Eコマース購買において、送料負担の有無は無視できない項目だろう。
66%のEコマース利用者は「送料自己負担」と聞くと、購入を諦める。さらに、80%の顧客は送料が購買を決める大きな要因であると答えている。ユーザーは送料無料を求めている。
送料無料の期待に応えた最も有名な企業がAmazonだろう。プライム会員であれば配達・返品送料は無料。とりあえず家で試してから実際に購入するかを決める習慣が当たり前になった。
欧米アパレル通販における返品率が20%であるのに対し、日本では3%に留まっていると指摘されている。楽天やYahoo!ショッピングに代表される日本の大手Eコマースプラットフォームでは、一定額以上の購入でたしかに配達送料が無料になる。それでも、この数値の低さは未だ返品送料無料のニーズに応えていられない現状に起因すると考えられる。
ただ、ユニクロやGAPのように実店舗とEコマースの両方を行っている事業者には強みがある。「消費者との接点」として店舗を利用することで、商品の無料ピックアップ及び返品が行えるのだ。しかし北米では85%の小売業者が店舗を持たないため、一部の大手事業者しか商品の受け渡しを店舗で行えないのが現状となっている。
このような市場情勢を背景に、顧客の返品送料無料のニーズに応えようとするスタートアップが「Happy Return(ハッピー・リターン)」だ。
名付けて「返品コンビニ」!最寄りのショッピング・モールで手軽に返品できる「Hapy Return」
「Happy Return」は実店舗を持たないEコマース事業者向けに返品仲介サービスを提供するスタートアップだ。
あるEコマース・ショップで買い物をした顧客が商品を返品をしたくなったとしよう。そんなときは最寄りのショッピングモールでブース出店をしている「Happy Return」の店員に商品を渡せば、無料で返品作業を完了できる。返品用の段ボールを用意する必要もなく、そのまま店員に渡せば5分も経たず返品ができる仕組みだ。
顧客は週末に立ち寄る近場の大手ショッピングモールに行くだけなので、返品送料を節約できるし、面倒な箱詰め作業も不要となる。
一方、ショッピングモール側は「Happy Return」がブースを展開してくれることで、これまで訴求できなかったより多くの来客を期待できる。
そして、Eコマース事業者は別々で送られてきた返品物を一括で「Happy Return」が管理・倉庫へ発送してくれるので返品在庫管理の簡略化が図れる。
加えて、北米では返品詐欺が横行しており、市場被害規模は159億ドルにのぼるが、直接「Happy Return」の店員が顧客のIDチェック等を行うため、未然に詐欺被害を防げる確率が増すメリットもある。
北米の返品市場は2,600億ドルにのぼる。「Happy Return」の収益モデルはEコマース事業者から、1アイテムの受け取り当たり数%の手数料をもらう。毎回返品発送料を負担していた事業者にとって、一定量のアイテムを一括配送して送ってくれる「Happy Return」のモデルの方が送料負担軽減につながりお得である。
今後の収益源としては、日本のサービスでいう「Cash(キャッシュ)」のような処理・転売モデルへの展開も可能だろうし、顧客のフィードバックを収集できるマーケティングデータポイントとしても機能する可能性を秘めているだろう。
顧客、Eコマース事業者、ショッピングモールにとって三方良しのビジネスモデルを確立し、「返品コンビニ」の仕組みを興そうとしているのが「Happy Return」なわけだ。
日本のショッピングモール市場は追い風。 たった3%の返品率を改善できるか?
「Happy Return」は実店舗を持たず、ショッピングモールと共存するモデルを採用しているが、北米では2022年までに25%のモールが操業不可能となると指摘されている。
しかし日本はどうだろうか。2015年度末の日本におけるショッピングモール数は3,202店舗で33店舗増、2016年度末では3,211店舗とさらに9店舗増加している。
北米のようなショッピングモール不況の煽りを未だに受けておらず、かつ返品率の未だ低い日本では「Happy Return」のモデルが幅広く通用し、大手Eコマースプラットフォーム事業者にとっても新たなビジネス収益源となるかもしれない。
「手軽にドロップオフできて、近場で返品できる」――。そんなメッセージが十分に通用する伸び代が日本市場にあると感じる。
ちなみに日本では、アパレルEコマース『LOCONDO(ロコンド)』が配送・返品送料無料を謳っている。しかし、オンライン顧客が未だ返品することに心理的な障壁を感じ、返品の普及が進まないのも返品率の低さの要因の1つだろう。
この点「Happy Return」を使えば、直接店舗で返品できるので、わざわざ配達業者を呼ぶ必要がない。このモデルに改めて強く魅力を感じるし、日本の小売業を促進させる起爆剤となる仕組みになるだろうと予見する。
img : Happy Return, Peverus