昨年、久々に海外旅行をした。行き先はアメリカのポートランド。Airbnbで基本の宿を探し、1泊だけAce Hotelにも宿泊した。

安価で気兼ねなく泊まることができるAirbnb。かっこいい内装とおいしいレストラン、コーヒーショップを内包するAce Hotel。対照的ではあるけれど、どちらも魅力的で、現代的だった。

これまで、この2つは離れたところでサービスを展開していた。だが、その状況も変わりつつある。ラグジュアリーホテルとAirbnbが、お互いが得意とする領域に進出しようとしている。新しい価値と低価格を打ち出すラグジュアリーホテルと、富裕層を取り込もうとするAirbnb。

生き残るのはどちらになりそうなのか。今回は、それぞれの動きを見ていってみよう。いち旅行者としては、どちらも生き残って、どちらも楽しめる未来になると嬉しいのだが。

新しいラグジュアリーは充実したコミュニティスペース

ニューヨークにオープンした「Public Hotels」は、新時代のラグジュアリーホテルだ。コンセプトは「Luxury for all(全ての人にラグジュリーを)」。現代において「ラグジュアリーとはなにか?」を、ソフト面、ハード面ともに真剣に問い直し、設計されている。

Public Hotelsのコミュニティスペースは、高速のWi-Fi環境と、コワーキングスペース、イベントを開催できるスペースなど、様々な機能が備わっている。Public Hotelsには、高級レストランだけでなく、持ち帰りも可能なオーガニックレストランもある。

ここまでなら、従来のホテルと変わらない。Public Hotelsは、求められる質の高いサービスを提供する代わりに、現代において不要と思われるサービスは潔く削減している。

例えば、チェックインはスマホを通じて行われ、スマホがルームキーの代わりにもなる。荷物を持つベルボーイや、困ったことをなんでも解決するコンシェルジュはいない。人件費を押さえることにより、近隣のラグジュアリーホテルよりも安価にすることができた。1泊150ドルという価格は、近隣のAirbnbと同じ程度の値段だ。

富裕層向けラインによって、客層を広げるAirbnb

Public Hotelsがラグジュアリーを追求しながらAirbnbと同程度の宿泊価格を目指す一方で、今まで、安価でクリエイティブな旅の代名詞であったAirbnbが、客層を広げ、富裕層へのリーチを狙っている。

Airbnbは高級バケーションのレンタルを仲介するLuxury Retreatsを買収。年内に富裕層向け新サービス「Airbnb Select」をスタートさせる予定だと、2017年2月にBloombergが報じた。

カナダのモントリオールに拠点を置くLuxury Retreatsは、Airbnbよりもラジュアリーなレンタル物件を紹介しているサービスで、全世界に4,000以上の取扱物件がある。

「Airbnb Select」は、チェックリストに基づき担保された高品質な物件を紹介するサービスで、Luxury Retreatsが持つ高級物件も活用し、よりラグジュアリーな宿泊体験を提案するものと思われる。

Airbnbは、物件のホストから3%、ゲストから5~15%をそれぞれ手数料として徴収しており、2016年の収益は17億ドルで、利益は1億ドルを超えた。Airbnb Selectは、高級路線であるため、宿泊費も高く、増収を見込める。

Airbnbが今までリーチしてこなかった富裕層をターゲットにしたサービスがどうなるか、非常に興味深い。

宿泊体験を受動的に楽しむか、能動的に楽しむか

ラグジュアリーホテルが必要なサービスに絞って低価格化を図る一方で、高級路線に乗り出すAirbnb。互いが得意とする領域に進出しつつあるが、Airbnb Selectは、あくまでも豪華な物件を掲載するという仲介業にとどまっているようだ。そこから、新たな提案は感じられない。

一方、Public Hotelsは、コンテンツの見直しと、ゲストに対して新しい提案がなされている。この先、同ホテルは宿泊者だけでなく、地域のクリエイターやフリーランスなども集まり、ラウンジやレストランなどがクリエイティブを生み出すハブになっていくだろう。この使い方は、ミレニアル世代のシェアやインターネットとの付き合い方にマッチしている。

空間として使い方はPublic Hotelsのほうがより踏み込んだ提案だ。実際、私自身もPublic Hotelsにとても興味を持ったし、泊まってみたいと感じる。

Airbnbが勝てるとするならば、その物件が置かれている土地、街そのものをコンテンツとして捉え、提案できるという点にあるのではないか。ただ高級な物件というよりも、例えば、お城や昔の有力者の屋敷など、その土地に根付く由緒ある高級物件を宿泊できるようにして、その街の文化や、店、食を楽しんでもらえるようにできれば、ホテルには真似のできないサービスを提供できる。

Airbnbは2016年から現地の体験を楽しんでもらうための動きを始めている。旅先での体験やスポットを紹介するTripというサービスだ。このサービスは、現地でのアクティビティを掲載し、ローカルのコミュニティに参加する機会を提供することが狙いだ。

Airbnbのアプリを開いて調べてみると、東京では習字や生け花、握り寿司体験が人気のようだ。その土地ならではの体験を提供できることがAirbnbの価値だし、今後もそこを強みにサービスを展開していってもらいたい。

Airbnbも次世代型のラグジュアリーホテルも、街づくりや観光を次のステージへと押し上げるきっかけになるものだ。パックツアーと違い、ミレニアル世代の旅は臨機応変。どちらか一方ではなく、どちらの選択肢もあることが、その街や地域の魅力となるはずだし、ミレニアル世代に支持されるだろう。

img : Public Hotels, Breather, David Hellmann