2020年現在、日本に存在する企業約421万社のうち、99.7%を占める中小企業。

巨大なマーケットでありながら、東京や大都市圏にある企業に比べて地方の中小企業ではデジタル化がまだまだ進んでいない。しかし、生き残りをかける上でも、デジタル化を進めて生産性を高めるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の流れは無視できないと言えよう。

今回は、全国21拠点で地方の中小・ベンチャー企業のデジタル化を支援している東証一部上場企業、ソウルドアウト株式会社の代表取締役会長CGO・荻原猛氏に、地方の中小企業のデジタル化を阻んでいる課題や成功事例などについて訊いた。

デジタルの可能性を信じて中小企業のDXに挑む

——中小企業の支援事業に取り組んでいるのはなぜでしょうか?

荻原猛氏(以下、荻原): 新型コロナウイルスの影響で、今、日本全国の中小・ベンチャー企業の皆さまは大変な時期にあります。

私も中小企業の社長の息子として、リスクを負って日々戦う父親の姿を見て育ち、時には辛い想いもしてきました。

元来、ビジネスというのは、誰かの役に立たないと存在が許されないし、役に立つことで対価をいただけるわけですね。 誰のためにその会社が存在したいのか——それが本質であり、全てだと私は思っています。

ですから、日本全国の中小企業の力になりたいとの想いを持って生きてきました。

とはいえ、大学卒業後に起業しましたが、最初は上手くいきませんでした。小さな会社や中小企業はもちろん知名度がありませんから、モノを売るのはとても大変なことなんです。それを身をもって実感しました。

だからこそ、中小企業を助けたいとの想いは今でも持ち続けていています。

——中小企業を支援する事業としてなぜインターネットの分野を選んだのでしょう?

荻原:インターネットでモノが売れる体験をしたからです。最初に売れたのはマネキンでした。フリーマーケットで服を売りたい人がマネキンを買ってくれたんです。まさかこんなものがインターネットで売れるとは、と衝撃的な体験をしました。

しかしやがて事業は失敗し、失意の底へ。そんなときにたまたまテレビで観たのがサイバーエージェントの藤田社長。ちょうど私と同じ年齢ですが、当時、史上最年少で上場を果たし飛ぶ鳥を落とす勢いでした。90年代後半、インターネットでモノが売れ始めた時代です。

再び私の心に火がつき、Webマーケティングを身につけようとインターネット 広告会社のオプトに入社し 、その後、当社を設立しました。インターネットなら、いいものであればマーケティング次第で小さな会社でもモノが売れる。その力で中小企業を支援しよう。満を持してソウルドアウトを設立しました。

地方にはデジタル化をもたらす仲介者がいない

——地方の中小企業でいまだにデジタル化が進んでいないのはなぜでしょうか?

荻原: 確かに、地方の中小企業のデジタル導入は、特に東京の企業と比べるとまだまだ遅れています。しかも、事業規模を大きくしたいと考えている会社ばかりとは限らず、インターネットがなくても売上はそれなりにあり、現状維持で経営が成立するんです。

自分の代で会社を畳んでもいいと考えているオーナー社長も多い。つまり、デジタル化に対して必ずしも投資意欲が高いとは限らないのが現状です。

また、デジタル化に必要な情報量そのものに、東京とは明らかな格差があるんですね。もちろん、「情報」とはインターネット経由だけではなく、人づてに得られるナマの情報も含みます。

例えば、新しくホームページを設立したい、あるいはインターネット広告を運用したいと思っても、新しいデジタルの仕組みをどうやって社内に取り入れ、どう運用するかを学ぶための学習コストや時間を捻出しなければなりません。

それをいかに簡単にしてハードルを下げるかが、地方の中小企業のデジタル化における課題です。

——ほかに課題はありますか?

荻原:私たちが得意とするインターネット広告の世界で言えば、私たちのようなインターネット専業の企業が地方に存在していないことも、デジタル化が進まない原因のひとつです。つまり、脚を使って現場へおもむき、対面で経営者を啓発する人がいない。

だから私たちは、リスクを背負って地方に営業所を開きます。進出した当初は大赤字ですが、地道に営業活動を続けていくとようやく利益を出せるようになります。

その手法においては、リクルートや楽天は中小企業のデジタル化支援がとても上手い。インターネット化を全て手伝い、彼らの収益源のほとんどは中小企業です。

そして、この双方に共通するのが営業力の強さ。インターネットサービスとはいえオンラインだけでの完結はまだまだ難しいのが現状です。営業が現場へ出向き、実際に代表や担当者と会わずに関係を構築することはまだまだ難しいです。

仲介者がいることで初めて、顧客のデジタル課題を解決できるソリューションを提供できる。そう考えて、当社は全国21の拠点を持ち、地域に根づいた活動を行っています。

トップランナーを突破口として成功事例を積み上げる

——地方と都市部の間に情報格差の問題があるんですね。具体的には何がデジタル化されていないんでしょうか?

