様々な大人の“はたらく”価値観に触れ、自分らしい仕事や働き方とは何か?のヒントを探る「はたらく大人図鑑」シリーズ。

今回は、人気モデルや女優から数多くの指名を受け、雑誌やCMのヘアメイクを手掛ける、人気ヘア&メイクアップアーティストの広瀬あつこさん。

2018年に念願の著書『スマイルメイク-5歳で引き寄せ力UP!』を発売された広瀬さんは、書籍の発売を機に個人へのメイクレッスンを開始されました。なぜ今メイクレッスンを始めたのか、そしてメイクレッスンから得たもの、ヘアメイクとして丁寧に相手に向き合う仕事術についてお伺いしました。

10年間の美容師時代を経てヘアメイクの専門学校へ入学

——今、どんなお仕事をされていますか?

広:ヘアメイクとして、雑誌のスチール撮影や、広告、CMのお仕事をさせていただいています。

——ヘアメイクのお仕事を始められるようになった経緯を教えていただけますか?

広:小さな頃から手先が器用で、何かを創ることが好きでした。

母が美容師だったこともあり、高校の先生からの薦めで美容専門学校に進学し、美容師として10年間サロンで勤務していました。

——何がきっかけで美容師からヘアメイクの道へ進まれたんでしょうか?

広:美容師時代、「ヘアモード」という美容の専門雑誌に誌上コンテストがあり、よく応募していたんです。
例えば“ボブ”とか“ノットスタイル”とか、ヘアーテーマが決まっていて、毎月そのテーマに沿ってヘアメイクをし、写真を撮って応募するんです。

1位を3回とるとページを与えられ、自由な作品を作って雑誌に掲載できる、というものでした。

——そのコンテストがどのようなきっかけを生み出したんでしょうか?

広:毎月の様に応募していたんですが、1位は何度挑戦しても取れなくて…。「どんな人が上位にいるんだろう?」と思って調べると、SABFAというヘアメイクの専門学校の卒業生が多かったんです。

興味が沸いたのでSABFAのイベントに出向き、生徒さんたちの作品のクオリティの高さに驚いて、すぐに入学を決めました

——美容師を一旦辞めて、専門学校に入学しなおされたんですね。

広:そうです。こういうきっかけなので、「ヘアメイクになりたい!」という想いからではなく、「ヘアモードで1位をとるにはどうすればいいの?」という気持ちからの行動でした

入学してから、周囲の子たちが将来どうなりたいかを話し合っているときに、「ヘアメイクっていう道もあるんだな」って気付いたくらい(笑)
それまでは、「卒業したらまた美容師をやるのかなぁ」と漠然と思っていたので。

不安な日々を乗り越え、女性誌で活躍。長年の夢だった本を出版

——卒業後はどういった活動をされていたんですか?

広:色々な人のアシスタントをしたり、日雇いの美容師をしたりしていましたが、決まった収入が無く…。

美容師時代は守られている感じがあったのですが、ヘアメイクの専門学校を卒業した後は「この先どうなるんだろう…」と精神的にも金銭的にも不安な日々が続きましたね。

帰りの電車賃が無くなってしまい、かなりの距離を歩いて帰ったこともありました。

——どうやって仕事が上向きに変わっていったんでしょうか?

広:専門学校を卒業後、様々なヘアメイクの方のアシスタント時代を経て独立したんです。

そうしたら、アシスタント時代に現場で知り合ったライターさんや編集さんが、仕事ぶりを見て声をかけてきてくれたんです。

そうやってお声をかけていただいて、様々な雑誌のページを担当していくうちに、少しずつ仕事が広がっていった、という感じでしょうか。

——2018年に「スマイルメイク-5歳で引き寄せ力UP!」という本を出版されていますが、どのようなきっかけで出版に至ったのでしょうか?

