5兆円規模、欧州最大級のフィンテックスタートアップ

世界の主要フィンテックハブといえばかつて英国ロンドンの名が真っ先に挙がったところだが、フィンテックを取り巻く状況は最近少し変わってきている。

今フィンテック分野では、スウェーデンが「メッカ」と呼ばれるまでに成長、同国発の有望フィンテックスタートアップが次々と登場しているのだ。

スウェーデンのフィンテックスタートアップの代表格として知られるのは「Klarna」だ。2005年に創業の同社、2021年6月の最新ラウンドでソフトバンクなどから6億3900万ドル(約726億円)を調達。評価額は同年3月時の310億ドル(約3兆5200億円)から456億ドル(約5兆1823億円)と47%以上の増加となった

一般的に、評価額10億ドル(約1136億円)以上のスタートアップは「ユニコーン」と呼ばれ注目を集めるが、Klarnaの評価額はその45倍以上という規模に拡大している。

Klarnaの主要サービスの1つは、Eコマース企業向けの支払いプラットフォームだ。様々な支払い手段を統合することで、売上向上をサポートしている。

同社ウェブサイトによると、提携リテールパートナー数は世界25万社、Klarnaを利用する消費者は9000万人、1日あたりのトランザクション数は200万回を超えるという。

2020〜21年コロナ禍でEコマース需要が爆発的に拡大したが、これがKlarnaのビジネス拡大に追い風となったのは間違いないだろう。

Klarnaは現在17カ国で事業を展開。米国での利用者は1500万人を超えた。

クレジットカードVisaが2300億円以上で買収したスウェーデン・フィンテック

Klarnaと並び広く知られるのが、2021年6月にクレジットカード大手Visaが18億ユーロ(約2388億円)で買収することを明らかにしたTinkだ。

Tinkは2013年、複数の銀行アカウントをまとめて管理する消費者向けのファイナンスアプリをローンチ。その後、銀行など金融機関向けの金融データ/デジタル化プラットフォームに軸をシフト、欧州域内の多くの金融機関のデジタル化を促進してきた。

たとえば、400万人の利用者を抱えるポルトガルの大手銀行Caixa Geral de Depósitos (CGD)は、Tinkのプラットフォームを活用し、パーソナルフィナンシャルアプリを開発。CGDの利用者は同アプリを使い、収入・支出や予算管理をスマホ上で行えるようになった。

現時点でCGDのようにTinkプラットフォームを活用する銀行/金融機関は3400社以上。銀行/金融機関のアプリを通じてTinkプラットフォームを利用する消費者は、欧州域内で2億5000万人以上。また年間のトランザクション数は、100億回を超えるという。

ビザによる買収後もブランド名、経営チーム、本社拠点は現状を維持するとのこと。

スウェーデンのほか、英国、ポルトガル、フランス、イタリア、スペイン、デンマーク、ノルウェー、オランダ、ドイツ、オーストリア、ポーランドで事業を展開している。

VisaのTink買収はスウェーデンのフィンテック界隈では最大級の買収案件といわれている。このほか2018年にペイパルがスウェーデンのスタートアップiZettleを22億ドル(約2500億円)で買収するなど、大型エグジット案件は少なくない。

2020年創業のフィンテックも欧州全域で迅速な事業展開

上記KlarnaとTinkはともにスタートアップとしては比較的長い歴史を持つ企業だ。

一方、2020年に創業されたばかりのJuniもこれら企業と同等の注目を浴びている。

Juniは、Eコマース事業主向けの収支管理プラットフォームを提供するフィンテック企業。同社のプラットフォームでは、アマゾン、Shopify、ペイパル、フェイスブックなどを統合し、一括で管理できるようになる。

現在、英国と欧州連合(ドイツとマルタを除く)地域の有限会社(limited liability company)を対象にサービスを提供。

2021年10月には、シリーズAの延長ラウンドでスウェーデンのVC企業EQT Venturesから5200万ドル(約59億円)を調達。現在の従業員75人体制から年内に225人に増やす計画だ。

Juniのほかには、デジタルバンクのNorthmill、国際支払いプラットフォームのTrustly、B2BペイメントのPayerなど、様々なスウェーデン発フィンテックスタートアップに注目が集まっている。

スウェーデンがフィンテック/スタートアップハブとなる理由

人口1000万人ほどのスウェーデンから世界的に注目されるスタートアップが続々登場する理由はどこにあるのか。

1つは言語。スウェーデンではスウェーデン語が話されているが、英語が堪能な人が多い。ビジネスを展開する上でも、英語圏の情報にアクセスし、グローバル展開を前提にビジネス戦略を練ることが可能だ。

英語という要素に加え、スウェーデン国内の市場が小さいということも、高成長のグローバルスタートアップが生まれやすい環境を醸成している。

多くの場合、スウェーデンの起業家がビジネスを始めるとき、国内市場が小さいということは織り込み済み。事業を拡大をするにはグローバル展開しかないという条件のもとビジネスを始めるため、必然的にグローバル展開は迅速となり、高成長スタートアップになるといわれている

スウェーデン政府が過去20年に渡り実施してきたデジタル化推進の取り組みも無視できない。

冒頭で登場したKlarnaの共同創業者の1人セバスチャン・シエミアトコウスキー氏は、ロイター通信の取材で、フィンテック起業家として成功した理由の1つとして、同国政府が90年代に実行した各家庭でパソコンが利用できるようになった政策を挙げている

ベンチャーキャピタル企業Atomicoがこのほど実施した調査によると、人口あたりのユニコーン企業数で世界最大の都市・地位はシリコンバレーだが、第2位にスウェーデン・ストックホルムがランクインしていることが判明

Dealroomの予測では、2021年の人口あたりのベンチャーキャピタル投資額は、スウェーデンがイスラエルを抜き世界1位になる見込みだ。今後どのようなグローバル企業が登場するのか、スウェーデンのスタートアップ動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit