フードデリバリーサービス「UberEATS」が東京に上陸してから約1年が経つ。

当初は送料無料や割引きクーポンにつられてUberETASを利用していたが、その使いやすいユーザーインターフェイスや、選べる店舗の幅広さなどに惹かれ、送料が有料になった今でも日常的に利用してしまう。

配達可能なエリアも徐々に拡大され、街中でUberEATSのバッグを背負って自転車を漕ぐ配達員の姿を見かけることも多くなった。「UberEATS」以外にも様々なデリバリーサービスが登場している。「デリバリー」は注目の領域だ。

新たな黒船は、シンガポール発の「買い物代行サービス」

LINEによる出前注文サービス「LINEデリマ」や、食料品や健康・美容用品、ベビー用品、ペット用品などの日用品・雑貨を購入できる「Amazonフレッシュ」など、従来の通販を超えたデリバリーサービスが広がりを見せている。

2017年は自宅にいながらにして、スーパーでの夕食の食材買い出しや、行列必至の有名飲食店の出前注文ができてしまう時代となりつつある(首都圏を中心に、だが)。

そんなデリバリーサービスに、新しいスタイルの仲間が加わった。2017年7月21日に東京でサービスを展開し始めた、買い物代行コンシェルジュサービス「honestbee(オネストビー)」だ。

honestbeeは2014年12月にJoel Sng氏、Isaac Tay氏、Jonathan Low氏の3名によりシンガポールで創業。2015年7月にシンガポールでサービスインし、創業1年足らずでシンガポールの複数VCから1,500万ドルの資金を調達した。

その後の2年間で、台湾、香港、インドネシアへと事業を展開。日本においては2015年~2016年に北海道のニセコでテスト販売を行い、東京での正式サービスインに至った。

2017年5月にマレーシアはクアラルンプールで行われたWild Digital Conferenceで「スタートアップ・オブ・ザ・イヤー」を獲得したことからも、事業への期待や評価の高さを伺わせる。

同サービスは、Webサイトもしくはスマートフォンアプリから商品を選んで注文すると、コンシェルジュが店舗に足を運び、買い物を代行。買った商品を配達専用スタッフが指定した住所まで届けてくれる。

買い物代行の対象となる店舗は、コストコやナショナル麻布といった「スーパーマーケット」、スペシャルティーコーヒーやお茶、松坂牛といった特定の食品を扱う「専門店」、築地に店を構える問屋などの「築地フレッシュ」、種植えから収穫までのプロセスにこだわりを持っているパートナー農家から、輸送費と梱包費用を抑え、より新鮮な状態で果物や野菜を購入できる「産地直送」の4カテゴリだ。

買い物代行スタッフは「ショッパーBee」、配送スタッフは「デリバリーBee」と呼ばれ、役割が分かれている。honestbeeの求人情報をチェックしてみると、前者には買い物好きで品質を見極めるスキルが求められ、後者には車の免許が必要になる。それぞれに求められるスキルが異なるため、ショッパーBeeとデリバリーBeeで役割分担を行うと考えられる。

受け取りの住所によって利用可能な店舗は異なり、店舗ごとに配達時間も異なるが、注文から最短1時間以内で自宅に届き、時間指定も可能だ。

サービスの利用範囲は買い物代行だけに留まらず、「UberEATS」や「LINEデリマ」と同様にレストランをはじめとした飲食店からのデリバリーサービスも提供されている。

掲載されている飲食店は、全てhonestbeeのスタッフが試食を行っている。試食の結果、厳選した人気レストランやお惣菜屋さんなどの料理を掲載している。配達を担当するのは、デリバリーBeeだ。

専門コンシェルジュが複数店舗を回りながら買い物を行う

honestbeeのメインサービスであるスーパーでの買い物代行には、ネットスーパーと大きく異なる点が2つある。

一つ目は「複数店舗での買い物が可能」という点だ。従来のネットスーパーでは、そのスーパーの商品のみを配達することに限られていたが、「honestbee」では代行スタッフが店舗を回ることで、複数のお店での買い物を依頼することが可能だ。「スーパーでの買い物帰りに、もっと良質な肉を扱っているお肉屋さんに寄ってもらう」といった利用方法ができる。

