エストニアの電子政府は、先進的な取り組みとして世界中から注目を集めている。行政サービスの多くが電子化されており、国民も電子化を受け入れているのだ。
しかし、なぜエストニアが電子政府化をしたのか、実際どのような取り組みをしているのか詳しく調べなければわからないことも多い。
そこで今回は、エストニアの電子政府について以下の順で解説する。
- エストニアの電子化された行政サービス
- エストニアが電子政府となった要因
- エストニアの電子国民には誰でもなれる
- エストニアの起業事情
エストニアについて
エストニアは、ロシアとラトビアに接するヨーロッパの一国。リトアニアとラトビアとともにバルト三国と呼ばれている。人口は約130万人で、日本でいう青森県と同じ程度の人口の国だ。面積は九州と同じくらいと、人口や面積は大きくない小国でありながら、電子政府が世界中から注目されている。
公用語はエストニア語だが、英語教育レベルが高いことから、英語が話せれば仕事や観光で訪れても生活に不便がない。日本の方には、大相撲の把瑠都がエストニア出身であることも馴染み深いのではないでだろうか。
行政サービスの99%が電子化されているエストニア
エストニアの行政サービスの99%は電子化されており、オンラインで手続きが完結する。
オンラインでの手続きを可能にしたのは、国民が持ち歩く身分証明書である「eIDカード」と呼ばれる電子カードだ。国民一人ひとりに番号を割り振るID制度が導入され、15歳以上の国民にeIDカードの保持を義務付けている。
eIDカードは、日本でいうところの
- マイナンバーカード
- 運転免許証
- 健康保険証
- 交通系ICカード
などの役割を果たしており、日本では何枚も持たなくてはいけないカードを1枚のカードの情報に集約することができ通常の行政サービスだけでなく、子どもが生まれた際の出生届や会社の登記申請などもオンライン上できてしまう。
また、エストニアの確定申告は約95%もの人がオンラインで電子納税している。日本にも「e-Tax」という確定申告書を作成するシステムが存在しするが、平成28年度の個人の所得税申告・消費税申告の合計で54%とエストニアほどの利用率ではない。
一方で、オンラインで完結できないものは、結婚・離婚・不動産取引の3つだ。
また、日本では議論が進んでいない電子投票も導入されており、先進的な取り組みがなされている。
エストニアが電子政府となった要因
エストニアではなぜここまで電子サービスが行き届いた国家となったのだろうか?それは、国家として電子サービスを推進したことが挙げられる。
エストニアが行政サービスの電子化への取り組みは、1997年に国家戦略として「e-Governance」を推進しはじめた。
その後、2001年にはエストニアの基盤技術となっている、「異なる機関のデータベースを連携させるプラットフォーム」X-Roadを構築している。それ以降、提携する機関や組織を増やしていった。
X-Roadの導入によって、行政機関の紙での作業が効率化され、コスト削減にもつながった。また、医療分野でのデータベースが連携したことにより、処方箋の情報が異なる病院や薬局などで共有が可能となった。
現在、X-Roadの連携機関が900を超えるなど、電子サービスのインフラ化が進んでいる。
歴史的背景や地理的要因も電子国家を後押し
エストニアが電子国家となったのは、歴史的背景や地理的要因もある。
エストニアは長い間隣接するロシアの支配下にあったのだが、旧ソ連の崩壊によって1991年に独立した。ロシアから独立こそしたが、産業が栄えているわけでもなく、資源が豊富な国ではない。そこで、政府が目をつけたのがIT技術だった。
幸いにも、エストニアには最先端技術の研究所があり、人工知能などを研究していたのだ。研究所で働く人材を中心として、電子政府のシステムを構築していった。
また、エストニアは日本の九州と同じくらいの面積で、人口は約130万人。国の半分以上は山に覆われており、全ての国民に行政サービスを届けるためには、インターネットに頼るしかない状況だったことも理由に挙げられる。
実はエストニアは、1918年に一度ロシアから独立していたのだが第二次世界大戦が起こると1940年に再び旧ソ連に占領されてしまった。
先ほども説明したように1991年に再び独立をするわけだが、計2回も占領をされてた歴史的背景から、いつ領土を失うかという懸念を抱いている。
そのため、政府はもし領土を失ったとしても、国家を再生することができるように国民のデータを集めるために電子政府を推し進めたのだ。
このように、国家が電子戦略を推し進めた以外にも、様々な要因が重なり、エストニアの電子政府は作られてきた。
ブロックチェーンを運用
エストニアは、X-Roadについでブロックチェーンの技術を導入してる。ブロックチェーンは、現在は仮想通貨の技術として知られるようなった。ただ、エストニアはその前からブロックチェーンをテスト導入し、試験運用を行ってきた。
ブロックチェーンの導入は、デジタル化が進んでいたことと合わせて、2007年のサイバー攻撃もきっかけとなった。
2007年の4月にエストニアは、大規模なサイバー攻撃を受け、ネットのインフラが一部麻痺するほどの被害がでた。
