自らが子どもをもつことを望む、望まないに関わらず、高齢化、人口減少が進む日本において、持続可能な社会をどのように形成していくかが、重要な課題のひとつと言える。価値観やライフスタイルが多様化する現代では、学業、就職、結婚といったライフステージの変化だけでなく、ラインプランそのものも多様化しており、妊活や妊娠・出産、育児を取り巻く環境も変わりつつある。

自信をもって自分らしい人生の選択ができるように、そして将来の選択肢を豊かにするために、一人ひとりが“ライフプランを考えること”の重要性や、“ファミリーフレンドリーな社会”というより良い社会への道しるべを探るオンライン・シンポジウムが2022年3月4日に開催された。

本シンポジウムは、メルクバイオファーマ株式会社が実施する“新しい命を宿すための努力を、皆が応援する社会”を目指した「YELLOW SPHERE PROJECT」の一環として行われた。不妊治療の末に2児を授かったタレントの安田美沙子さんと、これから結婚や出産を考えたいというタレントの休井美郷さんをスピーカーに迎え、弁護士で信州大学特任教授の山口真由さんがファシリテーターを務めた。

“ファミリーフレンドリーな社会”を目指すなかで、日本はどういった課題を抱え、どういった対策を講じているのか——。現状を学びながら、それぞれの本音を交えて語られたシンポジウムの内容をお届けする。

妊娠・出産について知っておきたい知識とライフプランニングの重要性

人生のなかでも大きなイベントである妊娠・出産はライフプランを大きく左右するものだが、必ずしも望むタイミングで訪れるとは限らない。シンポジウムではまず、こうした背景情報を知るために妊娠や出産に関するデータが紹介された。

不妊の検査や治療を受けたことのある夫婦は約5.5組に1組(18.2%)となっており、不妊の心配をしたことのある夫婦は約3組に1組(35.0%)と、増加傾向にある。

また不妊治療を中断した理由は「子どもを授かったから」という回答が64.4%と過半数を占めているが、経済的な理由での治療継続の断念が14.2%、年齢的な理由による中断/終了が15.1%と、不妊治療が成功に到らなかったケースも少なくないことが分かる。

次に不妊の原因が男女のどちらにあるのか。性別による分類を見ると、女性に原因がある不妊が41%、男性に原因がある不妊が24%、男女共に原因があるのは24%となっており、不妊は女性だけの問題ではなく、男性に起因する割合も全体で約半数であることが見てとれる。

このデータを見て「こんなにも不妊に悩んでいる方がたくさんいることを初めて知った。不妊治療は女性の悩みという印象があったが、悩んでいる男性も半数いる。パートナーと一緒に考えていかないといけないものだと思った」と休井さん。安田さんも「まさか自分が不妊治療を受けるとは思わなかった。でも周りに相談してみると実際には多くの方が不妊治療をしていた」と自身の体験を語った。

タレント 休井美郷さん

不妊に悩んでいることや治療を行なっていることを周囲には知らせずにいる人たちも多く、その実態の数は私たちの予想を上回っているようだ。

実は胎児の時が一番多い?女性の卵子の数の変化

卵子の数はいわゆる出産適齢期と言われる頃に一番多いのではなく、生まれてからは砂時計のようにどんどん減少していく。胎児の時が約700万個と一番多く、出生時には約200万個まで減少。思春期には20万〜30万個に。閉経に向かって数がゼロに近づいていくことが示された。

山口さんは「36歳の時に卵子の数を調べたところ卵巣年齢が50歳と言われ、自分にはほとんど選択肢がないことに衝撃を受けた」とご自身の体験を話し、その後卵子凍結を決断したという。子どもを授かることを当たり前に感じていたことから、とてもショックだったと当時を振り返った。

弁護士 / 信州大学特任教授 山口真由さん

今求められる“ファミリーフレンドリーな社会”とは?

自分らしいライフプランを歩もうとするなかで、周囲のサポートが必要となることは多く、逆を言えば、自分が周囲をサポートする側に回ることも考えられる。そこで求められるのが“ファミリーフレンドリーな社会”を築いていくことだ。ファミリーフレンドリーとは『育児や介護といった家族的責任を負う方々への配慮』であり、家族的責任を負う従業員の仕事と家庭の両立を支援し、多様かつ柔軟な働き方を労働者が選択できる仕組みのこと※1を指す。

※1法政大学教授 坂爪洋美氏:ファミリーフレンドリー──ファミリーフレンドリーからワーク・ライフ・バランスへの転換が意味すること

ここで、“ファミリーフレンドリーな社会”の構築に深く関わる子育て環境について、2つのクイズが出題された。

Q1. 2021年にユニセフが調査した『先進国の子育て支援の現状』で、対象41カ国中、日本の順位が1位だった項目は次のうちどれか?

