トイレやレストランなど“行動の見える化”がもたらす日本の近未来

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この数年で、じわじわと私たちの生活へ染み込んできたIoT。最近では、機器が人やモノの動きを読み取り、リアルタイムでその状況を“見える化”するなど、その強みを生かしたサービスが増えてきた。

IoTの普及率は世界的に伸びており、2014年は170.7億だった規模が、2017年には274.9億を記録している。2018年310.5億、2020年には403.0億に到達するのではないかと予想されているぐらいだ(※1)

総務省 世界のIotデバイス数の推移および予測

これまで著しい成長を見せてきた通信市場はすでにある程度成熟しているため、今後は工場やインフラ、物流といった産業用途、自動車、医療などにおいてIoTの期待が高まると考えられる(※1)。

総務省 分野・産業別のIotデバイス数及び成長率予測

そもそも人やモノの見える化についてどのような事例があるのだろうか。ここではその一例に触れながら、IoTやAIによる行動可視化の有用性、今後の未来について考えていきたい。

ビルセンサーが業務効率から従業員が働きやすい労働環境までをサポート


東芝スマートコミュニティセンター(東芝公式HPより)

まず、IoTによる労働環境改善の一例を挙げてみる。東芝は川崎市にある自社ビル内で、センサーデータを元に働く人の快適性ならびにビルの省エネを促進するための実証実験を行なった。

同実験内容は、ビル内にある約35,000個のセンサーから、人の行動や人数を検知することで、ビルの空調や照明の調整、混雑時におけるエレベーターの緩和などに挑戦したのである。

この結果として、従来と比較して54%のCO2削減、エレベーターの待ち時間を20%短縮などが報告されたというのだ。

東芝の取り組みは、そこで働く従業員が働きやすい環境を作り出すことはもちろん、自社のエネルギー効率や経費削減を達成した。こうしたIoTを活用した労働環境や効率に向けた動きは、東芝以外の企業でも少しずつ起こりはじめている。

IoT家電が在庫管理から発注をする時代

モノの見える化という観点から、Amazonが提供している”Amazon Dash Replenishment(以下、Replenishment)”というサービスを紹介したい。これは、IoT対応した家電自らが、必要な消耗品をAmazonへ注文するというものだ。普段使用しているティッシュなどの日用品、水やお茶などの飲料まで様々な生活用品がラインナップされている。

実際にReplenishmentと連動しているIoTに“スマートマット”というものがある。スマートマットには重量センサが搭載されており、事前登録した商品の質量を定期的に測定することで、在庫管理を可能とした。

Amazonの取り組みはまだまだスタートしたばかりだ。しかし、インク切れのプリンターが自身で使用量を予想して発注したり、冷蔵庫が食料の管理をしたりと、それぞれの家電が管理から受発注までを行う日がそう遠くない未来だと感じさせられる。

「レストランの混雑を見える化」センシング技術が変える飲食店の当たり前

VACAN公式HPより

大企業の実証実験や企業サービスを通して、徐々に私たちの身近なところへと入り込んできた”IoTによる行動の見える化“。実は、すでにサービスとしても利用されている。

例えば、日本のスタートアップであるVACAN(バカン)は、「いま空いているか、1秒でわかる優しい世界。」というキャッチコピーを掲げ、センシングAI・IoTを駆使したサービスを提供する。

彼らの代表的なサービスのひとつであるVACAN(バカン、社名と同様)は、導入先のレストランやカフェに独自開発したセンサーやカメラを設置し、そのデータから混雑状況を割り出す。本サービスは、横浜にあるジョイナス、高島屋といった複数の商業施設に導入実績を持つ。

VACAN公式HPより

このサービスの魅力は、お店を訪問したいユーザーは、施設内に設置されたデジタルサイネージ(電子看板)やWebをチェックするだけで、お店まで行かなくても混雑状況を確認できることだ。