エストニアは、サイバー攻撃からインターネットのインフラを守るために、サーバを変更するなどの対処をしたが、サイバー攻撃から完璧に守ることはできなかった。
そこで、セキュリティ強化が急務の課題となり、国家レベルでは世界初となるブロックチェーンを導入したのだ。ブロックチェーン技術を使うことで、データの改ざんができなくなるなど、セキュリティの強化へつながっている。
ソースコードを公開
エストニアの電子国家運営に関わる全てのソースコードは、すでに電子政府コードリポジトリという形で公開されている。
内容の公開だけでなく、ソースコードが使用可能な形で公開されており、今後どのような形で使用されるのか海外からも注目を集めている。
誰でも電子国民になれる
エストニアの電子国民には、「e-Residency」という制度を利用し、手続きをすると誰でもなることができる。e-Residencyとは、エストニア政府のプラットフォームを外国人向けに解放した制度だ。
エストニアの電子国民になることで、エストニアで法人を設立することができる。
日本で法人を設立するためには、税務署や役所での書類の手続きが必要だが、エストニアでは日本のような役所での書類の手続きは不要でオンライン上で全ての手続きが完了してしまう。ただし、電子国民になっても、ビザの取得などとは関係ないため、実際にエストニアに住むことはできない。
それでも、世界各国から応募が集まっており、6,000社を超える法人が設立され、日本の登録者も2,000名を超えている。
e-Residencyの申請は非常に簡単。申請ページから申請し、パスポート、顔写真と申請料の100ユーロがあればすぐに登録できる。犯罪歴等がなければ、申請が却下されることはほぼない。
エストニアで法人を設立するのは、単にエストニア国内でビジネスができるだけでなく、EU圏に属していることからヨーロッパでビジネスを展開しやすくなるメリットもある。
起業が盛んな国家
法人設立が簡単な背景からエストニアは、起業が盛んな国家であり、北欧でのシリコンバレーと呼ばれるほど、世界中から多くのIT起業が進出している。
今や世界中で利用されている「Skype」も2003年にエストニアから誕生している。
また、言語学習アプリ「Lingvist」を提供しているLingvistもエストニア発の起業だ。2013年に誕生し、エストニアで最も成功したスタートアップ企業としても有名だ。他にも、エストニア発のスタートアップ企業は数々存在する。
また、コワーキングスペースではハッカソンや最新のテクノロジーに関するイベントが開催されるなど、起業をする文化が根付いている。
エストニアは、電子政府としての取り組みやe-Residencyと合わせて、プログラミングやアプリ開発などの教育を小学校の選択授業に取り入れるなど教育にも力を入れており、全体的な学力も国際学力調査でも上位となっている。
その結果として、国民の選択肢として起業と就職が同列で考えられるほどとなっている。
ノマドワーカーに最適な環境
エストニアは、ネット環境も整っているため、Web系のリモートワーカーやフリーランスたちが集まってきている。ネット環境は、カフェや空港だけでなく、ビーチや公園など、どこでも接続可能。
また、エストニアは英語レベルが高いため、英語が話せれば生活には困らない。治安も良く、住み心地の良さなどもノマドワーカーが世界中から集まる要因となっている。
エストニアだけでなく、国外でもX-Roadの導入が進む
エストニアで電子政府を推し進める要因となったX-Roadは、エストニア国外でも導入が進んでおり、「アゼルバイジャンやフィンランド、ウクライナ、モーリシャス、ナミビア」などの国でも導入されている。
特にアゼルバイジャンは、エストニアの技術を取り入れるだけでなく、「Asan Imza」と呼ばれる独自の取り組みも行い、次のエストニアとして注目されている。
日本が電子政府になるには
日本がエストニアを見習って、電子政府になるにはどうしたらいいのだろうか?まずは、導入を推し進めるも普及率が2019年現在12.8%と依然低いままのマイナンバーカードの改善が必須と言える。
そのためには国家が国民に対して、透明性向上が必要だ。国民全体も、マイナンバーカードが何のために発行されたのか、今後どのように活用していくかを理解して活用していかなくてはならない。
2018年1月には、安倍首相がエストニアを訪問し、日本とエストニアの関係強化に言及した。
政府間での連携が強化されれば民間レベルでの連携だけでなく、様々な分野での協力が期待されており、日本社会におけるデジタル化の進展を進めるために、エストニアの先進的な取り組みには注目が集まっている。
まとめ
以下、今回の記事の要点となる。
- エストニアでは、行政サービスの99%が電子化されている
- 電子化によって大幅なコスト削減や作業の効率化を実現した
- ブロックチェーンを国家レベルで導入した世界初の国
- e-Residencyによってエストニアの電子国民になれる
- Skypeなど、IT企業のスタートアップが集まっている
エストニアは、世界中から注目を集めている電子国家だ。その取り組みは、ビジネスにおいても目が離せない存在になっている。