世界各国と比較して、キャッシュレス決済比率が低い日本。キャッシュレス化が進展している国は約40〜60%台だが、日本は約20%である。
政府が掲げた「キャッシュレス・ビジョン」では、大阪で2025年に開催される関西万博までにキャッシュレス決済比率を40%を目標とし、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。
では、日本でキャッシュレス社会を実現するための課題は何なのか。
日本がキャッシュレス社会を実現するための課題と合わせて、キャッシュレス社会が実現するとどう社会が変化していくのかを解説していく。
日本のキャッシュレスの現状
日本のキャッシュレス比率は約20%と、世界各国と比較しても低い割合である。
- 韓国:約90%
- カナダ:約55%
- イギリス:約55%
- アメリカ:約45%
(出典)クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会 第五回検討会資料 株式会社NTTデータ経営研究所 より
まだまだ日本におけるキャッシュレス比率比率は低いが、2009年の11.9%から2017年には21.3%に推移しており、年平均で6.7%の上昇が認められる。
(出典)経済産業省 FinTech ビジョンより
キャッシュレスと一言でいっても、支払い手段の例としては以下の3種類に分類される。
- プリペイド(前払い)
- リアルタイムペイ(即時払い)
- ポストペイ(後払い)
プリペイドは、事前に利用金額をチャージしておいて利用するキャッシュレス方法だ。日本におけるプリペイドの主要なサービスは、交通系の電子マネーが挙げられる。
リアルタイムペイは、その名の通り、支払った瞬間に取引が行われるキャッシュレス方法。銀行や国際ブランドなどが発行しているデビットカードや、近年急速に広がりを見せているQRコード決済などが主なサービスとして挙げられる。
ポストペイは、与信機能を利用した後払いのキャッシュレス方法である。最も馴染みのあるキャッシュレス方法であり、クレジットカードはポストペイに分類される。
クレジットカードは、日本におけるキャッシュレス支払い手段で最も利用されており、2016年の民間最終消費支出に占める18%であった。
キャッシュレスの今後の課題
日本におけるキャッシュレスを普及していくための課題は、以下の4点になるだろう。
環境整備
キャッシュレスを普及するためには、環境整備が欠かせない。
日本におけるキャッシュレスを普及するための取り組みとして、経済産業省は以下の活動内容を検討している。
- 低額決済における新たな仕組みの検討
- 医療機関におけるキャッシュレス普及
- 災害時に強いキャッシュレスのあり方
- 消費者インサイトに基づく調査
- キャッシュレスを起点としたデータ利活用
- タッチ決済の普及促進
キャッシュレス決済は、災害時に決済システムが機能不全となり利用することが難しくなる。また、災害時に携帯電話の電波に通信障害が発生すると追い打ちをかけてしまう。
企業は、災害時の決済の対応策としてキャッシュアウトを導入する動きもある。キャッシュアウトとは、デビットカードを提示し、暗証番号を入力することで災害時に現金を引き出せるサービスだ。
情報を管理するモバイル端末とレジ側の電源が確保できれば利用可能である。
他にも、タッチ決済の普及が期待されている。
タッチ決済が普及することで、クレジットカードやデビットカードを使用する際のサインや暗証番号の入力が不要になり、これまで以上に素早く安全に支払いが可能になる。
タッチ決済の普及と合わせて、タッチ決済と親和性の高いデビットカードの普及がキャッシュレスを推進すると考えられている。
セキュリティ
キャッシュレス決済は、クレジットカードやスマートフォンなどの電子機器を使って決済を行うため、不正利用などに対してのセキュリティの確保が重要だ。
決済事業者が進めているセキュリティ対策としては、生体認証や3Dセキュアが挙げられる。
生体認証は、指紋などを用いて個人を特定する認証方法だ。他者からのなりすましが困難であり、本人がICカードなどを用いて認証する必要がなく、セキュリティ面からも利便性の面からも優れている。
また3Dセキュアは、オンラインショッピングでのクレジットカード決済で本人認証を行うサービスである。消費者がクレジットカードの番号や有効期限等を入力した後、カード所有者が事前に登録したIDやパスワード等で本人確認を行う。
決済事業者がセキュリティ対策を進めるのと合わせて、消費者側もセキュリティ対策を行う必要がある。
利用しているオンラインショッピングのURLがおかしくないか、支払明細を確認して身に覚えのない利用はないか等の対策を行うことが大切だ。
コスト構造の見直し
キャッシュレスを普及するためには、コスト構造の見直しも課題の一つである。クレジットカード端末の導入費用や手数料の高さは、キャッシュレス導入の阻害要因となっている。
クレジットカード端末の導入費用は、数万円から数十万円必要で、POS連動すると更に高価に。手数料に関しては、業界平均で3.24%だ。この数字は、小売利益率の1〜2%よりも高く、小売業界では売れば売るほど赤字になってしまう。
コスト構造の見直しに期待されているのが、QRコード決済システムだ。QRコード決済システムは、導入費用が従来の端末よりも比較的安価に抑えることができる。
QRコードを利用したアプリ決済は、タブレットやスマホといった汎用性の高いモバイル端末があれば利用可能だ。タブレットやスマホであれば、決済システムだけでなく会計ソフトやレジアプリなどにも利用できる。
そういった点も踏まえて、QRコード決済の普及は期待されている。
行政機関でのキャッシュレスの促進
キャッシュレスは民間企業だけでなく、公的分野である行政機関も促進していく必要がある。
キャッシュレスは前述したようにセキュリティ面での課題を抱えており、そのイメージを払拭するためにも、行政機関がキャッシュレスを促進していくことは社会受容性を高めることに繋がる。
また、行政機関がキャッシュレスを促進することで、多くの国民にとって身近な税金支払いにおいてメリットを感じることができる。
行政機関のキャッシュレス化の事例として、福岡市が取り組んでいる事例がある。
福岡市では「真のキャッシュレス社会実現に向け、決済コミュニケーション施策実証実験」プロジェクトで、博物館や動植物園でキャッシュレス化の実証実験を実施した。
収益拡大や顧客満足度向上のためのキャッシュレス化
日本全体でキャッシュレス化を促進しているが、キャッシュレス決済が広がることで、どのようなメリットがあるのだろうか。
消費者と事業者それぞれ大きなメリットを解説していこう。
<消費者のメリット>
- 手ぶらで簡単に買い物が可能(大金や小銭の不便さの解消)
- ネット取引で不可欠
- カード紛失・盗難時の被害リスクが低い(条件次第で全額保証)
- データの利活用により利便性が向上(自動家計簿など消費履歴情報の管理が容易)
キャッシュレス化によって、手ぶらで簡単に買い物が可能になる。ATMでお金を降ろしたり、小銭を持ち歩く必要がなくなる。
また、キャッシュレス化によってデータの利活用ができるため、キャッシュレス決済サービスと自動家計簿を紐付けることで、購入したレシートを入力するなどの手間なく家計簿を作成することも可能だ。
<事業者のキャッシュレスのメリット>
- ⼈⼿不⾜対策(レジ締、現⾦取り扱い時間の短縮)
- 従業員による売上現⾦紛失・盗難等のトラブル減少
- 現⾦取扱コスト(ATM維持、取扱⼈件費等)を削減
- 個⼈の購買情報を蓄積
- インバウンド需要の取り込み
事業者がキャッシュレスに取り組むことで、生産性向上につながる。レジ締、現金取り扱い時間が短縮されることで、他の業務に時間を費やすことが可能に。
他にも、キャッシュレス化によって従業員による売上現金紛失・盗難等のトラブルのリスクを減らすことができるため、事業者がキャッシュレスを行うことはメリットが非常に大きい。
また、インバウンドにおいては、キャッシュレスは非常に重要なポイントだ。
日本のキャッシュレス決済比率が18.4%であるのに対し、韓国では89.1%、中国では60%、アメリカでは45%と、諸外国ではキャッシュレス決済が普及している。
訪日外国人旅行者がストレスなく観光するためには、キャッシュレスの普及が欠かせない。
キャッシュレスに対応していることで、旅行者は手持ちの現金を減らすことなく消費が可能になる。異国の地で旅行する際に現金を持ち歩くのは、誰だって不安だ。
そうした不安を解消し、インバウンド需要を取り込むためにキャッシュレス化が必要である。
政府は、「明日の日本を支える観光ビジョン」で掲げた訪日外国人旅行消費額2020年8兆円、2030年30兆円の達成にはキャッシュレスが必要だとしている。
まとめ
ここまで、キャッシュレス決済の普及への課題について紹介してきた。キャッシュレス化は、消費者や事業者だけでなく、社会全体に大きな恩恵をもたらすものだ。
しかし、日本は世界的に見て、キャッシュレス決済比率は低いままである。日本におけるキャッシュレス決済比率を高めていくためには、以下の課題に取り組まなければならない。
- キャッシュレス化に向けた環境整備
- キャッシュレス化におけるセキュリティ対策
- コスト構造の見直し
- 行政機関でのキャッシュレス化の促進
キャッシュレス化を普及させるためには、実現可能性の高いものから取り組み、目標としている大阪で2025年に開催される関西万博までにキャッシュレス決済比率を40%へ近づけていく必要がある。