日本の「空飛ぶクルマ」がいよいよ始動!いち早く実験を成功させたNECの狙い

NECは開発中の「空飛ぶクルマ」試作機の浮上試験をメディアに公開した。千葉県・我孫子に設置された試験場で、全長約3.9mの大型ドローンが約3mの高さまで浮上することに成功。この大きさのドローンの浮上試験は、おそらく日本初になるという。

自律制御により垂直に離着陸が可能な空飛ぶクルマの実用化に向けた動きが、今グローバルで加速している。

物流の世界ではすでに数年前から、大小様々なモノを運ぶ“物流ドローン”の実証実験が国内外で活発に行われているが、人を運ぶ”ドローンタクシー”もすでにドバイやシンガポール、ニュージーランドといった国で実証実験や試験運用に向けた準備が進められている。ついこの間まではSFの世界だった空を使った近距離移動が、いよいよ現実になろうとしているわけだ。


多くのメディアの前で、約3メートルの浮上試験を成功させたNECの「空飛ぶクルマ」


全長約3.9mで人が乗り込める大きさになっているが、有人での飛行試験は予定していないという

日本でも昨年末、経済産業省と国土交通省を中心に設立された「空の移動革命に向けた官民協議会」が、日本における空飛ぶクルマの実現に向けたロードマップを策定、公開している。ロードマップによれば2019年から試験飛行や実証実験を行い、2023年頃を目標にまずは物流、次いで地方での人の移動を実用化。2030年代からはさらにその範囲を拡大し、都市部での人の移動も実現させていくという。


2018年12月20日に策定された「空の異動革命に向けたロードマップ」。2020代半ばでの事業化を目指す。

空飛ぶクルマの機体の開発にはすでに、ベルヘリコプターやエアバス、、ボーイングといった航空業界の有名企業や大手自動車メーカー、ライドシェアのUber、ドローンメーカーのEHangなど、数多くの企業が参入している。中でも一歩抜きん出ている感があるのが、インテルなどが出資するドイツのスタートアップVolocopterで、なんと年内にもシンガポールに専用の離発着ターミナルを建設。

都市部での実証実験を開始する計画を明らかにしている。高層ビルの建ち並ぶ都市で、本当に渋滞知らずの空飛ぶ移動手段は実現可能なのか、世界から大きな注目を集めている。

一方日本でもトヨタグループなど、多くの企業から支援を受ける有志団体のCARTIVATORと、そのメンバーが設立したスタートアップのSkyDriveが中心となって、空飛ぶクルマを開発中。

今回試作機による浮上試験を成功させたNECも、CARTIVATORの支援企業のひとつだ。ではNECはなぜ、自ら機体の開発を手がけるほど空飛ぶクルマに注力するのか。NEC取締役 執行役員副社長の石黒憲彦氏によれば、その狙いは機体メーカーになることではないという。空飛ぶクルマの実用化には機体の開発はもちろんのこと、交通整理や機体間、地上間の通信、遠隔操作の妨害対策が欠かせない。NECは管制、無線通信、サイバーセキュリティといった分野で自らが持つ要素技術を応用し、空飛ぶクルマの管理基盤を提供したいと考えているようだ。


NEC取締役 執行役員副社長 石黒憲彦氏


NECは機体メーカーではなく、管理基盤を構築し各機関、企業に提供することを目指す

NECではこれまでの実績として、衛星運用技術、航空管制技術、通信・飛行制御技術、サイバーセキュリティ技術、交通管制技術などを提供しており、これらの技術を持ってフライトプランの策定から、自律飛行、機体位置の把握(GPS)、サイバーセキュリティ、無線通信、管制、状況把握といった「新たな移動環境の実現に欠かせない機能の技術開発を行い、管理基盤構築に注力していく」とNEC ナショナルセキュリティソリューション事業部 事業部長の岡田浩二氏。


NEC ナショナルセキュリティソリューション事業部 事業部長 岡田浩二氏

管理基盤を構築するためにはまず、実際に機体がどのようなしくみで、どうすれば飛ぶのか「飛ぶことを知る」ことが重要で、現在行っている機体の開発は自律飛行、機体位置の把握といった機能を検証するためのもの。

実証実験で得られた知見は機体の開発を行うCARTIVATORにも共有し「空飛ぶクルマの実現に寄与していきたい」とする一方で、そのの技術は物流業界からも注目されていて「詳しくは言えないが、すでにいくつか声をいただいていて、そちらでも展開できないか検討している」と明かした。

現在80社以上の企業から資金、部材、人材の協賛を受けているCARTIVATORの共同代表で、SkyDrive代表取締役の福澤知浩氏は、昨年末に「空飛ぶクルマ」として屋外飛行許可を取得し、さらに有人機での飛行許可も取得すべく、機体の開発を進めていると進捗を説明。

2020年には有人でのデモフライトを実現し、ロードマップ通り、2023年の事業化を目指しているという。「誰もがドア to ドアで空を使って自由に移動できる、空が大衆化される未来が来る」と福澤氏。今の電車やバス、タクシーと同じように「近い将来、乗り換え案内で空のルートを当たり前に検索できる時代が来る」と話した。


CARTIVATOR 共同代表、SkyDrive代表取締役 福澤知浩氏


CARTIVATORおよびSkyDriveが目指す公道も走れる世界最小の「空飛ぶクルマ」

なおCARTIVATORでは現在、豊田市に屋外飛行場を建設中とのこと。NECの機体はあくまで「飛ぶことを知る」ためのもので、今後も有人での飛行は予定していないが、世界ではすでに屋外での有人飛行試験がいくつも成功を収めている。CARTIVATORによる1日も早い、有人飛行のデモ実現に期待したい。


空の移動が大衆化され、誰もが気軽に利用できる時代がそう遠くない未来にやってきそうだ

撮影・取材・文:太田百合子

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