本記事は「自宅学習におすすめ!11日でマスター衛星データの学び方ガイド2020」を通して衛星データ解析に興味を持った新川 彩斗さんによる執筆です。
今回は東京オリンピックに関連して、舗装された道路の温度情報を求めることにチャレンジいただきました。

はじめに

いよいよ東京オリンピック開会式が7月23日と迫ってきましたね。

筆者は、今年の「海の日」は7月22日、「スポーツの日」は7月23日、「山の日」は8月8日に移動することをすっかり忘れており、張り切ってその日に仕事を入れていました・・・。

開催決定から、今までいろんな課題がありましたが・・・、
とくに心に残っているニュースは、マラソン会場が東京から札幌に移動したことです。

ただでさえ7月は熱いのに、あのアスファルトの照り返し、蒸し暑さ、ギラギラ太陽、そんな中でマラソンを実施したら、体調崩す人が続出するだろうなと思いました。

東京オリンピックの開催に向けて、遮熱性舗装が導入されたが、実は逆効果というニュースを目にしました。このニュースによれば

「路面温度の上昇を抑える効果があるとして、東京オリンピック(五輪)の猛暑対策に国や都が導入を進めている「遮熱性舗装」が、人が立つ高さでは逆にアスファルト舗装より気温や紫外線が高くなるという研究結果がまとまった。」※1

とのこと

そもそも「遮熱性舗装」が導入された経緯は、夏の暑さ対策として、「路面に塗布した遮熱材が赤外線を反射することで、舗装への蓄熱を防ぎ、路面温度の上昇を最大で8℃程度抑制。」※2 ※3できるということでした。東京オリンピックのマラソンのためというよりかは、夏の暑さ対策も含めていたのですね。更に詳しく調べてみると、その「遮熱性舗装」の導入実験時に、路面の温度を測っているデータが存在していました!※4

国土交通省 道路局 平成28年7月「舗装技術効果確認の各種データ」p7より引用 ※4

過去の宙畑の解析ノート「東京五輪マラソンは本当に暑い? 衛星データで過去と比較してみた」 ※5では、衛星画像から温度を検証していました。その日の詳しい地面温度があれば、衛星データから見る地面温度と実際の地面温度はどれくらい一致しているか、更に詳しく検証できるのではないかと考えた、というのが今回の記事のお題です。

解析内容

今回の記事では、「遮熱性舗装」の導入実験地の位置を衛星データから見て、衛星画像から見た地面温度と、実際の計測された地面温度を比較し、衛星画像から地面温度がどれくらい一致しているかを検証します!

検証するに至った理由

  1. 衛星画像から、地面温度を算出できる
  2. 資料によると、「遮熱性舗装」と「普通のアスファルト(密粒舗装)」では8度の変化があるらしい。これだけ差があれば、検出できる可能性が高いのでは?
  3. 日別、時間別に地面温度が存在しており、衛星の撮影時間と晴れた日の衛星画像があれば、衛星画像から算出した地面温度と、測定された地面温度を比較できる。
  4. 衛星画像からの地面の温度データはどれだけ合っているかがわかる!

解析結果

国道246号効果検証実施箇所(青山学院前交差点〜南青山五丁目交差点上り)約300m(赤)と国道246号効果検証実施箇所(後で調べる)(青)の約300mを衛星画像から地面温度を算出した結果、実際の地面温度と比較して似たような、温度変化を取り出せませんでした。

  • 10時付近の実際の地面温度
    • 普通のアスファルト(密粒舗装) 大体45℃付近 (グラフ内オレンジ)
    • 調査したいアスファルト(遮熱性舗装) 大体41℃付近(グラフ内赤)
東京都建設局 「舗装技術効果確認の各種データ」より画像を引用し加工 ※4
  • 衛星から見た画像からわかる温度
    • 普通のアスファルト(密粒舗装) 38.3℃付近
    • 調査したいアスファルト(遮熱性舗装) 37.7℃付近

衛星画像からはっきり見えると思ったのに見られなくて悔しかったです。

利用するデータと解析の流れ

最初に結果を出してしまうとなーんだと思ってブラウザバックされちゃう方もいるかもしれませんが、自分も別の場所の地面温度を出してみたい!という方に向けて具体的な手順や、詰まりどころを共有しておきます。

誰でもできるようにスクショを多く貼り付けて手順を説明しているので、是非挑戦してみてくださいね!

