の快適な移動を実現するだけでなく、渋滞解消等による環境問題解決への貢献も期待されている。

ユニコーン大国でもあるエストニア

エストニアには、ユニコーン企業が多く存在する。ユニコーン企業とは、評価額10億ドル以上の非上場、設立10年以内のベンチャー企業をことを指す。

エストニアの代表的なユニコーン企業には、オンラインカジノソフトの「Playtech」、個人間送金サービスの「TransferWise」、ライドシェアアプリの「Bolt」などがある。

なぜ人口130万人の小国であるエストニアでここまで多くのユニコーン企業が存在しているのか。それは冒頭でも紹介したようにSkypeの影響が大きい。

Skypeはサービスリリース後、世界中で多くのシェアを獲得した。その後、立ち上げから2年後にはeBayから26億ドルで買収。Skypeは、エストニアの国民に大きな影響を与え、Skype出身者が新たなIT企業を立ち上げる好循環が生まれた。

Skype出身者たちのことを敬意を込め、Skypeマフィアと呼んでいる。

日本の企業もエストニアを拠点に

エストニアの最新のデジタル技術を経営に取り入れるため、日本企業もエストニアに拠点を構え始めている。

日本の大手総合商社である丸紅は、2019年4月エストニアの首都タリンに出張所を新設した。出張所を新設した目的は、先進技術の情報収集がメインとなる。

丸紅の他にも、国際協力銀行(JBIC)もエストニアのベンチャーファンドと先進技術のファンドを立ち上げた。AIやIoT分野で投資する計画になっており、このファンドには日本企業のホンダやパナソニックも出資している。

今後エストニアは、EU市場への展開拠点としてだけでなく、スタートアップ投資の拠点やブロックチェーン開発の拠点など、様々なビシネスの拠点となることが期待される。

エストニアのITが発達した理由

なぜここまで世界中からエストニアのITが注目を集めるようになったのか。それには、エストニアの電子政府が大きな要因となっている。

エストニアは1991年に旧ソ連から独立した。独立した頃のエストニアは、国家としての主力産業がなく、資源も限られていた。そのような状況の中、政府はIT技術に対して投資を積極的に行い、通信インフラを整えていったのだ。

IT技術の発展により、エストニアの電子政府を推進するための情報基盤連携システム「X-ROAD」を構築した。

X-ROADの構築により、エストニアの国民はICカード1枚で行政手続きの99%が可能になった。さらに、2008年にはブロックチェーンのテスト導入を進め、今後も活用を広げようとしている。

エストニアのITが発達した理由としては、電子政府におけるiT技術の発展が非常に大きい要因である。

エストニアの周辺国も活発化

エストニアだけでなく、同じバルト三国であるリトアニア、スウエーデンやフィンランドもIT産業が活発化している。

リトアニアは、近年ブロックチェーンなどの新技術の実験場として注目されている。フィンランドもICT(情報通信技術)国家に向けての活動を行っている。

日本企業向けに、エストニアを含めた北欧ベンチャーと協業のためのマッチングイベントも開催される予定だ。

まとめ

以下、今回の要点となる。

エストニアは、政府によるIT技術への積極的な投資により世界中から注目を集める国家となった。今後も新たなスタートアップの誕生が期待されている。

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