荻原:DXのステップがいくつかある中で、中小企業は、リアル世界の可視化や数値化、デジタル化をもっともっと進めていく必要があります。たとえば顧客名簿をいまだにExcelで管理していたりしますから、それをクラウドに載せてあげるだけでも効率化できる。そこにデジタルが入れる余地はありますし、まだまだその段階とも言えます。

また、東京で一般的に使われているSaaS(Software as a Service 必要な機能だけをインターネットでサービスとして利用できるソフトウェア)などは価格が高い場合も多い。廉価版が出てもっと気軽に利用できるようになれば、デジタルサービスはもっと広まるでしょうね。

デジタルの使命は生産性の向上です。顧客にとって最大のベネフィットは、生産性を上げることだと私たちは考えています。デジタルを活用して利益が生まれる企業体質を作れれば、社員の給与に反映でき、いい人材を自ずと採用できるいいスパイラルを回せます。

もちろんDXの流れに対して、現状を変える必要はないと考えている経営者の方々もいます。だから私たちは、地方の中小企業の中でも意識の高いトップランナーへアプローチしてまずは突破口となる成功事例を作り、やがて周辺の企業が「儲かる商売らしい」と噂を聞きつけて興味をもってもらえるようになることを目指しています。

通販業態を持つ企業はDXに注力すべき

——デジタル化をおすすめしたい地方の中小企業はどんなところでしょうか。

荻原:業態や業種によりますが、業態で言えばメリットが大きいのは「通販」です。これまで楽天やAmazonに頼っていた販路を自社ECが強化できればコストメリットもありますから、自社でインターネット広告を運用し軌道に載せられれば大きなメリットになります。

しかしながら繰り返しになりますが、独力でデジタルの手法を学んでいくのはなかなか大変です。自社ECを持っていないことで機会損失しているのは、経営者たちも重々承知。そうした地方の中小企業を私たちはお手伝いしています。

ただしひとつだけ断っておくと、比較的単価の安い商品はインターネットの広告や自社ECとは相性があまりよくありません。運用の手間で利益が相殺されてしまうからです。その場合は楽天などで販売しているほうがいいと思います。

——デジタル化していい結果が出た事例を教えてください。

荻原:私たちが担当させていただいた企業の90% 以上は業績が伸びています。それだけポテンシャルのある企業が多いんです。業界で言えば、不動産、人材、学習塾、カーディーラーなどは、まだまだデジタル化の伸びしろがあります。

例えば、見込み顧客へのアプローチなどはチラシを配ることが中心ですから、それをインターネット広告も組み合わせて活用するなど、デジタル化の方法がいくらでもあります。

かつ、デジタル化で結果を出す条件として、デジタルへの投資意欲がある経営者の熱意と、インターネットでの運用ができる担当者の存在がカギになってきます。

——中小企業のデジタル化が秘めている可能性を教えてください。

荻原:大企業に比べたら投資余力は少ないですから、デジタル化に限らず新しいことを始めるタイミングは大企業よりも遅くなります。いつでも中小企業は後発。だからこそ、まだまだデジタル化の余地はありますし、東京の成功事例を地方にスライドさせて導入することができるんです。

また、顧客が業績や売上を伸ばしたら、次に現れる経営の悩みは採用です。たいていの企業では、売上が伸びてスケールアップするとやがて人手不足に陥ります。そこで私たちがデジタルを活用した採用支援を行っていくことで顧客に喜んでいただける。

本質的には採用もマーケティングと考え方が同じなので、広告、集客、採用は同じスキームを応用できる。当社はインターネット広告支援がメイン事業ですが、経営をご支援する領域をどんどん広げていきます。

インターネット、デジタルの力で地方の中小企業の経営をご支援できるのであれば何でも行っていきたいです。例えばSaaS導入の提案や資金繰りのご支援も考えられます。

現在、新型コロナウイルス感染拡大により、地方、中小・ベンチャー企業は大きな影響を受けていますが、デジタル化している企業とそうでない企業では、その影響の差はあきらかです。

デジタル化が進んでいる企業では、実際の店舗での販売に力を入れることができない状況などに備えてECに力をいれることもできますし、すぐリモートワークに移行することもできます。状況が刻々と変わる今は、様々なことを見直す時期です。そして、デジタル化することによって、企業をより筋肉質にすることもできると思っています。

向こう5年でデジタル化が一気に進む

——これから中小企業のデジタル化は進むと思いますか?

荻原:昨今の情勢により、早急にデジタル化が必要だと考える経営者はあきらかに増えています。この大変な時期を経て、地方も含め中小・ベンチャー企業のデジタル化が進み、可能性はさらに拓けてくると思います。

また、今後はデジタルツールがもっと簡単になり、利用コストも下がってSaaSの参入障壁が下がっていくでしょう。経営者の若返りや世代交代と相まって、デジタル化はさらに加速していくはずです。2020年から向こう5年でがらりと変わっていく予感がしています。

1995年には中小企業の経営者の最多年齢は47歳でしたが、2018年には69歳が最多です。経営者の高齢化が進んでいる中で近い将来、事業承継と世代交代が起こり、経営者の平均年齢が40代くらいになれば、デジタルに慣れている世代ですから、デジタル化を推し進める人が増えていくでしょう。

また、若い年齢層では地元での就職を望む方が増えている。今回リモートワークを経験した人材が地方に分散されて、デジタル化の流れが起こる可能性は十分あります。在宅勤務が急速に進む今、働く場所は東京でなくてもいいと感じる人は増えているでしょう。

未曾有の社会情勢ではありますが、デジタルをもっと活用することで、地方の小さな会社が大企業に引けを取らないくらいの競争力を持つことも、あながちなくはないと考えています。一番大変なこの時期を、中小企業の皆さまと伴走し、乗り越えていきたいと思っています。

取材・文:山岸裕一
写真:西村克也