広:編集者の方が、女性誌やファッション誌で私が担当したメイク指南のページを見て、「本を出しませんか?」とお声がけしてくれたんです。

ヘアメイクになった時、いつかメイク本を出したいと思っていましたが、5年経っても10年経っても叶わず、もう無理かなって諦めていたんです。

「続けていれば必ず叶う」って以前先輩が仰っていた言葉を思い出しましたね。

——長年の夢を叶えられたんですね。

広:ヘアメイクになって10数年、今思えばこのタイミングで本を出版できたことは自分にとっても良いタイミングだったかもしれません。

これまで多くの現場でヘアメイクをし、撮影のディレクションの方法、現場での振る舞い方など様々なことを学びました。

長年の現場での学びがあったからこそ、夢だった自分自身の書籍の撮影も自分でディレクションすることができたし、良い作品を作り上げられたのだと思います。

——そして書籍の発売をきっかけに、メイクのグループレッスンを開始されるんですよね。これはどういった想いで始められたんでしょうか?

広:子育てに忙しいお母さんや、社会の縁の下の力持ちのような存在の方に、“笑顔の印象をメイクで再現する”といった本の内容を知ってもらいたい、と思ったのがきっかけです。

でも、子育てをしている中では自由に使えるお金も少ないし、レッスン代が高額ではあまり意味がない、と思ったんですね。そこで、出版キャンペーンと自分の中で銘打って、昨年は主婦の方でも参加しやすいお値段で開催させていただきました。

——レッスンはどういった内容ですか?

広:人は誰でも、笑顔であれば5割増し綺麗に見えるんです。

その人自身が一番魅力的に見えるメイクを書籍では提案しているのですが、個人に応じてもちろんお顔の造りは違いますよね。

本の内容をベースに、それぞれのメイクの悩みに沿ったメイクレッスンをさせていただいています。

——実際にグループレッスンを始められて、いかがですか?

広:少し苦労したのは、レッスンの金額設定や告知、集客の部分などですね。こういったことに関しては、私は向いていないなって落ち込みました(笑)

でも、自分でこういったレッスンを主催することで、主催者側の気持ちがよくわかりました。

今後セミナーや発表会などがあれば私も積極的に参加していきたいなと思いましたね。

——今後、広瀬さんの活動に活かしていきたい点などはありますか?

広:個人の方とマンツーマンでメイクレッスンをすることで、たくさんの気付きがありました。

私が頭の中で思い描いているものと、レッスンを受ける側とで、捉え方が異なる点があります。

レッスンをしてみて、そういったズレなどを実際に見ることができ、読者の方がメイクの何に悩んでいるのか、また、どういったテクニックを難しいと感じるか、というのがよくわかりました

——今後、雑誌でのページに活かせそうですね。

広:そうですね。雑誌でのメイク指南のページも、こういったパーソナルメイクの経験を基により良いページにしていきたいと思います。

レッスンももっとお客様に伝わる内容になるよう、最近ボイスレッスンを始めました!

——新しいことにもどんどんチャレンジしていかれているんですね。

相手の立場に立ち、感謝されることでモチベーションを保つ

——広瀬さんが、現在の仕事のスタイルが確立したのは、どういったことを続けてこられたからだと思いますか?

広:難しいお題が出ると燃えるタイプのようで、挑戦することが好きでした。

特に、他の人がやりたくないと思っていることには積極的に取り組むこともしましたね。

——例えばどういったことに取り組んでこられたんでしょうか?

広:美容師時代には、難しいオーダーをするお客様や、扱うのが少し困難な髪質のお客様にも、精一杯寄り添うことで、お客様の納得のいくスタイルを完成させてこられたと思います。
ヘアメイクになった当初は、何十本ものマスカラや口紅の塗り替えという、100本ノック的な仕事も大好きでしたよ。

美人でキラキラしているモデルさんだけではなく、一般の方のメイクも沢山してきたのですが、「どうしたら綺麗になるか」「どうしたら似合うメイクができるか」を、考え抜いて仕事しています

そうやって、目の前の壁をどんどん乗り越えてきたから、今の道ができたように思います

——広瀬さんが、“はたらく”を楽しむために必要なことはなんだと思いますか?