正解は「③の育児休業制度(男女対象)」。

その他、「①就学前教育や保育への参加率」は31位、「②保育の質」は22位、「④保育費の手頃さ」は26位となっており、これらの分野は今後さらに改善が必要であることが示された。

意外にも、制度上の父親の育児休業期間が日本は世界で最も長い。平均賃金の58%が給付される育休が52週あり、賃金が全額支給された場合に換算すると30週に相当。父親のための育休が、父母の育休を合わせた期間の3分の1以上を占めているのは、日本、アイスランド、韓国、ポルトガルの4カ国のみだという。また、日本は父母に認められた期間がほぼ同じ長さである唯一の国でもある。

Q2. 日本の育児休暇取得率は女性が81.6%で、男性は何%か?(ちなみに、育児休暇の取得率が高いスウェーデンの男性は88.5%)

正解は12.65%。

男性の育児休暇取得率は2010年には1.38%だったが、その後年々上昇しており、2020年には初めて10%を超えた。しかし、これは世界と比べると、まだまだ低い水準にとどまっている。厚生労働省の調査によると、男性が育児休業制度を利用しなかった理由としては「収入を減らしたくなかったから」が41.4%と最も高く、日本ではまだ男女間の賃金格差があることが大きな要因と言えそうだ。次いで「職場で取得しづらい雰囲気がある」が27%と、男性の育児休暇取得への理解がいまだ醸成過程であるという、社会的な要因も少なくはないようだ。

「育児休業制度が整っているにも関わらず、ここまで低いのだとビックリした」と驚きの様子の休井さん。安田さんは「なかなか休みづらいというのも、分からなくはない。2人目がいるような家庭では、子どもに同じ教育を受けさせるためにも手分けして面倒を見る必要がある。育児は仕事ではないと言われることもあるが、仕事よりも大変なこともある。もっと堂々と制度を活用できる社会になってほしい」と語った。

タレント 安田美沙子さん

“ファミリーフレンドリーな社会”を目指す海外の事例

次に、“ファミリーフレンドリーな社会”を構築するために、海外で実際に取り組まれている施策の一部が紹介された。日本とはどのような違いがあるのだろうか。

出典:ザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット報告書

シンガポールでは1990年代に出生率が下がったことから、2000年代に入り上記のベビーボーナス制度を導入した。日本では子ども1人につき42万円の出産育児一時金が健康保険から支給される。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構(厚生労働省が所管する独立行政法人)

スウェーデンの育児休暇は、男女それぞれ60日分は互いに振り分けることができず、男女ともに取得が可能なことから男性の育児参加が進んだとみられている。日本では分割取得は原則できないが、育児・介護休業法の改正により、新たな育児休業制度(2022年10月1日施行)では2回まで分割して取得が可能となる。

出典:経済研究所所報(北欧諸国に学ぶ少子化対策)

フィンランドでは、子どもの数やひとり親といった負担を考慮した設定で、17歳まで無課税の補助金を支給。日本では子どもの数に関わらず一律の金額で、15歳までの支給となっている。

実際に子育てをしている安田さんは、「今はコロナ禍もあり、子どもを預けられないことがある。もっと会社に子どもを預けられる施設などが充実してほしい。社会やコミュニティーみんなで育児をしていると感じられたらいいなと思う」と、経済面以外でのサポートも“ファミリーフレンドリーな社会”の構築には必要であるという。

山口さんは「日本の育児休業制度は世界でナンバーワン。でもそれが活用されていない。男性も取得しやすいように社会の空気が変われば、日本はもっと“ファミリーフレンドリーな社会”へと進む可能性がある」と将来に期待を込めた。

2020年の出生数は過去最少。日本が抱える課題

続いて、ライフステージの変化やライフプランニングを大きく左右する出生について、日本の少子化問題の現状から議論が展開された。

2020年の出生数は840,835人と過去最少。2020年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産すると見込まれる子どもの平均数)は1.34となり、前年より0.02ポイント低下している。

内閣府が発表した少子化が起こる原因をまとめたフローチャートによると、少子化の原因は大きく以下の3つが挙げられる。

①晩婚化の進展
●良い相手に巡り合わない
●女性の就業率の高まり
●結婚資金がない         など

②未婚化の進展
●結婚観や価値観の変化      など

③夫婦の出生力の低下
●仕事と子育ての両立の負担感
●出産/子育ての機会費用の増大・生涯の未婚率の増大       など

安田さんは、子宮内膜症を患っていたことで20代から婦人科に通い、30代半ばから不妊治療を始め、体外受精によって子どもを授かった。このご自身の体験から「せっかく20代から主治医がいたのだから、早いうちにライフプランを伝えていれば、また違ったのかもしれない」と語り、休井さんに対して「主治医を見つけたり人間ドックに行ったりして自分の身体を知ることが大事」とアドバイスを送った。

卵子凍結を選択した山口さんは、スムーズに卵子が採れなかったことに対して精神的な負担が大きかったという。しかし「事前に知識を持っていれば、自分の状況を冷静に判断して、選択肢がもっと広がったのではないか」と自身を振り返った。