二つ目は専門家である「コンシェルジュ」が買い物を代行してくれる点だ。注文時にコンシェルジュに「お肉は脂身の少ないものを」「粗めにお肉を挽いてくれるよう、肉屋さんにお願いしてください」など具体的な指示を出すこともでき、在庫切れの時などには電話で直接相談することも可能だ。

同サービスのサイトによると、コンシェルジュは「最高の生鮮食品の選び方、消費期限の確認方法、最適な代替品の提案法、さらには商品を適切に梱包する方法に関する研修を受けています」とのことで、目利きとしての能力を期待できそうだ。

コンシェルジュが複数店舗を回りながら、ユーザーの細かな要望を汲み取ってくれたり、現場判断で一番いい食材を購入してきてくれる。柔軟な買い物対応がhonestbeeの魅力だ。

小売店とのレベニューシェアを行うビジネスモデルを導入

2017年7月のサービス開始時は「港区、渋谷区、目黒区、品川区、及び千代田区の一部エリア」を対象にサービス提供がスタート。その後、世田谷区や大田区も配送可能エリアに加わった。

競合サービスのUberEATSが徐々に配送可能エリアを拡大していったように、honestbeeも着々とその対象エリアを拡大していくだろう。

ユーザーがhonestbeeを利用する際には、商品代に加えて手数料と配送料を払う必要がある。国内で生鮮食品とレストラン等からのデリバリーに共通してかかるのは、手数料490円と、配送料490円だ。

コンシェルジュに複数店舗での買い物を依頼する場合、手数料は店舗ごとにかかる。1店舗ごとに3,000円以上の買い物をすれば、配送料は無料になる。注文が集中するピークタイムには、最大200円の追加配送料がかかる。手数料や配送料がかかることを考えると、金銭的に余裕のあるユーザーが利用することが多そうだ。

サービス開始当初はコンシェルジュ料金は無料、1,000円以上の利用の場合は、デリバリー料金も無料になっていた。これはUberEATSがサービスを利用開始した時に「送料無料」の戦略を取ったように(今は一律380円かかるが)、注文にかかる費用を抑えることで、初期のサービス利用者数を増やす狙いだ。
※2017年10月現在ではコンシェルジュ料金、デリバリー料金ともに490円ずつ必要になっている

hobestbeeは小売店とのレベニューシェアを行うビジネスモデルを導入しているため、地道に提携店舗を開拓し、利用するユーザーを増やすことで収益化を図っていく。

honestbeeは提携店舗を増やす戦略の一環として、2017年9月1日に東急電鉄との業務提携を発表している。東急電鉄によるホームコンビニエンス・サービス「東急ベル」が地元商店街などの店舗を開拓し、honestbeeの加盟店を増やすという狙いがある。

これからのデリバリーサービスには“柔軟さ“が求められる?

honestbeeを使おうとすると、コンシェルジュ手数料と配送料だけで約1,000円かかり、他のデリバリーサービスと比較して、一回の注文あたりの合計金額が高くなりやすい。だが、スーパーや専門店などを複数まわり、欲しいものを全て買い揃えてくれる代行サービスは、子育て中の共働き世帯や、仕事で忙しいビジネスパーソンなどが利用すると考えられる。

買い物代行サービスがあり、ネットショップもある。これから先、自ら買い物に足を運ばなければならない場面は減っていくだろう。だからといって、「買い物」という体験が人々の間から消えるわけではない。

家事代行と同じように、“自分がやらなくてもいいこと“をアウトソースすることで、日常生活に余裕がうまれる。買い物代行サービスが普及していけば、日用品の買い物に出かける行為だって“趣味“のようになるかもしれない。

honestbeeは配達員に対して、欲しい商品がなかった時に「代替品の提案」などを細かく指示することができる。単に商品の配達を依頼するのではなく、コンシェルジュにまるで“おつかい“をお願いするような体験は、他のサービスにはないものだ。

細かなやり取りが多く発生すると、サービスとして複雑になりやすい。だが、そのやり取りを通じて、honestbeeはユーザーの「商品を選ぶ楽しみ」や「買い物をする楽しみ」を残したまま、買い物代行を実現できているのではないだろうか。

img : honestbee

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