解析の流れは以下の通りです。

<解析の流れ>

  1. 1.資料から、国道246号の実験区域と日時をしらべる
  2. 2.geojson.ioで国道246号の実験区域の位置情報付きファイルを用意する
  3. 3.該当する場所・時期の衛星データをダウンロードする
  4. 4.解析ソフトにダウンロードした衛星画像とkmlファイル読み込ませる
  5. 5.衛星データから地表面温度を計算する
  6. 6.実験区域に沿った温度を取り出す

資料から、国道246号の実験区域と日時をしらべる

こちらの国土交通省 道路局 平成28年7月「舗装技術効果確認の各種データ ※4によると、効果検証実施箇所は青山学院前交差点〜南青山五丁目交差点の上り300m区間ということでした。
路面温度は、3つの車線それぞれで計測しており、約70mおきに保水性、排水性、遮熱性のコンクリートで舗装されていることがわかりました。
実施期間は、2015年7月15日~ 9月27日でした。

衛星画像が無いと、次の段階に進めないので、この約2ヶ月半の間に、雲に隠れていない衛星画像が存在することに祈りを捧げます。

国土交通省 道路局 平成28年7月「舗装技術効果確認の各種データ」p3より引用 ※4

goejson.ioで、国道246号の実験区域の位置情報付きファイルを用意する

実施期間と範囲がわかったので、geojson.ioで国道246号の実験区域のkmlファイルを用意します。これを準備する理由は、衛星画像から地面温度を算出した後に、その場所の断面から地面温度を見るからです。

Google Mapで場所を検索する

まずは、Google Mapを開いてみます。検索画面で「国際連合大学(5 Chome-53-70 Jingumae, Shibuya City, Tokyo 150-89255 Chome-53-70 Jingumae, Shibuya City, Tokyo)」と入力します。

資料と同じ位置のGoogle Mapで比較してみると、たしかにこの地で検証が行われたようです。

上空から見てみると、渋谷青山通郵便局前らへんのアスファルトの色味が一部異なっています。検証されたときの道路がまだ残っているのかもしれません。おもしろいですね!

検証地はわかったので、温度を比較するために普通の塗装をされているアスファルト(密粒舗装)部分もkmlファイルに含めることにしました。

geojson.ioでKMLファイルを作る

検証箇所もわかったので、いよいよ断面図を作るためにKMLファイルを作成します。
geojson.ioにアクセスします。

KMLを作成したい場所周辺に検索で移動する
右上のラインを選択し、始点となる場所を右クリックする
KMLファイルを作成したい範囲で終点を右クリックする
終点を再度クリックすることでラインを引くことができる
画面左上のSaveからKMLファイルを選択して保存する

該当する場所・時期の衛星データをダウンロードする

次に、2015年7月15日~ 9月27日の間で、青山学院前交差点〜南青山五丁目交差点の上り300m区間が、含まれている衛星画像を探してみます。

EROS Registration Systemでアカウントを作る

USGS EarthExplorerで衛星画像を調べる前に、EROS Registration Systemのアカウントを作成します。衛星画像のダウンロードには、アカウント登録が必要だからです。