『少子化社会対策』5つの骨組みと不妊治療助成金の拡充

少子化に対し、国では以下の5つを掲げて対策を講じている。

休井さんは「これから結婚・出産を考える立場としては、こういった対策があると知るだけでも安心できる」と語った。しかし、さまざまな対策がある一方で少子化への歯止めがかからない現状がある。そこで国は新たな対策として、不妊治療への助成金の拡充に踏み切った。

2021年1月から助成金が拡充し、2022年の4月には保険適用の見通しが立っている。拡充された特定不妊治療(体外受精および顕微授精)に対する助成金は、所得制限が撤廃され、1回15万円(初回のみ30万円)であった助成額が、1回30万円に増額。また、生涯で通算6回までであった助成回数は、1子ごと6回まで(40歳以上43歳未満は3回)に拡充された。これにより、経済的な理由から不妊治療を諦めていた方々への支援の幅が広がっている。

このように国としても子どもを授かりたい方々への支援を講じているものの、男性の育児休暇取得率の低さや仕事と子育ての両立の負担といった課題も残り、国の制度だけではなく社会全体でのサポートが求められている。

“ファミリーフレンドリーな社会”の構築に必要なこととは?

日本が抱える現状や、課題に向き合う前向きな施策などを知った上で、“ファミリーフレンドリーな社会”を築くために一人ひとりが意識し行動できることは何か?をテーマにトークセッションが続けられた。

休井さんは、「一人ひとりが学んでいくことが大事。そして学んだことを周囲に思いやりを持って伝えること。そういう意識がより良い社会をつくっていくと思う。今日学んだことをすぐにみんなにシェアしたい」と、学びの輪を広げていくことの大切さを語った。

安田さんは、「人々の考え方は多様化していることを当たり前に思うこと。それぞれに状況が違う。そのことを共有してサポートし合っていくことが大事だと思う。そして、いろんな制度を活用すればもっと楽に生きられて、違う未来があるかもしれない」と、相手の状況を理解することと、制度の積極的な活用を呼びかけた。

山口さんは自分の経験を踏まえ、「悩みがあると自分を不安にさせる情報ばかりを拾ってしまうことがある。だからこそ、こういった中立的な勉強の機会が大事だと思う。休井さんくらいの年齢の時にいろいろと考えていたら、もっと選択肢が多かった。私の経験を若い方に伝えたい思いがあったので、このシンポジウムに参加できた甲斐があった。“ファミリーフレンドリー”という概念がもっと広がればいいなと思う」と、今回の学びについて感想を語った。

最後に、このシンポジウムを通してそれぞれが感じたこと、そして伝えていきたいことを総括した。

ライフプランニングに“早すぎる”はない!

休井さんは、「今日はたくさん学んで、知らないことが多すぎる自分にビックリした。もっと早くに知っていればもっと楽だったのにな、と思うこともあったので、ライフプランを考えることに早すぎることはないと思う」と、早くからライフプランに関わる知識を身に付け、自分を知ることが大切だと述べた。

自分の身体を知ることが“ファミリーフレンドリーな社会”をつくる第一歩

安田さんは、「子どもを望むか望まないかに限らず、ライフプランをつくる上で自分を知ることが第一歩になる。メンタルはもちろん、身体を知ること。そして次は家族のことを考えて、周りとコミュニケーションを取ったり情報共有したりして、自分のライフプランへつなげていくのがゴール」と、やはり自分を知ること、そして周囲との共有の大切さを語った。

“ファミリーフレンドリーな社会”は自分をいつくしめる社会

山口さんは最後に、「少子化は社会から照らした問題で、ライフプランニングは私たちの側から照らした問題。少子化という切り口は大事だけれど、私たちの権利として産むか産まないかを考えなければいけないのだとアメリカ留学で学んだ。これからは多様な社会のなかで、自分の意思で自分の人生を切り開く時代。自分らしい人生を、自信を持って選択できるように自分自身について知っておくこと、正しい知識を身に付けてライフプランを描くことが重要。“ファミリーフレンドリーな社会”は、全ての人に優しい社会。自分をいつくしめる社会になると思う」と、本シンポジウムを締めくくった。

文:安海 まりこ

■YELLOW SPHERE PROJECT/YSP
妊娠を希望してもなかなか叶わないという“社会課題”に対し、製品やサービス提供にとどまらず、妊活や不妊治療をする人々を支援し応援するプロジェクトです。目指すところは、より多くの人に適切な情報を伝えて、サポートの輪を広げ、人々の充実した暮らしという未来をつくることへの貢献です。新しい命を宿す為の努力を、皆が応援する社会へ。それが、YELLOW SPHERE PROJECTの先にある未来です。
https://www.merckgroup.com/jp-ja/yellow-sphere-project.html

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メルクについて
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