広:まず、“感謝すること、そして笑顔になってもらうこと”です。
美容師時代、「ありがとうと言ってもらえる仕事はなかなかない、私たちはとても幸せな仕事に就いているんですよ」と当時のオーナーに言われたことをよく覚えています。

1、2年目の頃は、接客がメインの仕事なんですが、その時も常にお客様の立場に立って、どうされたいかを考えて、それを実行していました。

「ありがとう」という言葉をたくさん貰えたので、どんどんやる気が湧いたように思います。今でも何か2択で悩んだ時は、相手が喜ぶ方を選ぶようにしています。

——感謝されることでご自分のモチベーションも上がっていくんですね。

広:そうですね。

次に、しっかりと準備をすることです。

読者に向けて提案するヘアメイクを、「どのように見せれば、わかりやすく、納得してもらえるだろうか」というのを考えるのは毎回難関です。生みの苦しみとでも言いましょうか…。

——苦しみながらもしっかりと下準備をすることが大切なんですね。

広:雑誌はスタッフみんなで作るものなので、事前にしっかりとやりたいことが見えていないと、写真と内容の辻褄が合わなくなり、後悔の多い作品になってしまいます

撮影は取り直しができない1発勝負なので、それにかけての準備はとても大事なんです。

——“はたらく”を楽しむために心がけていることはありますか?

広:相手の立場になることですね。
例えば、モデルさんは撮影現場で薄着になることが多いので、それを考慮して空調を調節するなどといった気遣いも、小さなことですが大切です。

——他には何かありますか?

広:引き出しを沢山作ることも大切だと思います。
私は常に、「どうしてこの人たちはこんなに人を惹き付けるのだろう」と、女優さんやモデルさんの目や鼻の配置、光と陰、表情などを分析しながら、テレビや雑誌をじっと見て観察しています。

そして、いざメイクする時も、その方にいる影、いらない影などを見極め、立体や、質感を操作して、お顔全体を創っていきます。

——観察することでその人の良さを見極めていくということですね。

広:そうですね。ですので、素のままで綺麗な若い女性より、色々な悩みが出てくるアラフォー以上の方をメイクする依頼が多いですね。

ほんの一筆、顔に色や影、光をのせると表情が変わるので、これは客観的に観られる第三者でなくては出来ないことだと、自信を持って仕事をしています。

——“はたらく”を楽しもうとしている方へのメッセージをお願いします。

広:本当に自分のやりたいことを仕事にしていいのか、考えてみてください。

好きでその仕事に憧れていても、それに対しての必要な力を注げるかどうか、は重要なポイントだと思います
漫画が好きで漫画家になりたくても、画を描けるだけではダメですよね。

ストーリーを考える力や構成力を習得しようとする努力を考えると尻込みしてしまうようでは続けられないのではないでしょうか。

——やりたいことの大変な部分も見極める必要があるということですね。

広:はい、そうです。そして、自分のやりたいことと、自分が得意とすることは、違ったりします

何となくやっているだけで、実は自分が得意とする分野に気づいていなかったりするパターンもあると思います。
何をしている時に周りに評価されているか、そして自分が周囲に何を求められているか、を一度考えてみれば、自分に向いている分野を発見でき、“はたらく”楽しさを見つけるヒントになるのではないでしょうか。

広瀬 あつこさん(ひろせ あつこ)
ヘア&メイクアップアーティスト
10年間の美容室勤務後、SABFA(美容専門学校)に入学。著名ヘア&メイクアップアーティストに師事したのち、2007年独立。大物女優から人気モデル、美容家まで指名が相次ぐ人気ヘアメイク。誰でも簡単に、きれいになれる方法を教えてくれると、女性誌などで多くの特集を手掛けている。2018年に初めての著書、『スマイルメイク -5歳で引き寄せ力UP!』を発売。

転載元:CAMP
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