EROS Registration System アカウントの作成方法
Credit: EROS Registration System

筆者はMac、ブラウザはChromeの環境でした。なぜかこういう画面に遷移してしまいここから全く進めないということがありました。

EROS Registration System アカウント作成時の不具合
Credit: EROS Registration System

ブラウザをEdgeに変更して事なきを得ました。はまってつらかったです。
無事にこちらのアンケートページを開けた方は、そのまま回答しアカウントを作成してください。

EROS Registration System アカウントの作成方法
Credit: EROS Registration System

衛星画像をUSGS EarthExplorerで調べる

アカウントを作成し終わったら、いよいよ検証するための衛星画像を探します。ログインしている状態であることを確認してください。

Earth Explorer の使い方
Credit: Earth Explore courtesy of the U.S. Geological Survey

アカウントを作成し終わったら、いよいよ検証するための衛星画像を探します。ログインしている状態であることを確認してください。
マップをドラッグし、日本あたりに移動します。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

今回探したい範囲を、マップをクリックしてざっくりPolygonで囲います。上手くいかない方は、左側の項目の中でPolygonのタブ(赤枠部分)が選択されているか確認してください。
探したい日時を入力し、Data Setsを押します。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

次に、どのデータセットから検索するかを絞ります。今回は、宙畑解析ノートブック「東京五輪マラソンは本当に暑い? 衛星データで過去と比較してみた」を参考に地面温度を出してみます。地面温度の出し方は、Using the USGS Landsat Level-1 Data Product を参考にしているので、Landsat8 Level-1の衛星画像に絞ることにしました。図のように Landsat> Landsat Collection 2 Level-1> Landsat 8 OLI/TIRS C2 L1 を選択したら Additional Criteriaを押してください。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

次に、できるだけ、雲の少ない画像に絞って検索するため、Land Cloud Cover を選択し、0 to 30 と入力してください。下部のResultsを押すといよいよ条件にあう衛星画像とご対面です。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

ドン!!!出ました。今回は条件に合いそうな衛星画像が3つということでした。2015年7月15日~ 9月27日の間でたった3つ・・・。祈りが通じなかったのでしょうか、少なさにちょっと絶望しました。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

この中から、実験箇所が雲で覆われていなそうな衛星画像を選択します。マウスのスクロールで拡大縮小しながら、できるだけ地面が見えているものを選んでください。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

L1の衛星画像をダウンロードする

EO Browserなどでも、実験箇所を見比べた結果、今回は2015/7/21に撮影された画像を選ぶことにしました。ログインしていれば、ダウンロードボタンを押すことができます。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

必要なバンド帯のみの画像を落とすので、Product Optionsのボタンを押してください。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

地面温度の算出に必要なのは、Band4、5、10、11とMTLというファイルです。必要なバンド帯の画像のみ落としてください。

Earth Explorer の使い方
Credit: EarthExplore courtesy of the U.S. Geological Survey

解析ソフトにダウンロードした衛星画像とkmlファイル読み込ませる

画像も準備できたので、いよいよ衛星画像から地面温度を算出します。今回はQGISというアプリケーションを用いて地面温度を計算してみます。
地面温度の計算の詳細については、宙畑解析ノートブック「東京五輪マラソンは本当に暑い? 衛星データで過去と比較してみた」※5を見てください。今回の解説ノートブックでは、計算結果のみ掲載します。

Credit : sorabatake

衛星データから地表面温度を計算する

ダウンロードした衛星画像を、すべてQGISのなかにドラッグ&ドロップします。このときレイヤが選択されていることに注意してください。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

そして、Google Earthで作成したKMLファイルもQGISの中に入れてください。このように衛星画像の中にパスが出てきているはずです。目を凝らしてみると見えます。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

①植生指数(NDVI)を計算する

ラスタ>ラスタ計算機…を選択します。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

ラスタ計算機の注意点としては、出力レイヤに出力するファイル名を必ず明記してください。筆者はここを入れずにOKボタンを押して、レイヤが出力されない!と焦りました。計算式は下部の方に入力します。レイヤ名をクリックすると下に反映される親切仕様です。

植生指数(NDVI)を算出する式を入れると、レイヤパネルには新しく出力されたレイヤが出てきました。このようにLandsat8 Level1で地面温度を出す方法に沿ってガシガシ計算していきます。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

