働き方改革の一つとして、AIやIoTを活用した業務の効率化がある。これについては、政府や産学あげて、さまざまなコンセプトやアイデアが進められている。

そして、今回の産学連携で、クラウドとデジタル技術を活用して漁業の「働き方改革」を目指すという試みが行われる。

近畿大学水産研究所、豊田通商株式会社、日本マイクロソフト株式会社は、これまで人手に頼っていた養殖現場での稚魚の選別作業に対し、AIやIoTなどを活用した業務効率化を図る「稚魚自動選別システム」を開発、実証実験を開始していると発表した。

AIやIoT導入で養殖稚魚の選別作業工程を効率化

近畿大学水産研究所ではこれまで、「近大マグロ」をはじめとする多くの魚種の養殖研究を行っている。その中でもマダイは近畿大学水産研究所における養殖研究の大きな柱の一つとなっているという。

現在、研究の一環として近畿大学水産養殖種苗センターでそのマダイ稚魚を生産し、大学発ベンチャーの株式会社アーマリン近大を通じて全国の養殖業者に販売している。その数は日本の年間生産量の24%、約1,200万尾にも上るという。

作業としては、これまで、稚魚を出荷する前に専門作業員による選別作業を行い、生育不良のものを取り除くなど基準を満たす魚だけを選り分けていた。

しかし、目検と手作業で行うため、専門作業員の経験と集中力が高度に要求され、作業員自身への体力的負担が大きく、自動化が長年の課題となっていた。

そこで、豊田通商、日本マイクロソフトはこの研究に参画、共同でAIやIoTを活用し、画像解析と機械学習技術を組み合わせた稚魚の自動選別システムを開発し、現在実証実験を行っている。

豊⽥通商は、近畿⼤学⽔産研究所との⻑年にわたるクロマグロの完全養殖事業も含め、研究所で⾏われている具体的な選定プロセスの知識と経験をもとに、⾃動化システムのハードウェア設計とプロトタイプ構築を行った。

一方、日本マイクロソフトは、目視作業の要件をもとにマイクロソフトのクラウドプラットフォームであるMicrosoftAzureのIoT機能、ならびにAI機能であるCognitive ServiceとMachine Learning を活⽤することで、ポンプの流量調節をリアルタイムで⾃動化するシステムを設計、開発した。

これらの技術を用いて開発中の⾃動選別システムでは、ポンプ制御の⾃動化から取り組みを始めた。

具体的にはベルトコンベア上の⿂影⾯積とその隙間の⾯積をマイクロソフトのAIを活⽤して画像解析し、⼀定⾯積あたりの稚⿂数を分析。さらに選別者の作業ワークロードを機械学習させ、作業のための最適値を割り出し、ポンプの流量調節作業を⾃動化するソフトウェアを試作した。

現在は実証実験を継続し、データの収集・分析を⾏うととともに、改良した制御システムを2019年3⽉までに本番環境に実装することを⽬指している。

畜産業界でも活発になるIoT化

テクノロジーによる作業の効率化は今回のような水産業界だけではなく、畜産業界においても活発になっている。

ソフトバンクグループのPSソリューションズ株式会社と、飼料メーカーの伊藤忠飼料株式会社、自動機械装置および省力機器メーカーのCKD株式会社の3社は、国内の畜産分野における課題解決に向け、各社が持つ技術を基に畜産向けIoTシステムを共同開発し、普及・拡大を目指すことで基本合意した。

この合意により、まずは本年秋から農業向けIoTソリューション「e-kakashi」の技術をベースにした養鶏IoT(スマート養鶏)サービスの提供を開始する。

このサービスは、「開放鶏舎」と呼ばれる形態の鶏舎に対し、各種IoT機器を取り付けるだけで鶏舎内の環境情報を管理し、作業を自動化するというものだ。

具体的な特長は、

  • IoTセンサーによる鶏舎内環境の見える化
  • IoTモーターによる鶏舎カーテンの遠隔開閉
  • モバイル飼養管理日誌

などであり、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器から飼育管理を行うといったものになる。

第1次産業における「働き方改革」の実現を

いよいよ第1次産業にもIoT化の波が押し寄せてきている。

3者は最終的に、これら⼀連の簡単な選別作業をITで⾃動化・機械化することで、作業員の業務の負担軽減や業務改善につなげるという。

さらに、作業の効率化によって、第1次産業における「働き方改革」の実現を目指す、としている。

img:NIKKEI