グーグルが3月に立ち上げを発表した新たなゲームプラットフォーム「STADIA」は、これまでのゲーム機とは大きく仕組みの異なる「クラウドゲーミング」を実現するものとして、関心を集めている。
すでにスマホやブラウザーで遊べるゲームが多数存在する中で、クラウドゲーミングでゲーム市場はどう変わるのだろうか。
スマホでも専用ゲーム機と同じ映像を楽しめる
グーグルが発表した「STADIA」は、クラウドゲーミングを実現する新たなゲームプラットフォームだ。その影響か、発表直後には任天堂やソニーの株価が下落する場面もあった。
そもそもクラウドゲーミングとは、ゲームソフトをデータセンターに設置したサーバー上で実行し、その「映像」をテレビやスマホに配信する仕組みだ。逆にプレイヤーがコントローラーに入力した操作は、データセンターに送られて処理される。
グーグルのシステムでは、Chromeブラウザーを搭載したスマートテレビやスマホ、タブレット、PCなどがあればプレイできる。専用のゲーム機が不要になるのはもちろん、高いスペックがないハードウェアでも高品質なゲーム映像を楽しめる。
Chromeブラウザーを搭載したテレビやPC、スマホなどでゲームを楽しめる
3Dグラフィックスを駆使した最新のゲームをプレイするには、高性能なゲーム機やゲーミングPCが必須だった。これに対してブラウザーで動作するゲームは簡易的なものが多い。最近のスマホゲームは進化しているが、専用ゲーム機に比べると表現力に限界があった。
だがクラウドゲーミングは、グーグルのデータセンターに設置された強力なサーバーで実行される。GPU性能は10.7テラフロップスと、PS4 ProやXbox One Xを大きく上回る。将来的にはグーグルが処理能力を増強してくれることも期待できる。
こうした仕組みにより、専用ゲーム機と同じ映像で本格的な3Dゲームをスマホでも楽しめるというわけだ。まずは4K解像度・60fpsをサポートしており、将来的には8K・120fpsまで想定しているというから驚異的だ。
専用ゲーム機やPCと同じ映像をスマホでも楽しめる
課題は「遅延」、YouTube連携に大きな可能性
このようにゲーム市場を激変させる可能性を秘めたクラウドゲーミングだが、大きな課題もある。それが「遅延」の問題だ。
クラウド側で動くゲームの映像は、プレイヤーの画面に届くまでの間にわずかなタイムラグが生じる。この映像を見てコントローラーを操作し、その結果がクラウドに送信される間にも、さらに遅れが生じてしまう。
グーグルはWi-Fiでネットに直結する専用コントローラーを開発するなど、遅延を減らす工夫を凝らしているものの、現時点では100ミリ秒(0.1秒)程度の遅れは避けられないようだ。反応速度が重要なゲームでは、プレイに支障が出るレベルの遅れといえる。
Wi-Fiでネットに直結する専用コントローラー
遅延の大きさを左右するのが、プレイヤーとクラウドの間の物理的な距離だ。グーグルは世界に7,500以上のクラウド拠点(エッジ)を置くという。日本から太平洋を越えて米国に接続するのではなく、日本国内のエッジを利用できれば遅延を小さくできるというわけだ。
今後、普及が見込まれる次世代移動通信「5G」では、基地局との間で数ミリ秒という低遅延が実現する。こうした通信技術の向上も、クラウドゲーミングを後押しすることが期待されている。
200以上の国や地域に7,500以上のエッジを配置する
大きな課題がある一方で、期待が高まるのはグーグルの動画サービス「YouTube」との連携だ。YouTubeのゲーム動画から「プレイ」ボタンを押すだけで、ダウンロードすることなく5秒以内にゲームを始められるという。
YouTubeのゲーム動画を見て気に入ったら、すぐにプレイできる
いま、世界ではゲームのプレイヤー以上に、ゲームの動画を見る人が増えている。だが、動画を見てプレイしたくなったとしても、専用ゲーム機やPCを揃えるのはハードルが高かった。クラウドゲーミングならすぐにゲームを始められるため、その敷居が大きく下がるというわけだ。
クラウドゲーミングが始まっても、当面の間はゲーム機やゲーミングPCと共存すると思われるものの、長期的にクラウドの比率が高まっていく可能性はある。その中で、動画サイトを巻き込みながらゲーム市場を拡大させる可能性にも期待したい。
文:山口健太