②植生のばらつきを計算する

植生のばらつきを計算するには先程出した植生指数(NDVI)のmax値とmin値が必要です。それはレイヤの赤枠部分に書かれています。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

③eを出す

こちらも計算式に沿ってeの値を出します。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

④衛星からみた放射量を計算

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

⑤衛星から見た輝度温度を計算する

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

⑥地表面温度を計算する

いよいよ地表面温度を出します。

モヤッとしていて何が何だか分からないですが、私も同じ気持ちでした。

わかりにくいので色をつけてみます。それっぽいかな。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

実験区域に沿った温度を取り出す

プラグインはqProfを用います。プラグイン管理ツールからインストールしてください。macの方は注意点があるので下の方もお読みください。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

qProfのメニューを開いて、上から地表面温度を選択し、検証したい
道路のレイヤを選択肢、それぞれ上からボタンを押して最後にOKを押すとグラフが出ます!

※macを使っている方へ
QGIS(3.16.3)で下記のようなエラーが出て、qProfのプラグインが入らない問題が発生した場合の対応方法を紹介します。

X11はMac OS 10.8 以降 OS に含まれていないため、エラーが発生しています。X11のアプリを実行するために、xquartzを入れる必要があります。類似の問題の解決策としてこちらを参照しました。

衛星が撮影された時間を日本時間になおす

メタデータファイルから撮影時間を探し、日本時間になおしてみます。こちらによると
各シーンの正確な取得開始・終了時刻は、Landsat Level-1プロダクトに含まれるメタデータファイルに記載されており、グリニッジ標準時(GMT)で表示されているとのことでした。
メタデータである`LC08_L1TP_107035_20150721_20200908_02_T1_MTL.txt`を開けて、調べてみました。
DATE_ACQUIRED = 2015-07-21
SCENE_CENTER_TIME = “01:15:24.67344902”
と記載されていました。

Credit: Landsat8 courtesy of the U.S. Geological Survey

こちらのサイトでGMTをJSTに変換すると2015年07月21日(火) 10:15に撮影されたことがわかりました。これで地面温度と衛星画像から算出した地面温度と比較できます!

まとめ

解析結果は上部で紹介しているので、ここでは事前に知りたかった知見や上手くいかなかった理由を考えてみました。

知見

解析前に知りたかったことをまとめてみます。

1.期間が長くても、雲が少なく、適切な時間帯の衛星画像があるとは限らないので、EO BrowserやEarthExplorerなどで、ざっくり事前に調べたほうが良い。
2.ランドサットコレクション2 では表面温度は用意されてはいるが、
「Data are available for the conterminous U.S., Alaska, and Hawaii for the following date ranges:」※6
ということで、米国本土、アラスカハワイのみで日本は範囲外のようです。
地面温度の計算方法はLevel-1分しか公開されておらず、Level-2の場合の具体的な計算方法を知っている方がいましたら教えて下さい。

うまくいかなかったと考えられること

  1. 1. もう少し、雲で埋もれていない衛星画像で検証できたら良かったが、地面がしっかり写っていそうなのが、2015年7月21日しかなかった。
  2. 2. 遮熱性塗装が70m区間しかなく、ビルの間の上りのみだったので、Landsat8だと解像度が足りなかったかもしれない。
  3. 3. たまたま車の影になっている時間帯だったかもしれない

これから

実は都道では下記の図のように、遮熱性舗装が実装されています。※7もう少し道が広くて、雲がなく晴れていて地面温度に特に差が出る時間帯であれば、さらに正確な地面温度を出せたかもしれません。

東京都建設局 「都道の遮熱性舗装等の実施状況 ( ~ R2年度末まで )」より引用 ※6

この遮熱性舗装の導入によって、夜間の熱放射が変わったか、ヒートアイランド現象は少なくなっているか、衛星画像で検証するのも面白そうですね。
次回は、もう少し広い範囲のもので地面温度を解析してみたいです。

参考文献