富士フイルムは、同社の創薬支援用細胞であるヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞「F-hiSIEC(エフ・ハイシーク)」を用いて、ヒトノロウイルスを増殖させることに成功したと発表した。

同成果は、ヒトノロウイルスに対する医薬品候補の有効性検証への応用に繋がるもので、ノロウイルス感染症に対する治療薬・ワクチンの開発に大きく貢献するという。

同社は、製薬企業をはじめとする幅広い顧客に対して「F-hiSIEC」を提供することで、ノロウイルス感染症に対する治療薬・ワクチンの研究開発を支援するとともに、創薬プロセスにおけるiPS細胞活用の促進を図っていくとのことだ。

ヒトノロウイルスは、手指や食品などを介してヒトに感染し腸管で増殖することで、嘔吐や下痢、腹痛などを引き起こすという。

国内ではヒトノロウイルスを原因とする食中毒の発生頻度が最も高く、また海外でも発展途上国を中心に同ウイルスによる食中毒が多く発生している。しかしながら、ノロウイルス感染症に対する有効な治療薬・ワクチンが無いのが現状であるとのことだ。

その要因の1つとして、ヒトノロウイルスに対する医薬品候補の有効性検証方法が確立されていないことが挙げられており、検証方法確立には、まず有効性検証に用いるヒトノロウイルスが必要であることから、体外で同ウイルスを増殖させる手法の研究開発が進められているという。

「F-hiSIEC」は、同社がグループ内で保有する世界トップレベルのiPS細胞関連技術と、名古屋市立大学 大学院薬学研究科 松永民秀教授が確立した腸管上皮細胞への分化誘導技術などを組み合わせて開発したヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞。

「F-hiSIEC」は、ヒト生体由来の腸管上皮細胞に近い機能を有しているため、「F-hiSIEC」を用いれば薬剤などの化合物の吸収性を高精度に評価できることから、製薬企業のみならず食品会社などにも幅広く使用されているという。

今回、同社は、「F-hiSIEC」のさらなる応用可能性を追求するため、「F-hiSIEC」を活用したヒトノロウイルス増殖に関する研究を進め、以下の成果を達成したとのことだ。

研究成果の概要は以下。

国内での感染が確認された主要6種類の遺伝子型のヒトノロウイルスを「F-hiSIEC」に感染させ5日間培養した結果、5日目における同ウイルスのRNA数が、初日と比べて最大164倍高まることを実証。

実験内容および結果

実験内容

実験結果

以上の研究成果から、「F-hiSIEC」を用いれば、医薬品候補の有効性検証に必要なヒトノロウイルスを効率的に増殖させることができるため、ノロウイルス感染症に対する治療薬・ワクチンの開発に大きく貢献するという。

なお、同社は、2021年1月26日に開催される細胞アッセイ研究会のシンポジウム「細胞アッセイ技術の現状と展望」にて同成果を発表する予定であるという。

同社は、幅広い製品開発で培い進化させてきたエンジニアリング技術、iPS細胞の開発・製造・販売のリーディングカンパニーである米国子会社FUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.(フジフイルム・セルラー・ダイナミクス)など再生医療関連のグループ会社の技術を活用して研究開発を推進し、画期的な製品・サービスを提供することで、医薬品開発の効率化や再生医療の産業化に貢献していくとのことだ。