中国アリババ集団によるスマホ決済「支付宝(アリペイ)」を活用したスーパーマーケットが「盒馬鮮生(フーマー)」だ。中国の最新事例として、日本でもメディアに取り上げられる機会が増えている。

中国・上海にある「盒馬鮮生」の店舗

日本にもキャッシュレスやセルフレジを導入するスーパーは増えているが、いったい何が違うのか。実際に店舗を訪れてみた。

アリババの最新スーパーの中身とは

フーマーは、中国で広く使われているアリペイを活用したスーパーとして、アリババの本拠地である杭州はもちろん、北京や上海、深センなどに多数の店舗を展開している。

その中で筆者が訪れたのは、上海市浦東新区にある「金橋国際商業広場」だ。ユニクロやファストフード、日本料理店などが並び、日本の郊外にあるようなショッピングエリアだ。その地下1階に、フーマーの店舗が入っていた。

郊外のショッピングエリアといった雰囲気の「金橋国際商業広場」

店内には野菜や魚といった生鮮食品、冷蔵ショーケースが並んでおり、スーパーとして目立った特徴はない。刺身や寿司、日本のブランドの酒類やお菓子が並んでおり、上海では高級な部類のスーパーになる。

フーマーの店内。生鮮食料品などが並ぶ風景は一見したところ普通だ

普通のスーパーとやや異なるのがセルフレジの多さだ。そこにはタッチパネル付きの端末が何台も並んでおり、買い物客は購入したい商品を自らスキャンしていく。最後にスマホのQRコードで代金を支払う仕組みだ。

店内の一角に並ぶセルフレジの端末

ただ、日本のスーパーでもセルフレジは珍しいものではない。クレジットカードやスマホ決済によるキャッシュレスに対応した店舗も多い。それでは何が日本のスーパーと決定的に違うかといえば、「会員用アプリ」の存在だ。

買い物体験を変える「会員用アプリ」の存在

フーマーは「会員店」との表記があるように、会員向けスーパーという位置付けだ。ただ、面倒な会員登録は必要ない。アリペイを使っている人なら、すぐに会員用アプリを連携させ、買い物することが可能だ。

店内で目立つのは生け簀で泳ぐ魚介類をその場で調理してくれるサービスだが、注文するにはアプリが必要だ。店内にはアプリのダウンロードを促すQRコードが随所に掲示されている。筆者もその場でダウンロードして会員になってみた。

アプリのダウンロードを促す掲示物
盒馬鮮生のアプリ。アリペイと連携してすぐに会員になれる

店頭に並ぶ商品は、すべてにバーコードがついている。このバーコードをアプリで読み込むと、産地などの情報が表示される。さらにこの画面から「買い物カゴ」に入れると、あたかもネット通販で買い物をするように配送を頼むこともできる。最短30分で自宅に届くという。

店内にある商品バーコードを読み込み、配送を頼むことが可能

ネットで食料品を注文できるスーパーもあるが、やはり実物を見ながら買いたい人は多いだろう。だが袋詰めして持ち帰る手間を考えれば、あまり多くの買い物はできない。そこでアプリがあれば、実物を見てから配送するという選択肢が生まれるのだ。

フーマーではどのような方法で買い物をしても、アプリに履歴が残るという。このデータはマーケティングに活用され、クーポンなどの特典を得られるほかに、再注文も簡単にできる。このようにオンラインとオフラインを融合した仕組みはOMO(Online Merge Offline)として、注目を浴びている。

店内を観察していくと、セルフレジの横には有人のレジも用意されているが、利用する人はあまりいなかった。フルーツやドリンクなど1〜2点の商品をセルフレジに通し、そのまま手に持って出ていく姿が目立った。

セルフレジだけでなく有人のレジもあるが、数は少ない

たしかに日本でもアプリを提供するスーパーはあり、店舗から自宅に配送する仕組みも存在している。だがそれらは十分に活用されておらず、多くの人は店頭に並んだものをレジに運び、現金で決済して持ち帰っているのが現状ではないだろうか。

だがフーマーなら、店内の買い物カゴとスマホの買い物カゴを使い分けながらショッピングができる。これはテクノロジー先行の奇抜な取り組みというよりも、むしろネット時代のスーパーとしてあるべき姿という印象だ。

なお、これまで外国人がアリペイを使うにはハードルが高かったが、11月5日には旅行者向けに「ツアーパス(Tour Pass)」の提供が始まり、日本のクレジットカードから容易にチャージできる道が開かれた。中国を訪れる機会があれば、これを利用して買い物体験をしてみてはどうだろうか。

取材・文:山口健太