中国アプリ禁止のインド、ポストTikTok競争YouTubeも参戦

安全保障上の理由から中国アプリの利用が禁止されたインドでは、中国アプリ撤退による空白を埋める競争が繰り広げられている。競争が顕著になっている分野の1つが短編動画シェアだ。

TikTok禁止をきっかけに、インスタグラムはインドで新機能「Reels」を投入。またインド国内の動画シェアアプリもTikTok禁止を受け利用者が急増し、存在感を増している。

ここに新たにYouTubeが加わることになる。

グーグルは2020年9月14日に公式ブログで、YouTubeの短編動画をシェアできる新機能「Shorts」のベータ版をインドでリリースすることを明らかにしたのだ。インドでベータ版をテストした後、数カ月以内に他の市場でもリリースする可能性にも言及している。

YouTube Shortsとはどのような機能なのか。同ブログでは、新機能について「Create(制作)」「Get Discovered(見つけてもらう)」「Watch(視聴)」の3つのプロセスに分け説明している。

まずCreateについて。

Shortsでは、スマホを使い15秒の動画を撮影・記録することができる。音楽は、YouTubeが持つ膨大なミュージックライブラリーから選択可能。速度コントロール機能が付いており、スローモーションや早送りなどを活用した表現も容易になっている。

Get Discoveredに関して。YouTubeは月間20億人のアクティブユーザーを抱えるプラットフォーム。視聴者が多く、見つけてもらう可能性も高くなることが想定される。YouTubeクリエイターが持つ既存の縦長動画も60秒以内のものであればアップロード可能。それに「#Shorts」とハッシュタグを付ければ、Shorts内でピックアップされるとのことだ。

Watchに関しては、YouTubeホームページにShortsカテゴリが登場し、Shortsのみの動画をブラウジングできるようになる。スマホでのブラウジングは、縦スワイプ式が採用されている。

動画ファーストのプラットフォームであること、またすでに20億人のユーザーを抱え、クリエイターが直接的にマネタイズできる仕組みが整備されている点などを考慮すると、短期間でTikTokを超える可能性もある。

YouTubeの新機能「Shorts」(YouTubeヘルプサイトより)

国内アプリも人気、インドの動画シェア市場

インドの短編動画シェア市場の海外プレイヤーとして先行するインスタグラム。6月末のインドでの中国アプリ利用禁止を受け、翌月に動画シェア新機能「Reels」をリリースしている。

ここにYouTubeが加わる形となるが、インド国内にも多数の動画シェアアプリが存在しており、競争は激化することが見込まれる。

地元メディアThe Indian Express8月29日の記事では、TikTok禁止以降、国内動画シェアアプリに多数のユーザーが流入した様子を伝えている。

Glance Digital Experience社が運営する「Roposo」は、TikTok禁止以降、ダウンロード数が急増。1日で500万回以上ダウンロードされた日もあるという。累計ダウンロード数は9,000万回を超えた。

インド動画シェアアプリ「Roposo」

また、国内動画シェアアプリ「Bolo Indya」もTikTok禁止以降、月間アクティブユーザー数が5倍増加したという。Bolo Indyaはもともと動画シェアではなく「マーケットプレイス」として登場したサービス。動画広告ではない手段で、音楽や学習コンテンツの配信を通じてユーザーがマネタイズできる仕組みが整っている。同社創業者のバルン・サクセナ氏がThe Indian Expressに語ったところによると、Bolo Indyaのトップコンテンツクリエイターらの平均月収は4万5,000〜5万ルピー(約6万4,000〜7万1,000円)という。

企業レビューサイトGlassdoorのデータによると、インドの新卒平均年収は、45万ルピー(約65万円)。月収換算では3万7,500ルピー(約5万3,000円)。Bolo Indyaのクリエイターらの月収はこれより若干高い水準となる。

Bolo Indyaでは、トップ動画クリエイターに動画のエンゲージメントに応じ金銭を支払うインセンティブ制度を設けており、マーケットプレイスと合わせたマネタイズが可能となっている。

クリエイターを魅了するマネタイズの仕組みがカギに

2018年11月にリリースされた比較的新しい動画シェアアプリ「Chingari」もTikTok禁止以降、ユーザーが急増。1日あたり300万ダウンロードを記録する日もあったという。共同創業者でCEOのスミス・ゴッシュ氏はThe Indian Expressの取材で、今後3カ月でインドのアクティブユーザー数は1億1,900万人に増加する見込みだと述べている。

Chingariでは、動画クリエイターへのリワード制度を拡充することにより、ユーザーの取り込みを狙う。現在、動画の人気度や質などから同アプリ内でポイントを獲得し、そのポイントをデジタルウォレットに送金できる仕組みの展開を計画中という。

インド動画シェアアプリ「Chingari」

上記Roposoでも、動画視聴回数に応じデジタルコインを獲得し、そのコインをデジタルウォレットに送金できる制度が設けられている。

このほかポストTikTok市場で有力視される動画シェアアプリとして、RizzleやMitronの名が挙がることも多い。さらに、2019年末時点で5,600万人以上の月間アクティブユーザーを有していた動画ストリーミングの「Zee5」も動画シェアアプリをリリースする可能性が報じられており、競争はますます激化することが見込まれる。

この状況下YouTubeの「Shorts」がどのように広がっていくのか、今後の展開が気になるところだ。

[文] 細谷元(Livit