最近、「AI(人工知能)」に関するニュースを目にすることが多い。「AIで自動運転車が実現」「囲碁で人工知能が人間に勝利」といったニュースが伝えられ、「便利になる」「脅威になる」などさまざまな感想が飛び交っている。

AIを搭載した商品やサービスは、次々に生み出されている。身近なところでは、「スマートスピーカー」がある。搭載されたAIアシスタントに話しかけ、その反応を試した人も多いだろう。将来的には「IoT社会」が実現し、家電に搭載されたセンサーから得た情報をネットで結び、AIで処理・自動化するといったことが行われると予測されている。

ただ現状、日本における「AI(人工知能)」に関する俯瞰的な情報は、人々によって共有されているとはいえない。会話の中で、議論が噛み合わなくなることも多い。そこで、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターがまとめたリポート「人工知能と日本 2017」を見てみたい。

日本企業の人工知能導入状況

2018年3月16日、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(以下・国際大学GLOCOM)は、日本の人工知能活用実態と産業政策・企業戦略についての提言をまとめた「人工知能と日本 2017」を発表した。

国際大学GLOCOMは、1991年に設立された国際大学付属の研究所だ。学際的日本研究・情報社会の研究と実践などを行い、産官学民の結節の場として、新しい社会動向に関する先端研究所であることを目指している。

調査では、まず、「日本企業の人工知能導入状況」が調べられている。就労者アンケートによると、2017年時点での「日本企業の人工知能導入率」は3%だった。これは、アメリカ企業の導入率14%とくらべて、低い数字となっている。

2016年1月1日~2017年8月31日にリリースされた、人工知能関連商品サービスで、最も多かったのは、自然言語データを利用した「チャットボット」だった。画像データ・音声データ・動画データにAIを活用したサービスの展開は、今のところ少ない状況だ。

AIの導入はまだ少ないが、導入事例を見ていくと、幅広い問題解決への利用が見られる。

AIによる課題解決の事例と、人々が抱くイメージ

2016年1月1日~2017年8月31日における企業リリースを詳しく見ると、情報通信産業関連サービスだけでなく、農業・林業など一次産業向けのサービスなど対象が幅広いことがわかる。

特に活用されていたのは、「生産性・効率性の向上」と「労働力の補完」を目的としたものだった。HitachiのAI「H」は、鉄道車両の省エネ化を実現するシステムで活用されており、電力消費が14%減少した。「Watson」をコールセンターに導入した三井住友海上では、約6,850時間、約2,400万円もの費用削減につながった。

また、AIは産業界における「生産性向上」や「労働力の補完」だけでなく、まちづくりの領域を中心に、「社会課題の解決」にも期待されている。「社会課題への関心・人工知能活用への期待と事例数」の調査を見ると、「インフラの維持」「エネルギー供給の安定」「サイバー空間の安全」といった問題に人々が関心を持ち、AI活用の事例も多く存在しているのがわかる。

AIが、人々の関心が高い社会的な課題を解決するということであれば、人々のAIに対するイメージもポジティブなものになるだろうと考えられる。「人工知能の普及を好ましいと思うか」という調査では、「好ましいと思う」人が「好ましくないと思う」人を大きく上回った。

調査では、各メディアが「人工知能」をどのように語っているかも調べている。「学術論文」では手法の研究が中心で、「企業のリリース」ではソリューションの実現手段として語られることが多い。「ネットメディア」や「キュレーションメディア」では、「シンギュラリティ」というワードが頻出し、仕事の変化について語られている。「政府機関議事録」では「リスク」「影響」について議論している様子がうかがわれる。

職業別に「人工知能の普及を好ましく思うか」について調べると、AIの開発や分析に携わる人ほど好意的となることがわかった。また、メディアの影響につい調べると、「テレビ・新聞」を情報源とする人は悲観的に、「ネットニュース」をソースとする人は好意的になる傾向がある。情報量が少なく漠然としたイメージを持つ場合に悲観的になり、具体的な利用イメージを持つ人ほど好意的になるようだ。

人工知能活用の社会受容性を高めるには、技術開発→実証→ PR・メディア露出といった流れが必要と考えられる。社会受容性を高める他にも、日本でのAI活用を広げるのに必要なことがいくつかあげられる。

日本における人工知能活用のカギは

調査では、AI活用における日本独特の状況についても調べている。

2016年1月1日~2017年8月31日にリリースされた活用事例を分析すると、人工知能関連サービスの開発に使用した、訓練データの量が10万件以下のスモールデータであることが少なくないことがわかる。通常のテキストデータ、画像データ、数値データ等だけでなく、不動産データ、操作ログ、気象データ、Webのアクセスログなど広範なデータが適用されている。

小規模の訓練動作でも動作することが売の人工知能も発表されている。人工知能時代には、単純にビッグデータを持つプレイヤーだけが勝利すると考えられているが、ニッチなフィールドで収集したスモールデータでビジネス展開するストーリーも考えられるのだ。そのためには、日本のものづくりを支える中小企業へのAI導入が必要だ。

しかし、日本でのAI導入は、大企業でしか行われていないという実態もある。AI導入に必要なコスト面や技術面での情報が不足しているためだと考えられる。これに対しては、ライブラリ、ツール・Web サービス、学習済みモデル等充実してきており、人工知能活用のハードルが低くなっている現状を広く知らせることが必要だ。

また、人工知能の利用が進まない理由として、日本の制度面での障壁がある。「建設業」「医療・福祉」は深刻な人手不足に悩んでいる。それと同時にAI×ロボットによるソリューションが導入しやすい領域だ。しかし、この2つのは「資格」が必要な産業だ。AIを導入しても、結局、資格を持った人が業務に当たらなければ法律違反になることが考えられる。制度面を改善し、人とAIがうまく協業できる仕組みを作ることが必要となる。

AIについてよく知り、受け入れ、活用していく

今、AI(人工知能)の利用は世界的なテーマだ。スマートスピーカー、自動運転車、IoTなどのニュースに触れ、人々は「好意的なイメージ」を持ったり、「悲観的な脅威」を感じたりしながら、話題にしている。

調査を見ると、日本でのAI活用はまだ少ない。しかし活用状況を見ると、まちづくりの領域を中心にさまざまな「社会課題の解決」を実現していることがわかる。AI活用の方法を見ると、「スモールデータ」の利用など、日本独自の路線も見えてくる。

AIについては、関連する情報が多い人ほど好意的なイメージを持つようだ。また、AIの導入が遅れる中小企業には、必要な情報が足りないと指摘されている。これからの日本は、AIについて、「よく知り、受け入れ、活用していく」ということが必要なのかもしれない。

img: PR TIMES