ユーザーは曜日や時間毎の顧客変動といったデータを受け取ることができるため、混雑が解消できるのはもちろん、顧客の行動分析に役立つツールを手に入れることが可能となる。

これまで「行かないと分からない」とされていた部分を可視化することで、利用者がより効率的に飲食店の選択ができるようになった。導入企業も行動改善や見直しに活かせるため、Win-Winなシステムである。

トイレ難民問題もIoTで解決

バカンでは、他にもトイレの混雑状況をリアルタイムで判明させる“Throne(スーロン)”が提供されている。

ビジネスパーソンあるあるだと思うが、せっかくトイレに行ったのになぜか個室が満席で入れないということが往々にしてある。女性はもちろんだが、男性が多い職場でも同じような問題が起こっている。特に男性の場合は、個室が少ないためより深刻だ。

オフィスビルの場合、休憩と称して、従業員がトイレ内でスマホゲームや仮眠を取っているケースがよくある。これが混雑の一端と言っても過言ではない。こうしたトイレ問題に切り込んだサービスがスーロンなのだ。

空席のトイレを探す手間を省くことで従業員の生産性向上に役立つのはもちろん、トイレの利用状況を把握できることはセキュリティの面でも有用だ。もちろん、時間帯別の混雑状況などもデータ分析できる。

行動の見える化は、人々の動きをよりスムーズにするのはもちろん、お互いがハッピーな選択をする上でも重要だ。そのためには、センシングAIやIoTを駆使した“行動の見える化”やそれに関連した技術開発はますます欠かせないだろう。

Society5.0_未来の日本が目指すIoTとリアル空間の融合社会

内閣府 Society 5.0

今、政府が力を入れている政策のひとつに“Society(ソサエティ)5.0”がある。これは、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来の姿として提唱されている。

Society5.0では、IoTによって全ての人とモノが繋がることで、サイバー空間とリアル空間が融合され、これまで個別の事象として見られていた経済発展と社会課題解決を両輪に据えて行動できることが期待される社会だ。

5.0というのは、狩猟から情報とこれまで歩んできた社会基盤が5回目の転換期を迎えようとすることに由来する。

IoTをはじめ、ドローン、AI、ブロックチェーンなど、この数年間の間に脚光を浴びた技術を駆使し、利用する人々への知識的、労力的な負担を抑えたような運用を目指す。Society5.0では情報の効率化をはじめ、輸送、医療、インフラなどこれまで属人的な壁があった社会が抱える問題にトライしていく。

こうしたチャレンジングな取り組みが起こる一方で、WebカメラやルーターといったIoTを狙ったサイバー攻撃は年々増加する。

国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が公開したレポート(2017年版)によると、およそ観測できたサイバー攻撃対象の半数以上がIoT機器をターゲットにしていた。攻撃方法も従来のIDとパスワードが設定された機器への侵入から、特定の機材における脆弱性を狙ったものが多く観測されたことを報告している(※2)。

IoTによって便利な社会になる一方で、使用者側も機器の使用やリテラシー獲得する必要がある。我々は、与えられるがままにIoTを使用するのではなく、どのようなメリット・デメリットを享受するかを知っていくべきではないだろうか。

IoTに恐れず向き合う社会へ

増加の一途をたどるIoTやサービス、関連政策は、今後の日本社会の方向性や成長を示唆するものだ。同時に、遭遇する可能性のあるトラブルや問題を把握し、どのように対処していくかも知る必要がある。

ぜひこの機会に、総務省をはじめ政府や関連機関の情報を確認し、自分なりのIoTヘの向き合い方を考えてほしい。きっとこうした行動が自身の生活に気づきを与える一歩となるはずだ。

※1 総務省 第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長 第1節 世界と日本のICT市場の動向 2 IoTデバイス1の急速な普及

※2 国立研究開発法人 情報通信研究機構 NICTER観測レポート2017の公開

文:杉本愛

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